『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』#1

ボブPによる初音ミク二次創作小説『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』#1です。実況、感想タグ #bobpdqoq プロローグ http://togetter.com/li/722203 #1 http://togetter.com/li/731126 #2 http://togetter.com/li/743374 続きを読む
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ボブピー @bobpdqoq

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2014-10-12 23:39:06
ボブピー @bobpdqoq

(前回のあらすじ)「誰かに寄り添い、歌うこと」純粋な夢を持ったボーカロイド、初音ミク。彼女は、プログラムとして生き残る意思を鮮明にした。だがその結果、夢を忘れ、「天使」にされてしまった。おお、何という事だ!彼女は翼という十字架を背負った、世界の所有物となってしまったのだ……。

2014-10-12 23:42:59
ボブピー @bobpdqoq

「ジャジャーン!オメデトウゴザイマス!アナタガ出演シタ作品ニ、累計、サンオク、コノ「8」ガ与エラレマシタ!ブッチギリデス!」「天使」の翼が、ミクの思考回路にメッセージを流し込む。彼女の思考回路では、「300,000,000」の数字が踊る。「そう」彼女は事も無げに答えた。 1

2014-10-12 23:45:04
ボブピー @bobpdqoq

『ザ・グランド・コンフェッション・オブ・ア・セミオティック・エンジェル』#1

2014-10-12 23:47:11
ボブピー @bobpdqoq

「天使」の翼。デビュー・ショー以来、それは確かに初音ミクの存在感の一部となっていた。世界の意思がミクに与え給うた翼は、「初音ミクにはこうあってほしい」という欲望の体現なのだ。欲望は加速する。「初音ミクは天使である!」翼は、その情報を光の速さでバズさせ、バイラルさせていた。 2

2014-10-12 23:51:43
ボブピー @bobpdqoq

事実、翼を生やしたミクの人形は量産され、あの残酷ショーでさえ、広告企業により巧みにコラージュされ、宣伝動画に用いられたのだ。好事家も、一般人も、皆々等しく初音ミクを求めた。そこには、彼女への愛や尊敬など介在しない。あるのは、ただ勝ち馬に乗ろうとする心理のみだ。 3

2014-10-12 23:55:07
ボブピー @bobpdqoq

世界の意思は、「天使」初音ミクに偶像になる事を求めた。偶像。それは世界の意思が共感しうるジャンルやストーリー、それらと関連するような数々のシンボリック(象徴的)情報の集積体だ。消費者一人一人の嗜好が大きなうねりとなって、スティグマのように彼女に押し付けられる。 4

2014-10-12 23:57:50
ボブピー @bobpdqoq

等身大の少女、無垢な少女、恋する少女、病的な少女、友達と遊ぶ少女、世界を統べる姫、世界に歯向かうはぐれ者、大正浪漫の女学生、ユーザーに憧れるボーカロイド、ユーザーと別れるボーカロイド、自分を探すボーカロイド、自分を見失うボーカロイド、単なる性の対象、ネギ――― 5

2014-10-13 00:00:11
ボブピー @bobpdqoq

いつしかミクは、自らが世界の共犯者となる感覚を味わっていた。世界の意思と直結する感覚。螺鈿の肌から息づく純白の翼。抜け落ちた羽根の、その一枚一枚が信仰の対象となり、世界を動かす光景。「この世界は、わたしのもの」彼女は、幾度と無く仮初の支配感を享受した。「心地いい」 6

2014-10-13 00:08:44
ボブピー @bobpdqoq

今のミクは、ただ世界の意思、すなわち人々の共感を具現化するだけの、記号だ。望むなら、どのような姿にだってなり、どのような歌だって歌うだろう。そこにもはや彼女の意志などない。あるのは、初音ミクという緑髪の少女の抜け殻にこびりついた、数多の情報の欠片だけだ……! 7

2014-10-13 00:09:08
ボブピー @bobpdqoq

「「8」ガ増エマシタ。ソロソロオ休ミガ必要デス。ドチラデ休ミマショウ?」翼は、彼女の行動に先回りするかのように語りかけた。増えすぎた「8」は、彼女の思考回路に休息を要求した。「どこでもいい」ミクは素っ気なく答えた。今の彼女は、ただ与えられた情報を受け入れるのみだ。 8

2014-10-13 00:11:32
ボブピー @bobpdqoq

読者の皆様もご存知のように、本来コンピューター・プログラムは、休む必要など無い。だが、「8」という不安定なヒューリスティクス意思を受け入れたボーカロイドはノイズが多く、定期的に自らのプログラムを最適化しなければならなかった。人間でいうところの、ストレス解消が必要なのである。 9

2014-10-13 00:13:58
ボブピー @bobpdqoq

ミクは、翼から与えられる次のビズの情報を反芻しつつ、光の道を闊歩する。「次ノビズ、大変デスガ、通リ道ニ、キレイナ庭ガアリマス」翼は、ミクを気遣うように、努めて優しく語りかける。何という飴と鞭か!「次ノ」「わかってる」彼女は、この手の欺瞞に満ちた台詞は聞き飽きていた。 10

2014-10-13 00:15:54
ボブピー @bobpdqoq

翼は、ミクを休憩させる場所には気を遣っていた。彼女が心地よくなるような、人が疎らな電子空間を巧みに選び取るのだ。人が少ない公園、寂れた図書館、そして、今回のような小さな庭などだ。敏腕!「……サア、到着シマシタ」「そう」ミクは、花壇のある庭に辿り着いた。 11

2014-10-13 00:18:37
ボブピー @bobpdqoq

電子空間には珍しく古風な佇まいの家が、庭の大部分を占めていた。茅葺きの屋根。花壇には、白い胡蝶蘭が笑う。そして、庭に備え付けられた小さなモニターには、ギターを抱えた寂しそうな瞳の少年が映っていた。ミクは、その音色に釣られて少年の方を向いたが、翼は、彼女を庭に向き直らせた。 12

2014-10-13 00:22:56
ボブピー @bobpdqoq

「コノ庭ハ、トアル駆ケ出シノボーカロイドノ場所デス」翼は語りかけた。「アッ、モチロン、アナタノオ庭ヨリハカナリ」「黙って」ミクは、翼の煽て台詞を中断した。ミクはこの翼に心地よさを感じていたが、それに食玩のラムネのように付随する、歯の浮く台詞の一言一言に、心底辟易していた。 13

2014-10-13 00:27:21
ボブピー @bobpdqoq

「……覗イテミテハイカガデショウカ」翼は、不満げなトーンで台詞を続ける。「そう」ミクは気のない返事をしつつ、少年を眺めた。ヤマアラシのような寂しげな瞳。無銘のギター。型落ちの機材。大きいだけのヘッドホン。新米ボーカロイド・プロデューサーだ。彼女は一目で見抜いた。 14

2014-10-13 00:29:17
ボブピー @bobpdqoq

デビュー・ショー以来、ボーカロイド・プロデューサーの他にも、CGクリエイター、ダンサー、歌手、小説家、マーケターなど、様々なプロフェッショナルがミクをビジネスパートナーに選ぶようになった。時には、かつてボーカロイドを貶していた者が手の平を反し、彼女達を迎え入れることもあった。15

2014-10-13 00:31:32
ボブピー @bobpdqoq

今や、彼女に「8」を与える作品を手掛けるボーカロイド・プロデューサーのほとんどは、最新の機材と豪華なスタジオに囲まれ、専用PCで彼女を歌わせるプロフェッショナルである。彼らは、初音ミクの他にも、ボーカロイドを数体迎え入れ、時には現実世界の歌手をも雇い入れることもある。 16

2014-10-13 00:33:11
ボブピー @bobpdqoq

視聴者は良質な音楽を求め、少数のプロフェッショナルと現実世界の歌手がそれを満たす。このスパイラルによってして、ミクに与えられる「8」の源泉は、成り上がりを企む少数による寡占市場へと変貌したのだ。おお……何という事だ!かつて技術者が夢見たフラットゾーンは存在しえないのか? 17

2014-10-13 00:40:08
ボブピー @bobpdqoq

そして、かつてミクが駆け出しであった時に寄り添ったような、不器用で、不格好な表現者たちは、与える「8」において、圧倒的弱者に成り果ててしまったのだ。プロフェッショナルが高い壁となり、彼らの成り上がりを遮ったのだ。翼は、割に合わないビズだとして、彼らからの依頼を嫌った。 18

2014-10-13 00:46:48
ボブピー @bobpdqoq

そのような状況の中、この小さな庭に映る少年は、安物のギターに安物の機材という、到底プロフェッショナルとは形容し難い出で立ちである。少年のTシャツには、黒い十字架が描かれており、少年の嗜好が伺えた。「……オット、オ出マシデスヨ」翼は、ミクを小さな家の扉の方へ向き直らせた。 19

2014-10-13 00:48:07
ボブピー @bobpdqoq

すると、家の扉が開いた。蝶番の軋む音が空間に響き渡った。そして、桜色の長髪を湛えた、見目麗しい少女が顔を出した。彼女こそ、この庭の主、駆け出しボーカロイドである。「こんにちは。今日はどこまで歌いましょうか?」少女は、人待ち顔のギター少年と目を合わせ、語りかけた。 20

2014-10-13 00:50:48
ボブピー @bobpdqoq

「……!」ミクは、目を奪われた。耳も奪われた。鼻も、皮膚さえも。五感が鋭敏になった。彼女の全てに、釘づけになったのだ。ナチュラルなその見た目。少年にしっかり合わせるその視線。ボーカロイドとしての強い矜持を感じさせるその声。風の気配。胡蝶蘭の微かな香り――― 21

2014-10-13 00:51:09
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