「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」 #8

B・ボンド&P・モーゼズ作。ネオサイタマを舞台としたサイバーパンク・ニンジャ活劇「ニンジャスレイヤー」の私家翻訳物 詳細はこちら http://togetter.com/li/73867
21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

日常を振り捨て、一転、身を焼くような非日常、まぶしい躍動、美しいイチジク、頭を吹き飛ばすようなライブ、そんな素敵なものを、ぼくのようなギークが求めるなんて、そんなのは過ぎた欲望だった、だからこうして罰が下り、イチジクの肩を抱くカンタロが、殺戮が、ニンジャが……違う!いやだ!

2010-11-11 21:11:53
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ぼくにだって拳はある!言葉はある!ふざけるな!こんな運命、捨ててしまえ!このニンジャを倒すんだ!イチジクを助けるんだ!ふざけるな!ふざけるな!アンタイセイ!

2010-11-11 21:14:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アーッ!」ギンイチの拳はニンジャのメンポを打った。回し蹴りは当たらなかった。ギンイチの首を吹き飛ばす寸前で止まったのだ。ニンジャはよろめいた。「アーッ!」ギンイチは泣きながら叫んだ。ニンジャのメンポを力任せに打った。ニンジャがよろめく。拳の皮が破け、血が噴き出した。

2010-11-11 21:17:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アーッ!」ギンイチは左の拳で殴りかかった。ニンジャはその手をマンリキのような握力でつかんだ。今度こそ、おしまいだ。イチジク=サン!

2010-11-11 21:19:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

どん、とニンジャがギンイチを突き飛ばした。ギンイチはニンジャの顔を見、衝撃を受けた。ニンジャは血の涙を流していた。小刻みに震えていた。まるで自分を押さえ込むかのように。「ハヤクイケ」絞り出すような声でニンジャが告げた。

2010-11-11 21:22:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャの後ろで炎が爆ぜた。炎が床材を伝ってフロア全体にひろがるのは時間の問題だ。ギンイチに訝ったり考える時間は無かった。イチジクを助け起こす。カジバチカラ!ギンイチは気を失ったイチジクをそのまま肩に担ぎ上げた。出口を目指し、イチジクを担いだまま、自分でも驚くほどの速さで駆けた。

2010-11-11 21:29:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

走りながら、ギンイチは一度振り返った。目に写ったのは、火に包まれたハリツケ・ニンジャへ今一度向き直り、飛びかかるニンジャの姿だった。「イヤーッ!」「サヨナラ!」ジャンプしながらのチョップが脳天を粉砕、ハリツケ・ニンジャが爆発した。ギンイチは最後の力を振り絞り、階段を駆け上がった。

2010-11-11 21:35:54
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「おい、出てきたぞ!」「ナムアミダブツ!」「早く……」霞む視界の中、深夜のムコウミズ・ストリート、ギンイチの耳に幾つかの声が飛び込んできた。それきり、ギンイチの意識は遠くなった。

2010-11-11 21:42:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そのあとギンイチが目を覚ましたのは、ヤカタ式救急車の後部ベッド、スモークシールドされた窓ガラスをぼやけた星のように行き交うネオン、背中に感じる道路のガタつき、モーター音。横で同じように寝かされたイチジクは、腹と脚に包帯を巻かれ、オヒナ人形のような白い寝顔。

2010-11-11 22:02:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

混濁した意識が徐々にクリアになるなか、ギンイチは思考を巡らせる。救急車。こうして手厚い処置が受けられるのは、二人の属する社会階級あればこそなのだ。路上生活者やプロジェクトの人間、あるいは真にアンタイセイに身を置く人間であれば、路地に打ち捨てられるか、闇医者に献体として売られるか。

2010-11-11 22:09:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ママが毎日イライラして、パパが押し潰されそうになって、そうして維持するアッパーな世界に、最終的に救われたのだ。でも……。ギンイチは苦々しい気持ちを整理できなかった。今夜は余りにもひどい事が起こり過ぎた。

2010-11-11 22:12:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

やがてイチジクが目を覚ます。彼女はまばたきをして車内の様子を把握しようと努める。そして、同じようにベッドで横になるギンイチと目があった。その目に、見る間に涙が溜まった。

2010-11-11 22:16:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ギンイチは何か言おうとしたが、言葉など出るわけがない。イチジクが無言でギンイチに震える手を伸ばす。涙が筋になっている。ギンイチはそれに応え、冷たい手を握り返した。二人はしばらくそうしていた。ただ苦しく、辛かった。段差を踏むたびに救急車は上下に揺れた。

2010-11-11 22:21:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

明日から始まる生活は何だろう。どんなものだろう。今までの世界がそのまま戻ってくるはずもない。色んな事があったのだ……。

2010-11-11 22:25:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ギンイチの手を握ったまま、イチジクは再び眠りに落ちていた。ギンイチは思いを巡らすのをやめた。ただ眠ろう。そうすれば少なくとも朝にはなる。眠ろう。ギンイチは目を閉じた。

2010-11-11 22:29:42
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ギンイチの手の中で、イチジクの冷たい手は少しずつ暖かくなる。ギンイチはただその事だけを感じ取ろうとした。何も考えず、ただイチジクの手の温度の事だけを。ただそれだけを。

2010-11-11 22:35:58
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

(「キックアウト・ザ・ニンジャ・マザーファッカー」終わり)

2010-11-11 22:37:14