「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」 #3
(これまでのあらすじ: ハイスクール生徒ギンイチはゲームセンター「反射神経ストーム」でハイスコアを叩き出す事だけを楽しみに生きていた。ある日彼はムコウミズ・ストリートで似非パンクスにカツアゲされかかるが、同級生と思しきゲイシャパンク少女に助けられる。
2010-10-30 00:18:25折りしも、パンクス達の集うバー「ヨタモノ」をジアゲするために、末端チンピラ、タメジマ=サンは禁断の選択を下してしまった。ソウカイ・シンジケートのニンジャの力を借りる事にしたのだ。彼の元に派遣されたニンジャは嗜虐・被虐嗜好ニンジャ、アゴニィであった。)
2010-10-30 00:21:14クラスはいつものようにオツヤめいて静まり返っていた。ギンイチが選択した特進クラスには、授業中に騒ぐような人間はいない。生徒が高機能ソロバンをパチパチと弾く音だけがせわしなく鳴り続けている。
2010-10-30 00:24:42電子戦車のレバーとボタンがこの禍々しい計算機械に置き換わっただけで、どうしてこれほど胃の腑に穴が開いたような苦しさを感じてしまうのだろう。ギンイチは自問自答した。この特進クラスに無理矢理登録したのも、もちろんママだ。ギンイチはママに反論する理論は持ち合わせていなかった。
2010-10-30 00:26:17「はいギンイチさん。この計算式の解はどのように求めますか」数学教師に指名され、ギンイチは我に返る。「ええ…と……」ヤバイ。ギンイチは為すすべなく多機能ソロバンを見下ろす。「はいギンイチさん。ペナルティにしておきましょう。ではヒノさん代わりに応えてください」
2010-10-30 00:30:46「ルート44虚無僧です」「アタリです」チャイムが鳴った。リラグゼーション効果を見込んだモクギョ・ビートが陰鬱な教室に鳴り響くと、特進クラスの生徒達は無言のまま席から立ち上がる。今日のハイスクールの授業は終了だ。皆これから予備校へ行くか、帰宅して家庭教師の個人授業を受ける。
2010-10-30 00:33:52廊下から眺める空は今日もタール溜まりのような黒灰色をしている。朝のニュースではいつも違った企業が違った公害スキャンダルを起こして摘発されている。きっとそのどれかのせいだろう。
2010-10-30 00:40:01ハイスクールは特進クラスだけではない。特進クラスのゾンビめいた連中と違って、普通科の生徒は皆、好き勝手に制服を着崩し、男女交際もチャメシ・インシデントだ。ほら、今すれ違おうとしているのが、身長7フィート近いバンザキ=サン。校内ヒエラルキーの頂点に位置するジョックだ。
2010-10-30 00:47:19ヤブサメ特待生、バンザキ=サンの手に入らぬものは無い。今は、左手と右手、それぞれで一人ずつのゲイシャ部女子をかき抱くようにして、ニヤニヤと話している。すれ違う際、背中に丸めたサババーガーの包み紙を投げつけられる。別に理由は無い。ジョックとはそういうものだ。
2010-10-30 00:54:59(あんな奴、調子に乗っていられるのは今だけだ)特進クラスのヤキジ=サンは、以前そんな風に嘲笑してみせた。(しっかり勉強してセンタ試験で認められたカチグミ・サラリマンが、将来ああいう脳みそ筋肉の連中をアゴで使うのさ。僕らが勝者なんだ)……ギンイチは素直に頷けなかった。
2010-10-30 00:58:50カチグミって何だろう? ヤキジ=サンも、きっとわかってはいないはずだ。親や教師の受け売りだ。ギンイチはパパの事を思う。あれがカチグミなんだろうか? 確かにギンイチの家は裕福な部類と言えた。ストリートの片隅からこちらを見上げる浮浪者たちは、まるで別世界の怪物のように恐ろしい。
2010-10-30 01:06:49でも、パパは毎日深夜に帰ってきては、トイレで泣きながら嘔吐している。この前、冷蔵庫のバリキ・ドリンクの奥に「ズバリ」のアンプルがしまわれているのも見てしまった。センタ試験でスゴイ級のランクをゲットしたとして、先にあるのはパパみたいな生き方なんだろうか?それはカチグミなんだろうか?
2010-10-30 01:10:05ロッカーで帰り支度をするまで、ギンイチはそんな出口の無い問いを反芻し続けていた。思考を中断させたのは、背後を通り抜けた甘い香りだった。昨晩のゲイシャパンク少女の記憶が一瞬にしてよみがえる。ギンイチはあわてて振り返った。
2010-10-30 01:16:43あの子だった。間違いない。髪型も格好も違ったが、確かにそうだった。そして目が合ったとき、彼女は少し笑ったのだ。彼女の後姿を呆然と眺めながら、ギンイチは灰色の校舎と灰色の将来設計が電子の海に崩れ流れていく様子を幻視した……。
2010-10-30 01:20:08ギンイチはクールさをかろうじて保ちつつ、誰にも見えないように小さくガッツポーズした。これで31連勝だ。「あいつ本当にヤバイよね」「狙いが正確すぎるよね」後ろのギャラリーの呟きを味わいながら、今日もギンイチは静かに席を立つ。もう、時間だ。昨日のように遅刻の恐怖を味わいたくはない。
2010-10-30 01:26:34ギンイチはカバンを肩にかけると、足早に出口へ向かう。マジックハンド・カワイイキャッチの筐体の前を通り過ぎ……「今日もいた」「エエーッ!」声をかけられ、ギンイチの口から奇声が出かかった。ハイスクールとは打って変わったゲイシャパンクスタイルの彼女がいた。
2010-10-30 12:20:10「あんた同じ学校だったんだね。今日、特進クラスから出てくるの見たよ」少女は馴れ馴れしく話しかけて来た。「きの、昨日はドーモ」ギンイチはぎこちなく返事した。「ドーモ、私の名前はイチジクです」少女がオジギした。「ドーモ、私の名前はギンイチです」バネじかけのようなオジギになってしまう。
2010-10-30 12:23:43なんて事だ!向こうから話しかけられるなんて。アイサツまでしてしまうなんて。歓喜を通り越し、ギンイチは空恐ろしい気持ちにすらなっていた。まさかこれは繁華街で頻繁に行われると噂の、マイコ・ポンビキではないのか?
2010-10-30 12:31:51「イチジク=サンは、そのう、よくここに来るのですか」イチジクはにこやかに頷いた。「うん。あんたもね?」「はい、実際毎日です」「知ってる。奥の電子タンクでいっつも、だよね?」「……どうして話しかけてくれたですか?」ギンイチは勇気を出して切り出した。
2010-10-30 15:57:55「あんたがいつも着てるTシャツが気になってたんだよね」イチジクが指差す。ギンイチは自分の胸を見下ろした。毛筆タッチで「アベ一休」とプリントされている。「アベ一休のTシャツなんて、どこで買ったの?まだアルバムも出してないのに」
2010-10-30 16:11:54「え、いや……」ナムサン!これはママがコケシマートで適当に買ってきたものだ!アベ一休のクールな字体に惹かれていたのだが、アルバム?アベ一休とは何なのだ?モハヤコレマデか!
2010-10-30 16:34:52