PET検診(PET/CT検診)の有用性と限界について

呼吸器学会の依頼で作ったスライドが、わりとそのまま一般の方にも役立ちそうなので、解説付きで公開してみました。
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

先日某学会のシンポジウムで使ったスライドですが、わりと一般の方にも有益と思われるので、一部修正の上、解説付きで公開しますね。わりと高頻度でdisられるPET(PET/CT)検診の有用性についてのお話。 pic.twitter.com/8yl4V8yYMG

2014-09-22 16:51:21
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

まず、このシンポジウムは肺癌検診がメインのお話だったので、「PETで肺癌検診ってどうよ」から話が始まっています。検診ではとりあえず片っ端から病気を拾いたいのですが、PETではある種の病気が見えにくく、これが問題になります。 pic.twitter.com/SMtQnVy1ug

2014-09-22 16:51:51
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

見えない原因で大きいのは、病気の大きさ・形状・性質により、PETの検査薬であるFDGが癌病変にあまり集まらないことです。肺は特にスポンジ状に癌が広がるすりガラス状病変というのがあり、これがなかなか見えてくれない。 pic.twitter.com/bIv4qBPpms

2014-09-22 16:52:24
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

実際の画像のイメージ。本物そっくりですが切り貼り加工した作り物です。左のCTで右肺(画面の左側)にゴロンとした塊がありますが、こういう肺癌は大抵PETで写ります。真ん中の画像はCTと同じ輪切りPETですが、肺癌と肺門の転移が見えてます pic.twitter.com/5N7oymYIRL

2014-09-22 16:53:02
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

こういうのがさっき書いた「スポンジみたいな肺癌」ですが、こういうのは結構見えにくいです。ただ、これくらいの密度なら写ることも多々あるので、こうなるのは癌細胞自体があまり活発じゃなくて糖代謝が乏しいタイプが多い。 pic.twitter.com/vi5qH9qR9k

2014-09-22 16:53:40
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

次。こういうのは「PETで見えるわけねーだろふざけんな」系の肺癌。よく見るとCTで左肺(画面の右側)に薄ぼんやりした影が写ってます。これはPETでは見えない。逆にハッキリ見えたら炎症とか疑った方がいいくらい。 pic.twitter.com/1zRzOyysrt

2014-09-22 16:54:07
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

つーことで、一説によるとCTで検出可能な肺癌のうち30〜40%はPETでは見えないそうです。一方、逆はあまりない。PETじゃないと気付きづらい肺癌というのは一部にあるんですが、そういうのもよく見ればCTでも大抵は一応見えてる。 pic.twitter.com/zOiXx3iKA6

2014-09-22 16:54:51
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

んで、これが我々が「あちゃー」って頭を抱えた報告。国立がんセンターの検診で見つかった癌のうち15%くらいしかPETでは見えなかったーって、読売新聞が大々的に報じて「PETダメじゃん」みたいな空気が一気に広がりました。 pic.twitter.com/29GO7Km6R9

2014-09-22 16:55:23
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

これは重要なんで書いておくと、国立がんセンターでやってたのは普通の癌検診ではなく、どっちかというと「人類はどれくらいの頻度で癌を持ってるのか」を徹底的に洗い出す研究に近いものだったんですね。だからどんな小さい病変も追って癌を見つけた。発見率の数字にその結果がハッキリ出ています。

2014-09-22 16:55:44
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

ぶっちゃけ、「そこまでやったら過剰診療では…」というレベルでPETが苦手とする微小癌をワンサカ掘り起こした結果が、PETでの低検出率と受診者の5%以上に癌を見つけるという異様な有病率だったわけです。もちろん、希望者を募って行われた重要な研究なので、それ自体への批判はありません。

2014-09-22 16:57:04
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

問題は、そんなのと普通の検診が混同されて比較されたこと。当時のがんセンターの方も「発表の仕方に配慮が足りなかった」と平謝りだったので、こっちは「ひどい風評被害だ」とぷりぷりしつつ「ダメなマスコミ」という超便利な共用のサンドバッグを使ってなあなあに収めたわけです。

2014-09-22 16:57:53
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

少し前に元国立がんセンター所属の別のドクターが、この時の報道を盾にPET検診disりをした時に、私が「中の人だったのにどんだけ迷惑かけたか覚えとらんのか」とブチ切れた理由がコレ。他分野では敬意も抱いてる先生ですが、この件だけは蒸し返しておきますね。(怒ってないです。念為)

2014-09-22 16:58:41
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

蒸し返してスッキリしたので続けます。PETは結構肺癌を見落としちゃうので、CTでカバーすることが推奨されています。ただ、さっき書いた通り、PETでしか見えない肺癌は少ないですから、肺癌だけ見るならCTだけでいいわけですよ。 pic.twitter.com/AQ42GJfwpW

2014-09-22 16:59:23
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

ここで1つ疑問がわくはずです。「PETとCTを一緒に撮るPET/CTならいいんじゃないの?」って。ところがそうはいかない。PET/CTのCTは飽くまでもPETの補助なんですね。だから、CTとして読影するには条件が悪いのです。 pic.twitter.com/dtQHIg1zgX

2014-09-22 17:00:10
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

具体的にはこういう感じ。同じ人の近い時期のCTですが、左が普通のCT、右がPET/CTのCT。PET/CTのCTは息を吐いた状態で撮るから、背中側が重力で潰れて白っぽく濁っちゃうのです。さらに被曝を抑えるのにガッチリと線量も落とす。 pic.twitter.com/vxh2IMjpIK

2014-09-22 17:00:36
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

また、ガッチリ線量を落としても、PET/CTはCTで浴びる分だけ放射線被曝量が多くなるという問題があります。検診は検診そのもので健康被害を起こさないのが最重要なんで、被曝量が少ないにしてもやはりこの差は気になるわけです。 pic.twitter.com/e2v2QnMlXs

2014-09-22 17:01:05
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

つーことで、「肺癌だけの早期発見を目指した検診」であれば、ハッキリ言ってPETやPET/CTを使う意味はほとんどないです。 pic.twitter.com/jFYaAy3lCJ

2014-09-22 17:01:37
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

ただ、総合検診の中でのPETやPET/CTとなると話は別。癌検診を受ける人で「肺癌だけ探したい」という人は稀でしょう。そうなると、「個別疾患では専門検査に一歩及ばないが広範囲をカバーする何でも屋」というPETの特徴が活きてきます。 pic.twitter.com/cJppYsyubI

2014-09-22 17:02:16
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

実際、全国のPET検診施設に対する調査では、全受診者の約1%に悪性腫瘍が見つかってるんですね。1%は少ないと思うかもですが、単一検査での検出率としては大変優秀です。普通は探す病気が1種類とかでそもそもの数がないので0.05%とか。 pic.twitter.com/7ofeM5Q6YF

2014-09-22 17:02:53
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

実際に見つかった癌の内訳はこんな感じ。大腸癌と甲状腺癌がツートップで、続いて肺癌。CTがより優秀なだけで、見つかる肺癌も多いんです。「その他」には小腸癌とか多発性骨髄腫みたいに通常検診の対象にならないものもチラホラありました。 pic.twitter.com/CKDoON7LLU

2014-09-22 17:03:32
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

ただ、よく聞くPET検診批判の根拠(例の某ドクターによるdisにも使われてました)に、「PETは検診としてのエビデンスがない」というのがあります。これは事実。事実なんですが、「健康群の寿命が延びた」なんてエビデンスはそう簡単に出ません pic.twitter.com/boEdRod2nr

2014-09-22 17:05:00
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

特にPETの場合はもう「現状で受けてる人=健康に興味ありまくりの人たち」で確定してますし、検査費用こっち持ちでやるにしても一件一件の検査費用が高すぎるしで、集団からバイアス(偏り)の影響を除去するのがめっちゃ難しいんですわ。

2014-09-22 17:05:32
𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

んでも「有用性のエビデンスがない検診」なのは事実。ただ、現時点で有用性が証明された検診は少ない上に比較的簡素なものに偏っているということは書いておきますね。「喫煙者に対する低線量胸部CT」がギリギリこれに入るか入らないかって段階。 pic.twitter.com/srQvgRvNS3

2014-09-22 17:06:13
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

ただ、PET検診の側も指をくわえて見てきたわけではないです。実証が難しいならモデルで有用性を検証してやろう、というのをやった人たちがいます。これは2011年に出た論文から引っ張ってきた表。 pic.twitter.com/00TEXbn9O9

2014-09-22 17:06:50
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𝑷𝑲𝑨 @PKAnzug

細かいので表の左上部分を拡大。ぐちゃぐちゃと数字が並んでますが、NTというのは検診で癌を見つけたことによる推定余命延長期間(年/10万人)。これは年代ごとに実際に発見された病気の種類、発見事の病期、一般の有病率などから算出したもの。 pic.twitter.com/Cwx25BxSQ1

2014-09-22 17:07:41
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