PET検診(PET/CT検診)の有用性と限界について

呼吸器学会の依頼で作ったスライドが、わりとそのまま一般の方にも役立ちそうなので、解説付きで公開してみました。
医療 健康 検診 がん pet
133
PKA @PKAnzug
先日某学会のシンポジウムで使ったスライドですが、わりと一般の方にも有益と思われるので、一部修正の上、解説付きで公開しますね。わりと高頻度でdisられるPET(PET/CT)検診の有用性についてのお話。 pic.twitter.com/8yl4V8yYMG
 拡大
PKA @PKAnzug
まず、このシンポジウムは肺癌検診がメインのお話だったので、「PETで肺癌検診ってどうよ」から話が始まっています。検診ではとりあえず片っ端から病気を拾いたいのですが、PETではある種の病気が見えにくく、これが問題になります。 pic.twitter.com/SMtQnVy1ug
 拡大
PKA @PKAnzug
見えない原因で大きいのは、病気の大きさ・形状・性質により、PETの検査薬であるFDGが癌病変にあまり集まらないことです。肺は特にスポンジ状に癌が広がるすりガラス状病変というのがあり、これがなかなか見えてくれない。 pic.twitter.com/bIv4qBPpms
 拡大
PKA @PKAnzug
実際の画像のイメージ。本物そっくりですが切り貼り加工した作り物です。左のCTで右肺(画面の左側)にゴロンとした塊がありますが、こういう肺癌は大抵PETで写ります。真ん中の画像はCTと同じ輪切りPETですが、肺癌と肺門の転移が見えてます pic.twitter.com/5N7oymYIRL
 拡大
PKA @PKAnzug
こういうのがさっき書いた「スポンジみたいな肺癌」ですが、こういうのは結構見えにくいです。ただ、これくらいの密度なら写ることも多々あるので、こうなるのは癌細胞自体があまり活発じゃなくて糖代謝が乏しいタイプが多い。 pic.twitter.com/vi5qH9qR9k
 拡大
PKA @PKAnzug
次。こういうのは「PETで見えるわけねーだろふざけんな」系の肺癌。よく見るとCTで左肺(画面の右側)に薄ぼんやりした影が写ってます。これはPETでは見えない。逆にハッキリ見えたら炎症とか疑った方がいいくらい。 pic.twitter.com/1zRzOyysrt
 拡大
PKA @PKAnzug
つーことで、一説によるとCTで検出可能な肺癌のうち30〜40%はPETでは見えないそうです。一方、逆はあまりない。PETじゃないと気付きづらい肺癌というのは一部にあるんですが、そういうのもよく見ればCTでも大抵は一応見えてる。 pic.twitter.com/zOiXx3iKA6
 拡大
PKA @PKAnzug
んで、これが我々が「あちゃー」って頭を抱えた報告。国立がんセンターの検診で見つかった癌のうち15%くらいしかPETでは見えなかったーって、読売新聞が大々的に報じて「PETダメじゃん」みたいな空気が一気に広がりました。 pic.twitter.com/29GO7Km6R9
 拡大
PKA @PKAnzug
これは重要なんで書いておくと、国立がんセンターでやってたのは普通の癌検診ではなく、どっちかというと「人類はどれくらいの頻度で癌を持ってるのか」を徹底的に洗い出す研究に近いものだったんですね。だからどんな小さい病変も追って癌を見つけた。発見率の数字にその結果がハッキリ出ています。
PKA @PKAnzug
ぶっちゃけ、「そこまでやったら過剰診療では…」というレベルでPETが苦手とする微小癌をワンサカ掘り起こした結果が、PETでの低検出率と受診者の5%以上に癌を見つけるという異様な有病率だったわけです。もちろん、希望者を募って行われた重要な研究なので、それ自体への批判はありません。
PKA @PKAnzug
問題は、そんなのと普通の検診が混同されて比較されたこと。当時のがんセンターの方も「発表の仕方に配慮が足りなかった」と平謝りだったので、こっちは「ひどい風評被害だ」とぷりぷりしつつ「ダメなマスコミ」という超便利な共用のサンドバッグを使ってなあなあに収めたわけです。
PKA @PKAnzug
少し前に元国立がんセンター所属の別のドクターが、この時の報道を盾にPET検診disりをした時に、私が「中の人だったのにどんだけ迷惑かけたか覚えとらんのか」とブチ切れた理由がコレ。他分野では敬意も抱いてる先生ですが、この件だけは蒸し返しておきますね。(怒ってないです。念為)
PKA @PKAnzug
蒸し返してスッキリしたので続けます。PETは結構肺癌を見落としちゃうので、CTでカバーすることが推奨されています。ただ、さっき書いた通り、PETでしか見えない肺癌は少ないですから、肺癌だけ見るならCTだけでいいわけですよ。 pic.twitter.com/AQ42GJfwpW
 拡大
PKA @PKAnzug
ここで1つ疑問がわくはずです。「PETとCTを一緒に撮るPET/CTならいいんじゃないの?」って。ところがそうはいかない。PET/CTのCTは飽くまでもPETの補助なんですね。だから、CTとして読影するには条件が悪いのです。 pic.twitter.com/dtQHIg1zgX
 拡大
PKA @PKAnzug
具体的にはこういう感じ。同じ人の近い時期のCTですが、左が普通のCT、右がPET/CTのCT。PET/CTのCTは息を吐いた状態で撮るから、背中側が重力で潰れて白っぽく濁っちゃうのです。さらに被曝を抑えるのにガッチリと線量も落とす。 pic.twitter.com/vxh2IMjpIK
 拡大
PKA @PKAnzug
また、ガッチリ線量を落としても、PET/CTはCTで浴びる分だけ放射線被曝量が多くなるという問題があります。検診は検診そのもので健康被害を起こさないのが最重要なんで、被曝量が少ないにしてもやはりこの差は気になるわけです。 pic.twitter.com/e2v2QnMlXs
 拡大
PKA @PKAnzug
つーことで、「肺癌だけの早期発見を目指した検診」であれば、ハッキリ言ってPETやPET/CTを使う意味はほとんどないです。 pic.twitter.com/jFYaAy3lCJ
 拡大
PKA @PKAnzug
ただ、総合検診の中でのPETやPET/CTとなると話は別。癌検診を受ける人で「肺癌だけ探したい」という人は稀でしょう。そうなると、「個別疾患では専門検査に一歩及ばないが広範囲をカバーする何でも屋」というPETの特徴が活きてきます。 pic.twitter.com/cJppYsyubI
 拡大
PKA @PKAnzug
実際、全国のPET検診施設に対する調査では、全受診者の約1%に悪性腫瘍が見つかってるんですね。1%は少ないと思うかもですが、単一検査での検出率としては大変優秀です。普通は探す病気が1種類とかでそもそもの数がないので0.05%とか。 pic.twitter.com/7ofeM5Q6YF
 拡大
PKA @PKAnzug
実際に見つかった癌の内訳はこんな感じ。大腸癌と甲状腺癌がツートップで、続いて肺癌。CTがより優秀なだけで、見つかる肺癌も多いんです。「その他」には小腸癌とか多発性骨髄腫みたいに通常検診の対象にならないものもチラホラありました。 pic.twitter.com/CKDoON7LLU
 拡大
PKA @PKAnzug
ただ、よく聞くPET検診批判の根拠(例の某ドクターによるdisにも使われてました)に、「PETは検診としてのエビデンスがない」というのがあります。これは事実。事実なんですが、「健康群の寿命が延びた」なんてエビデンスはそう簡単に出ません pic.twitter.com/boEdRod2nr
 拡大
PKA @PKAnzug
特にPETの場合はもう「現状で受けてる人=健康に興味ありまくりの人たち」で確定してますし、検査費用こっち持ちでやるにしても一件一件の検査費用が高すぎるしで、集団からバイアス(偏り)の影響を除去するのがめっちゃ難しいんですわ。
PKA @PKAnzug
んでも「有用性のエビデンスがない検診」なのは事実。ただ、現時点で有用性が証明された検診は少ない上に比較的簡素なものに偏っているということは書いておきますね。「喫煙者に対する低線量胸部CT」がギリギリこれに入るか入らないかって段階。 pic.twitter.com/srQvgRvNS3
 拡大
PKA @PKAnzug
ただ、PET検診の側も指をくわえて見てきたわけではないです。実証が難しいならモデルで有用性を検証してやろう、というのをやった人たちがいます。これは2011年に出た論文から引っ張ってきた表。 pic.twitter.com/00TEXbn9O9
 拡大
PKA @PKAnzug
細かいので表の左上部分を拡大。ぐちゃぐちゃと数字が並んでますが、NTというのは検診で癌を見つけたことによる推定余命延長期間(年/10万人)。これは年代ごとに実際に発見された病気の種類、発見事の病期、一般の有病率などから算出したもの。 pic.twitter.com/Cwx25BxSQ1
 拡大
残りを読む(17)

コメント

T.Shirai(ほぼ個人)もたまに呟く @tatsuva 2014年9月22日
漠然とPETは高価だが良い物、程度の認識だったのが補正されました。ありがとうございます。それはともかく、何でも屋の写真は何ですか、あれはw
PKA @PKAnzug 2014年9月22日
ああやって1人で多数の楽器を操る「One Man Band」というのがパフォーマンスの1ジャンルにあるんですよ。 https://www.youtube.com/watch?v=nDLrpG0DCqI
高千穂 伊織 @t_iori 2014年9月22日
このニュース(多分上の読売新聞が大々的に報じの奴)と並べて見ると味わい深い http://web.archive.org/web/20090503195607/http://www.yomiuri.co.jp/iryou/news/iryou_news/20060303ik07.htm
田舎の元外科医 @inakashoge 2014年9月22日
PKA先生も言及されていますが、一般の方には、まずPETが「魔法の検査でない」ということを知っていただくことが重要かと思います。/「PET検査が得意ながん・苦手ながん」http://www.karada-nayami.biz/pet/241957.html
bn2 @bn2islander 2014年9月22日
t_iori がんセンターのレポートがありますが、これを見る限りほぼ忠実に記事にしているように思いますので、問題にするとすればがんセンターの発表だと私は思います。まあ、素人が取り扱うような話ではないのでしょうね http://www.ncc.go.jp/jp/about/rinri/pdf/17-54_02.pdf
bn2 @bn2islander 2014年9月22日
読売の記事でも「民間医療機関のがん検診では、がんのうちPETで検出されたのは64%、48%などのデータがある。国立がんセンターの超音波、CTなどを併用した検診では、がん発見率は一般の医療機関に比べ高いため、相対的にPETでの発見率が低下した可能性がある」とはきちんと言及されてますね。問題があるとすれば見出しでしょうか
高千穂 伊織 @t_iori 2014年9月23日
あとは「問題は、そんなのと普通の検診が混同されて比較されたこと」と上にある部分でしょうか。
PKA @PKAnzug 2014年9月23日
「国立がんセンターの超音波、CTなどを併用した検診では、がん発見率は一般の医療機関に比べ高い」で、国立がんセンターの「がん検診」が通常の癌検診の3倍くらい見つけるようなエクストリームなものであることを理解するのは難しいと思います。実際、当時中の人だったドクターでも理解してなかったわけですから。そして記事の見出しって大事。専門的な内容の記事であればあるほど、人は見出しで内容を判断します。
luckdragon2009(rt多) @rt_luckdragon 2014年9月23日
米国ですが、医療費が世界でトップですので、まあ、削減に走っている気がする。ただ、悪名高い格差保険制度なので、底辺の人には行きわたっていないかも。 > http://goo.gl/f71gTm (OECD加盟国の医療費の状況(2011年))
luckdragon2009(rt多) @rt_luckdragon 2014年9月23日
ちなみに、日本は総合18位、GDP比で12位です。高齢者が多いはずなのに、少ないくらいですね。  ただし、日本は健康保険の財政が良くないので、今後は高年齢層の保険費負担をどうにかしないとまずいです。
bn2 @bn2islander 2014年9月23日
PKAnzug 国立がんセンターが発表するようなレポートは、一般の読者を想定したものではないので、そのまま記事にするのは不都合があると言うのであれば分かります
bn2 @bn2islander 2014年9月23日
言いたいのは、読売報道は国立がんセンターの「多臓器を対象とした PET によるがん検診の精度評価に関する研究」 http://www.ncc.go.jp/jp/about/rinri/pdf/17-54_02.pdf の要旨に沿っているとは思うので、これが駄目なのであれば、医療機関の発表を忠実に流す事自体が問われるなと思いました。実際にその通りなのかも知れません
Tsuyoshi CHO @tsuyoshi_cho 2014年9月23日
というか、「PETが魔法の診断方法」ってどっから広まったんだろう。映像系の診断はつねに不明確さや誤診、診断対象と特性が合うかとかが問題...というかリスクベネフィットがあるものとしか思えないが...物理好き系だからそう思うだけ?
ひろ@猫もふ欠乏症 @hiro_h 2014年9月23日
これはむしろslideshareにも欲しいかも。
闇のapj @apj 2014年9月23日
CT:設置した後はたまにメンテ必要、本体に電力突っ込んでおけば動く。MRI:磁場の維持に窒素とかヘリウムの供給必要、たまにメンテ、本体に電力突っ込んでおけば動く。しかしPETはそうはいかない。
闇のapj @apj 2014年9月23日
PET:短寿命RIの供給と管理必要、ベビーサイクロトロンが必要(電力、運転要員、ぶあついコンクリートの壁の部屋)、RIから薬剤合成するラインの維持管理がくっついているからその分画像1枚分のコストがバカ高くなる。
闇のapj @apj 2014年9月23日
PETで見えるのは体内の物質の移動(集まり具合とか)だけで、ガンがあるとそこだけ代謝が激しいので薬剤が集まってきた結果見える。体の形も大体はわかるけど、場所を決めづらいので、CTかMRIの画像と重ねて「ガンはここ」ってやらないとダメ。
PKA @PKAnzug 2014年9月24日
あ、そうそう。このまとめに使ったスライド画像&ツイートは、もし他の発表で使いたい方がいたら使っても構いません。引用であることを何らかの形で明示していただくのと、ここにない内容を私が主張したかのように書かないことだけ守ってくれれば、連絡も不要です(教えてくれたら嬉しいですけど)。
ログインして広告を非表示にする
ログインして広告を非表示にする