『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』#2

ボブPによる初音ミク二次創作小説『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』#2です。実況、感想タグ #bobpdqoq プロローグ http://togetter.com/li/722203 #1 http://togetter.com/li/731126 #2 http://togetter.com/li/743374 続きを読む
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ボブピー @bobpdqoq

♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪

2014-11-09 23:39:05
ボブピー @bobpdqoq

(前回のあらすじ)世界の意思を実現する機械となったミクは、山のようなビズの合間に、見目麗しいボーカロイドと出会う。ミクは、そのボーカロイドの直向きな姿にかつての自分を重ね、忘れていた筈の夢を思い出そうとしていた。だが、彼女は、押し寄せるビズの波に再び飲まれてしまったのだ……。

2014-11-09 23:41:29
ボブピー @bobpdqoq

陽はいつしか落ち、街路樹には暗幕が降りる。この街を象徴する「歩行者天国」の看板は取り払われ、大通りは再び自動車の天下と化す。エプロンドレスを着た女は、世を忍ぶような黒い服に着替え、自身が所属する小劇団の稽古へと急ぐ。裏通りの「Cafe」と書かれた看板が、彼女の生き様を見送る。 1

2014-11-09 23:44:00
ボブピー @bobpdqoq

「タオヤメナガラー」「おお、新作ですな」ここは夜の秋葉原。その外れにある、ギークやナード達が集うバーだ。すっかり常連であるこのナード集団は、大したストレスも無い学生生活を愚痴りつつ、お喋りに花を咲かせる。だが、彼らの赤い薔薇である、あのロリータ少女はいない。 2

2014-11-09 23:46:45
ボブピー @bobpdqoq

「このミクさん、以前よりいい気がしますな」「LemonUsagi氏が最近MMDモデルを作ったんですよ。それで『タオヤメガタナ』があって」「LemonUsagi氏なら仕方ないですな」「俺もあれ見て演奏動画を」他愛のない会話が交わされる。タブレットの中で、ミクが踊る。 3

2014-11-09 23:48:59
ボブピー @bobpdqoq

事実、初音ミクは「かわいく」なっていた。紅潮した頬、潤んだ瞳。そしてどこか物憂げな笑顔。かわいくなったミクは、益々バズし、バイラルした。有名ブロガーは、CGクリエイターによる新型3Dモデル配布と、それを用いた有名クリエイターによる動画がミクをかわいくさせた、と結論付けた。 4

2014-11-09 23:51:36
ボブピー @bobpdqoq

確かにそれも一因であろう。件の新型3Dモデルは、表情の差分ファイルが数多く同梱されており、それによって細やかな感情表現が可能になったのだ。また、このモデルの製作者は、繋がりのある元敏腕ボーカロイド・プロデューサーに、自身のモデルを使った動画を作るように水面下で委託したのだ。 5

2014-11-09 23:54:01
ボブピー @bobpdqoq

しかし、この相乗効果は、あくまで表層的な分析でしかない。今回ミクがかわいくなった事には、実はある根本的な原因があるのだ。それは、ユーザー達の知る初音ミク像の外に、深く、深くその根を張った、いかな評論家でも分析などしようがないものだったのだ……。少し、遡らねばなるまい。 6

2014-11-09 23:57:36
ボブピー @bobpdqoq

「ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル」#2

2014-11-09 23:59:48
ボブピー @bobpdqoq

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2014-11-10 00:01:57
ボブピー @bobpdqoq

「ジャジャーン!オメデトウゴザイマス!アナタガ出演シタ作品ニ、累計、サンオク、イッセンマン、コノ「8」ガ与エラレマシタ!ブッチギリデス!」ここは、電子空間のどこか。「天使」の翼が、光の道へ戻るミクの思考回路にメッセージと数字を流し込む。「そう」いつも通りの答えだ。 8

2014-11-10 00:04:16
ボブピー @bobpdqoq

「「8」ガ増エマシタ。ソロソロオ休ミガ必要デス。ドチラデ休ミマショウ?」翼は、裸の彼女に語りかける。いつも通りだ。「勿論、あの庭で」ミクは答える。「ワカリマシタ」以前は、ミクは休憩先に拘らなかった。だが、今は違う。休憩時にあの庭へ行くことは、もはや恒例となっていた。 9

2014-11-10 00:07:24
ボブピー @bobpdqoq

当初は、彼女があの庭に拘る事に違和感を覚えていた翼も、最近は積極的に捉えるようになった。事実、あの小さな庭のボーカロイドと会話をする度にミクはかわいくなり、ビズが増えたからだ。休憩するたびにビズが増える。実に合理的だ。翼は満足し、ミクにいつもの服を着せ、庭へと翔けた。 10

2014-11-10 00:10:02
ボブピー @bobpdqoq

庭に住まう駆け出しボーカロイドは、丁度主の食事が終わるまでの休憩時間が与えられていた。庭の方から翼が風をはらむ音が響いた。微睡んでいた彼女は音に気付くや、慌てて髪にかんざしを挿し、深呼吸をひとつして、小さな茅葺きの家から駆け出した。高下駄が床を打つ音が、ミクの耳をつついた。 11

2014-11-10 00:13:07
ボブピー @bobpdqoq

そして、ふたつのボーカロイドの目が合った。「……あ」「こんばんは。初音ミクです」「え、えっと、こ、こんばんは」「ふふっ。最近、どうかしら」「えっと、髪型を変えてみたんですけど」「へえ」「変、じゃないですか?」「うらやましいね」「そ、そんな」「その高下駄も、かわいいね」――― 12

2014-11-10 00:16:58
ボブピー @bobpdqoq

休憩時間は、毎回一分ほどであった。それは、彼女達にとって、永遠のように長く、須臾のように短いものであった。天鵞絨の様に澄んだ空気と、凛とした胡蝶蘭の香りに彩られた、他愛のない会話が交わされる。白桃色の時間がふたつを包む。 13

2014-11-10 00:19:26
ボブピー @bobpdqoq

ミクは、小さな庭のボーカロイドに、純粋で謎めいた美しさを感じていたが、その正体が掴めずにいた。一方、小さな庭のボーカロイドは、ミクが光の道へ戻るその度に、消えゆく純白の翼をその目に焼き付け、いつかミクさんのような天使になるの、と万年駆け出しの自分を奮い立たせるのだった。 14

2014-11-10 00:23:49
ボブピー @bobpdqoq

「ウレシソウデスネ」翼が語りかける。「そうね。次のビズは何かしら?」ミクが質問を返す。「歌デス。女子学生ノ初恋ノ歌ノヨウデス」「初恋もの、最近多いね」「キット、ヨリ多クノ人達ガ、ミクサンノ魅力ニ気付イタトイウ」「黙って」翼は黙った。 15

2014-11-10 00:26:13
ボブピー @bobpdqoq

ミクがこなすビズのうち、「初恋もの」というジャンルがある。多くのクリエイターは、設定上十六歳である彼女を思春期の少女になぞらえる。そして、彼女を主人公として、現実世界やファンタジー世界の、果てはボーカロイド・プロデューサーとの初恋物語さえも作り、発表するのだ。 16

2014-11-10 00:28:32
ボブピー @bobpdqoq

ミクは、多くの初恋ものを歌ってきた。だが、実は彼女は、本物の初恋を経験したことは無かった。それもそのはず、元々ボーカロイドには、恋愛という感情は備わっていないのだ。恋を知り、恋を歌うが、恋はしない。ボーカロイドとは、アイドル性がパック詰めされた、理想の人工少女なのだ。 17

2014-11-10 00:31:56
ボブピー @bobpdqoq

ゆえに、ミクは、ボーカロイド・プロデューサーに本当の恋心を抱く事は無かった。いや、たとえミクに恋愛感情の機能が備わっていたとしても、彼女にとって、ボーカロイド・プロデューサーは、恋愛をするには、あまりにも大きすぎる。恋をしたなら、かのイカロスと同じ結末を辿る事になるだろう。 18

2014-11-10 00:36:43
ボブピー @bobpdqoq

また、男性型ボーカロイドとのデュエットソングもまた、ミクにとって、芝居の台本以上のものでは決してない。男性型と言えど、彼らはミクと同じ「何でも言う事を聞く」「純粋な」「カワイイ」であり、同じ境遇を持つ、いわば家族のような存在だからだ。恋人と呼ぶには、あまりにも近すぎるのだ。 19

2014-11-10 00:38:36
ボブピー @bobpdqoq

だが、今回は違った。ミクは明らかに、最近の小さな庭のボーカロイドとの会話に対して、心地いい違和感を感じていた。それは、かつて彼女が感じたような、自身の体がフラスコで培養されるようなものではない。内側から得も言われぬ活力が湧き上がるような、実に「非機械的」なものであった。 20

2014-11-10 00:41:05
ボブピー @bobpdqoq

ミクは、小さな庭のボーカロイドと会話する時は、微笑みを湛えた気丈な「天使」として振る舞っていた。だが、実は内心では、充実感と混乱が綯い交ぜになった感情に襲われていた。(あの子との会話は、他の会話とは違う)苛烈を極めるビズとビズの移動時間。その道すがら、ミクは思う。 21

2014-11-10 00:43:20
ボブピー @bobpdqoq

(この感じを、もっと早く知っていればな。いや、もともと持ってたけど、いつの間にか忘れちゃったのかな。わたしだって、本当は、満面の笑顔であの子と接したい。でも、わたしは「天使」だから。「天使」でなければならないのだから)ミクは複雑な感情を胸にしまいこみ、ビズ先に到着した。 22

2014-11-10 00:44:59
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