rsbs日誌#28

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　ハヂマリ。

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#rsbs日誌　麗らかな晴天。波も穏やかで風もない。駆ける潮風のなんて心地いいことだろう。白い泡と波で描かれる航跡は、海原と言う大きなカンバスに刻まれた一筆の芸術。岩礁の岩々を右へ左へ駆け抜けて、開けた波間に理屈は不要。機関いっぱい全力全開。駆逐艦島風は海を疾った。

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#rsbs日誌　提督から与えられたセーラー服(吹雪型の物)を翻し、彼女はこの広大な母なる海を駆ける喜びを全身で味わっていた。今日はご近所の鎮守府への卵の宅配。行きはゆっくり丁寧に。帰りは空荷。咎めるものは何もない。だからこそ、波と戯れ、岩礁をコーナーパイロン代わりに攻め遊ぶのだ

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#rsbs日誌　そして今はラストスパート。ゴール目標に定めた小島まであと少し。私物のストップウォッチは快調に秒針を踊らせ、示すタイムは自己ベストを更新出来るだろう。なんて気持ち良いのだろう。こんなに穏やかな海を思い切り走って、己の限界をまた越える事が出来ただなんて。

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#rsbs日誌　気持ちを緩めずにただ真っ直ぐに突き抜ける。機関は快調、スクリュもブレがないし舵が駄々を捏ねる様子もない。いける！ささやなか、自己鍛練もかねたこのタイムアタックを気持ちのいいまま終えて鎮守府に帰れる。そう思った瞬間だった。

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#rsbs日誌　一筋の黒い風が、島風を追い抜いていった。世界が酷く遅くなる。不思議と、島風には明確に見て取れた。重巡リ級が此方を笑いながら追い抜いていくのを…　そして、水飛沫を立てながら、重巡リ級は島風の瞳に己の背中をアリアリと刻み付けながら遠い遠い海の彼方へと消えていった…

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#rsbs日誌　島風は驚いた。拡張艤装が知らせる今の自分の航行速度はトップスピードだ。いや、むしろ設計速度よりも５ノットもオーバーしている程の速さだ。だと言うのに、全力なのに、あの重巡リ級は『易々と』自分を抜いていったではないか。信じられない。帝国海軍最速の自分が、である

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#rsbs日誌　「……っーーぅぅぅ…！！」歯を噛み締める。手が痛い程に握りしめ、体をワナワナと震わせた。目尻に涙を溜め、そして…咆哮した。「馬鹿ヤロォォォォッッッ！！」あまりの叫びに、すぐ近くからびっくりした魚が一匹、ぱしゃりと海から飛び出した…

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#rsbs日誌　島風は目を赤く腫らせて鎮守府へと帰投した。艤装を装備品倉庫へと確かに収納し終えるとお気に入りの赤いスニーカーに履き替え、クラウチングスタートを掛ける。一歩踏み出すだけで『ドンッ！！』と空気を震わせ、彼女は鎮守府の中を駆けた。目的地は提督の居る場所に。

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#rsbs日誌　島風は瞬く間に執務室の前にたどり着き、木で出来た扉をノックした。息は一切乱れていない。まるで歩いてきたかの様に…「島風です、失礼します！」…がしかし、言葉を掛けるも何時もならば直ぐに返ってくる返事が無い。悪いとは思いつつも島風は扉を無言で開けた。中は空だった。

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#rsbs日誌　「おや…島風じゃないか。空っぽの執務室でどうしたんだ」段ボールを抱えた菊月が通り掛かり、彼女に声を掛けた。「提督知らない？会いたいの！」「提督なら工廠で研究中らしいぞ」「ありがとう！」感謝を述べ、彼女は再びクラウチングスタートを掛けて飛び出していった。

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#rsbs日誌　「相変わらずのダッシュ力だな…そんなに世界を縮めたいのか？」菊月の呟きは島風に届く事無く、廊下の空気へと融けていった…「気を付けろよ島風。その昔兎は己の俊足によって身を滅ぼしたのだから…」菊月は言いたいことを言い終えるとそのまま何処かに消えていった…

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#rsbs日誌　…暫しして。風よりも早く疾風さえも振り切って島風は工廠へと辿り着き、ふらふらと中を歩いた。工廠は外観だけでも十分に広かったが、同時に提督の魔法で内部空間を更に拡張されていた。工廠妖精に詳細な居場所を聞いても、実際に中々探し出すのには骨が折れるのだ。

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#rsbs日誌　そして漸く、見つけ出した。提督は他の艦娘らと共に、耐圧耐爆耐衝撃シェルターの前に陣取っていた。提督が指示を出す。「…よし、これより通常運転から高負荷運転へと移行する。妖精諸君、出力９０％までアップじゃ。」耐圧実験シェルターの中から、甲高い回転音が響いてきた

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#rsbs日誌　「異常振動、あらへんか？タービンシャフトのベアリングに問題は？部分的に加熱したりはしとらんか？」龍驤の言葉に妖精さんたちは大丈夫、と言う報告を返す。分厚く頑丈なワイヤーガラス越しに見える新型タービン機関は、快調に回転している様だった。「順調やね」「うむ…」

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#rsbs日誌　首肯した提督が、更なる指示を出した。「機関出力１２０％へ。その後は限界を試す。ぶっ壊れるまでぶん回し続けるのじゃ」彼女の指示にしたがい、出力テレグラフが１２０％にまで跳ね上がる。余りに甲高くてまるで泣き女…バンシィの様な、悲鳴の様なタービンサウンドだ…

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#rsbs日誌　「出力良好なれど振動激しいです！」「シャフトのベアリングに過熱確認！」データと妖精からの報告をカリカリと開発ノートに書き込みながら、夕張はほくそ笑んだ「これが限度ですね。このタービンの」「非常用の緊急出力としてなら十分じゃろう。では諸君、限界テストじゃ」

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#rsbs日誌　ゆっくりと出力テレグラフの指針が更なる高みへと引き上げられ、それに連なってタービンの回転数と回転音も高まっていった。同時に異音が混じり始め、やがて痛ましい金属音が聞こえ出すと、激しい金切り声の様な破壊音と共に、実験シェルターの中のタービンは息を引き取った…

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#rsbs日誌　「ぁー…何時聞いても嫌な音じゃなぁ。主機がぶっ壊れる音と言うのは…わしもタービンエンジンじゃったし」「慣れへんよなぁ。こればっかりは」「お臍の下の辺りが嫌な感じにキュってなりますよね」「わかるわーそれ」やんややんやと喋る三人の会話が終わるのを島風は待ち続けた。

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#rsbs日誌　「おう、待たせたみたいじゃな島風。どうしたんじゃ？目尻を赤くして。鬼が童に追われたか？うん？」作業着のツナギを着た提督が懐からハンケチと水筒を取り出して、島風の腫れた目尻を冷やしてやった。「んひゅ…提督、私、お話があるんです」「なんじゃ。言うてみい」

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#rsbs日誌　「…っ…！悔しかった！凄く悔しかった！涼しい顔で追い抜かれたのが！私、もっと速くなりたい！負けたくない！このまま、負けたままでなんか居たくない！私の、たった一つのプライドが許せないんだもん！」泣きながらに島風は心中をさらけ出した。少女の慟哭に、皆の作業が止まる。

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#rsbs日誌　俄に静まり返った工廠の一角に、僅かに少女の嗚咽が響く。暫くの間、島風はぐすぐすと泣きじゃくった。さらけ出した感情が涙をこんこんと溢れさせるのだ。そして…ぽん、と…小さい割りに、酷く包容感のある手が、島風の頭を撫でた。泣き止むまで手は優しく撫で続けた。

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#rsbs日誌　「島風や」その外見年齢からは計り知れない程の老獪した声で、提督は話し掛ける。「お前さんの気持ちはよぉく分かったのじゃよ。遅いと馬鹿にされる物の気持ち、悲しかろう？」「…っ…うん…うんっ…」「挑戦し返してやりたいかや？其奴に」「したいﾞっ！」島風は返事をした。

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#rsbs日誌　「ならば、わしと契約しよう。じゃがな島風よ。お主は何人よりも速い韋駄天の足を手に入れる事じゃろう。じゃがしかし、それはわしらの、『我々の』世界へと足を踏み入れる事になるじゃろう。一歩間違えれば、お主は大火傷に大怪我じゃ。それでもよいな？」「勝てるなら、いい！」