"Towards a theory of development"まとめ

発生生物学とその哲学の論文集"Towards a theory of development" (Minelli & Pradeu 2014)のまとめ。
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Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

そこで取り上げられるのが、独立に多細胞性を獲得したとされている後生動物と陸上植物。各々の系統群に属する生物の発生の間には類似の現象が観察されるが、発生に関わる重要な遺伝子の多くは独立に獲得されたと考えられており、「非歴史的な発生の理論」を求める著者の目的に合致する。

2014-12-20 22:55:00
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

動物と植物の発生を比較する際に生じうるいくつかの難点について考察した後(省略)、著者は事例研究として左右相称動物のHox遺伝子群と種子植物の花の形成を制御する遺伝子群を比較する。両者はそれぞれの系統群で独立に獲得されたものだが、その発現は類似の機構により調節されている。

2014-12-20 23:13:41
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

この事例研究から著者は二つの点を指摘している:(1)選択遺伝子は「ある細胞では発現し別の細胞ではしない」ことが重要であり、そのためにはいくつかの負の調節機構が必要である。選択遺伝子相互の抑制とmiRNAによる制御がその有効な手段である。

2014-12-20 23:22:52
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

(2)選択遺伝子はまた、体パーツの形成が完了するまでの間、そのパーツ全体で持続的に発現する必要がある。発現の自己調節とエピジェネティックな機構の組み合わせがその最も有効な手段である。

2014-12-20 23:29:24
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

こうした比較により、相同ではないにも関わらず多くの発生現象において共有される側面が明らかにされ、それがひいては「発生の一般原理」を導くための基礎となるであろう、と著者は結論している。

2014-12-20 23:34:18
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

色々と興味深い議論だった。例えば気になることとして、著者は発生の原理として遺伝子発現調節に注目しているようだが、発生の別の側面(細胞レベルや組織レベルなど)でそうした「原理」が見付かる可能性はあまり考えていないのだろうか、とか。

2014-12-20 23:39:55
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

相同性に比べて非歴史的な共通性を遥かに重視している点も面白い。歴史の偶然性を超えた生物の一般原理を知りたいという思いは、一部の生命起源研究やSETI、人工生命研究のモチベーションと通じるところがありそう。

2014-12-20 23:52:36
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

ただ、今の多くの発生生物学者は非歴史的な共通性をそこまで重視していないんじゃないかという気もするのだよな(根拠はない)。その意味で、発生生物学者たちにこの議論がどれだけ受け入れられるかというのも結構気になる点である。

2014-12-20 23:55:33
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

"Identifying some theories in developmental biology: The case of the cancer stem cell theory" (Laplane)読了。Towards a theory of developmet第16章

2014-12-21 17:06:01
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

発生生物学は理論を持つか、という問いに、科学理論を科学理論でないものから区別する枠組みを提案することで答えようとする論文。

2014-12-21 17:13:44
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

提案される科学理論の条件とは、「よく確立された事実の集合から導かれた仮説で、かついくつかの独立した事実の集合を説明ないし予測できると示されているもの」。また、相似的なモデルの存在は理論の説明力を強化するとされる(ただしそのような相似的モデルの存在は必要条件ではない)。

2014-12-21 17:27:34
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

以上の定式化をした上で発生生物学の理論の候補として著者が検討するのが、癌幹細胞(cancer stem cell; CSC)仮説。著者はこの仮説が(1)腫瘍形成、(2)再発、(3)治療の三つのモデルからなるとしている。

2014-12-21 17:36:17
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

すなわち、(1)癌はCSCsによってのみ形成され維持される、(2)CSCsは治療への抵抗性が強く再発を引き起こす、(3)癌を治療するためにはCSCsを殺すことが必要かつ十分である。

2014-12-21 17:39:50
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

著者はCSC仮説がいくつかの「独立した事実の集合」(例えば、癌が様々な細胞種を含むことや一見して治療が成功した患者に癌が再発することなど)を説明し予測できることを論じる。また、CSC仮説の説明力を強化する相似的モデルとして、非病理学的な幹細胞のモデルに言及する。

2014-12-21 17:50:44
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

以上のような分析を通じて、著者は発生生物学はCSC理論という少なくとも一つの理論を持つと結論づける。もちろん他にもっと良い例がある可能性は否定していない。

2014-12-21 17:55:48
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

この議論は面白いのかな。よう分からん。

2014-12-21 17:58:51
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

「発生生物学は理論を持つのか」という問いについて考える際には理論と非理論とを区別する基準がないといけないというのはもちろんそうなんだけど、この問いで重要なのは発生生物学という分野の知見がどれだけの体系性と統一性を持つかという点ではないか?

2014-12-21 18:08:55
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

そうだとすれば、区別すべきは「理論と仮説」ではなく「理論と単なる知見の集合」だと思うのだが。

2014-12-21 18:13:59
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

つまり、この論文は「ある程度確立された事実に基づく理論」と「相対的に不確かなものとしての仮説」を区別する基準を提案しているように見えるが、むしろ求められるのは「体系化された知見の集まりとしての理論」と「知見の単なる寄せ集め」を区別する基準なんじゃないか、ということ。

2014-12-21 18:15:25
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

いやまぁ、発生生物学における理論に関してどういう問いを立てるかは論者の自由なんだけど。しかし発生生物学の知見の確からしさを問うなら「少なくとも一つの理論がある」という結論にどれだけの意味があるのか疑わしいし、そもそも著者がそういう問題意識の下で議論しているようにも見えない。

2014-12-21 18:26:11
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