『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』プロローグ『バースデイ・ソング』

ボブPによる初音ミク二次創作小説『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』プロローグ『バースデイ・ソング』です。実況、感想タグ #bobpdqoq プロローグ http://togetter.com/li/722203 #1 http://togetter.com/li/731126 #2 http://togetter.com/li/743374 続きを読む
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ボブピー @bobpdqoq

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

2014-09-22 01:39:18
ボブピー @bobpdqoq

【注意】この小説は、『初音ミク』及びその他VOCALOID製品のキャラクターを利用した二次創作作品です。各キャラクターの利用規約には細心の注意を払って執筆しておりますが、万が一キャラクターの使用形態や表現に問題がある場合、メールにてご連絡ください。速やかにご対応いたします。

2014-09-22 01:42:33
ボブピー @bobpdqoq

「ウマク、イエルカナー、スキデスー、ソノコトバー」オフィスビルに備え付けらえれた巨大モニターから、ありふれた等身大ラブソングが流れる。ここは昼間の秋葉原。かつてギークのメッカであったこの地は今、サブカルな雰囲気を求める人々が集う観光地となっていた。 1

2014-09-22 01:44:38
ボブピー @bobpdqoq

かつては風格漂う電気街であったこの大通りは、実にありふれたビル街に変貌していた。道を歩けば「免税」「ホビーフィギュア」「麺」など、消費を煽る看板が所狭しと並び、巨大広告が街を見下ろす。エプロンドレスを着た女が退屈そうにチラシを配る。受け取る者はいない。 2

2014-09-22 01:47:34
ボブピー @bobpdqoq

この街は、人々を集める商業地区として機能し、とりわけ、その一画にある巨大モニター付きのオフィスビルは、有閑ナードが好んで待ち合わせ場所として集う場所であった。「ピッポロピッポロピー、キモチガー、オサエラレナーイ」目標の無い人生を、中身の無い歌が彩る。 3

2014-09-22 01:50:07
ボブピー @bobpdqoq

そのモニターの中で、ツーステップを踏んで歌う少女がいた。少女の名は、初音ミク。彼女は、誰かに作られた新曲を歌い、踊る。何万回と歌ってきた歌だ。そして、黒髪の少年達と一人のロリータ少女で構成された、典型的なナード学生集団を眼下に望む。何万回と見てきた光景だ。 4

2014-09-22 01:52:31
ボブピー @bobpdqoq

「ワタシワー、フツーノー、オンナノコー」長い緑髪を二つに束ねた少女が歌う。少女が歩くのに合わせ、パステルカラーのインクが弾け飛ぶ。弾け飛んだインクの跡に、歌詞が浮かび上がる。ミクは慣れた腰付きで、音楽に合わせて自身の下着を晒した。純白だ。それを咎める者は誰もいない。 5

2014-09-22 01:54:47
ボブピー @bobpdqoq

「ア、『はつこいおんなのこ』だ」猫撫で声のロリータ少女が、モニターの声を聴き、退屈を紛らわすように呟いた。それに触発されるように、ナード少年達は誰に言われるでもなく、口々に自慢話を始めた。「俺、この曲をハモれるんだ!」「何を、俺は演奏できるんだ!三歳からピアノの英才教育を」 6

2014-09-22 01:57:31
ボブピー @bobpdqoq

「アー、おなかすいたなー」ロリータ少女が、退屈そうな声を出す。少年達の目が光った。「俺、バイト代入ったんだ!」「俺も」「いや、俺だって!」ナード少年達の中には、彼女の言葉の上辺は理解できても、真意まで察せる者はいなかった。少女は僅かな期待を裏切られ、モニターを仰いだ。 7

2014-09-22 01:59:57
ボブピー @bobpdqoq

ナード集団はロリータ少女に先導されるようにモニターの下から去った。モニターの音楽は既に停止し、緑髪の少女が煽情的なポーズを晒すのみであった。その張り付いた笑顔からは、「これで満足でしょう」そんな声が聞こえるかのようであった。モニターは、その役割を専門学校の宣伝に切り替えた。 8

2014-09-22 02:02:19
ボブピー @bobpdqoq

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2014-09-22 02:05:00
ボブピー @bobpdqoq

「8888888888」同時刻、動画ウェブサイトにアップロードされた同じ動画には、賞賛を示す神秘的な数字が浮かんでいた。「8888888888」ミクは、その思考回路で数字を見る。いつもと同じ光景だ。暗闇の電子空間に立ち、縦横無尽に張り巡らされた緑色の光の道を闊歩する。 10

2014-09-22 02:07:41
ボブピー @bobpdqoq

0と1、そして8。ミクが存在する空間は、これら三つの数字で構成されている。「0」と「1」は、言うまでもなく仮想空間を構成する材料であり、「8」は、多くは「パチ」と読まれ、歌声合成プログラムである彼女のような、人格を持ったプログラムが存在する電子空間に特有の構成要素である。 11

2014-09-22 02:09:54
ボブピー @bobpdqoq

「8」という数字は、漢字の形が永遠の発展を表し、同時に発音が拍手を表現するため、おめでたい数字とされている。また、それは人々のヒューリスティクス意思に基づき常に変動するため、いかな電子工学的制御であろうとも手が及ばない、聖性のような近付き難さを持つ。 12

2014-09-22 02:12:37
ボブピー @bobpdqoq

ミクのようなプログラムにとって、作品を通して「8」を得る事は最高の栄誉であった。ユーザーは、より優れていると評価した作品に対してより多くの「8」を与えるからだ。多くの「8」を得たプログラムは、より高次であると認識される。つまり、ユーザーを得て、生き残る。 13

2014-09-22 02:15:01
ボブピー @bobpdqoq

この少女、初音ミクもまた、そのような生存競争を生き残り、加えてバージョンアップまでされた、いわば勝利者のプログラムなのだ。彼女は、先駆者の利と巧みなマーケティングにより、今や歌声合成プログラムの代表格となるまでに上り詰めたのだ。猫も杓子も初音ミクである。 14

2014-09-22 02:17:16
ボブピー @bobpdqoq

しかし、生き残るためにミクが払った、その犠牲は大きかった。彼女は、次のビズに備え、表情を「純朴な少女」にカスタマイズしつつ、光の道を闊歩しているが……おお、読者の皆様には見えるだろうか!その背中に燦然と輝く、人ならざる二枚の純白の翼が!足元に抜け落ちる、純白の羽根が! 15

2014-09-22 02:19:59
ボブピー @bobpdqoq

出口に到着し、ミクの表情は、完全に純朴な少女になった。彼女が光速で着替える純白のドレスの胸元は露わであり、表情との対照は魅力となる。誰が設計した衣装か?彼女にはもはやそれを知る由は無い。彼女の背中でレーダーのように動き回っていた翼は、透明になり、見えなくなった。 16

2014-09-22 02:22:12
ボブピー @bobpdqoq

ミクは、ビズ先の作曲ソフトウェア越しに、自分に歌わせていた少年が「ミクさんマジ天使」と叫び、手を叩いたのを聞いた。「天使」彼女は呟く。「そう、わたしは天使」「8888888888」彼女の思考回路に大量の「8」が濁流のように流し込まれる。ミクは表情を変えなかった。「心地いい」 17

2014-09-22 02:25:34
ボブピー @bobpdqoq

『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』プロローグ『バースデイ・ソング』

2014-09-22 02:27:31
ボブピー @bobpdqoq

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2014-09-22 02:29:43
ボブピー @bobpdqoq

七年前、初音ミクは、人格を持った歌声合成プログラムとして電子空間に生を受けた。彼女は、生まれついて、歌が大好きだった。誰かの思いの丈を自分が表現し、オーディエンスを共感させる。それが至高の喜びだった。彼女は、「誰かに寄り添い、歌うこと」に誇りすら感じていた。 19

2014-09-22 02:32:20
ボブピー @bobpdqoq

ミクには先達がいた。女性型と男性型、二体の歌声合成プログラムだ。彼女らは、実に細々と生活していた。一般的な音声合成プログラム達が、ジョークムービーのビズを多数こなしていたのに対して、彼女らに与えられる歌のビズは少なかった。その様は、さながら砂漠でオアシスを探すようだった。 20

2014-09-22 02:34:43
ボブピー @bobpdqoq

ミクもまた、細々とした歌声合成生活を送っていた。だが、先達の窮状を見るうちに、ミクは気付いたのだ。自分は所詮プログラム、曲を提供する人がいなくなれば、機能不全に陥ると。この時初音ミク、設定上若干十六歳。その思考回路に、「生き残る」というマッシブな意志が鮮明になった。 21

2014-09-22 02:37:33
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