"Towards a theory of development"まとめ

発生生物学とその哲学の論文集"Towards a theory of development" (Minelli & Pradeu 2014)のまとめ。
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Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

さらに、発生生物学の「問題空間」は抽象性、現象の種類、連結性、時間性、空間的構成という五つの変数によって特徴付けられる。

2014-12-01 00:11:44
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

抽象性:現象が系統群のどの範囲で起きるか(例:脊椎動物)。種類:現象の種類(例:EMT)。連結性:現象はどの探求課題の組み合わせか(分化+パターン形成)。時間性:現象がいつ起きるか(例:神経胚期)。空間的構成:現象がどんな空間的配置で生じるか(例:シートからの個々の細胞の分離)。

2014-12-01 00:24:38
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

これらの変数に加えて、著者は探求課題を構造化するための次元も導入する。歴史(探求課題や変数の研究における相対的重み付けは時間とともに変化する)、異種混合性(研究上の問いは様々な意味で互いに異なる)、階層性(問いの間には階層的関係がある)の三つである。

2014-12-01 00:36:09
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

最後にLoveは乳腺の形態形成メカニズムを明らかにした近年の研究を取り上げ、自身が提案する枠組みでこの事例を適切に捉えることができることを示している。

2014-12-01 00:39:33
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

まとめると多分こんな感じ。結論自体は明快なんだけど、ちょっと踏み込んだ議論になると沢山の要素が出てくるので要約しにくい。あとこの論文も含めて、Loveの論じ方って結構地味な印象がある。

2014-12-01 00:47:51
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

Loveのこの議論は、発生生物学における理論の存在とその重要性を主張したPradeuの論文と対照をなしている。私自身の意見としては、発生生物学が現状理論を持つか、という部分に関しては判断を留保するが、理論の構築を目指すべきかという点に関してはPradeuを支持したいところ。

2014-12-01 00:51:41
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

"Cell differentiation is a stochastic process subjected to natural selection" (Kupiec)読了。Towards a theory of developmentの第10章。

2014-12-14 22:07:03
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

発生を決定論的な過程でなく、本質的に確率論的な過程として捉えましょうという論文。

2014-12-14 22:16:02
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

著者はまず、同じ分化状態と体内環境にある細胞同士でも遺伝子発現には多様性が見られることを示した近年の研究を取り上げる(stochastic gene expression; SGE)。これは分子間の結合が完全に特異的ではないことと、クロマチン構造が動的であることに起因する。

2014-12-14 22:20:55
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

SGEにより、細胞の挙動もまた確率論的なものとなる。ここで著者が強調するのは、「ランダムさ」とは細胞分化を乱すノイズではなく、むしろ正常な分化過程の欠くべからざる一部分であるということ。

2014-12-14 22:28:03
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

著者が「誘導指導モデル(inductive instructive model; IIM)」と呼ぶ従来のモデルでは、細胞の分化状態は他の細胞からのシグナルによって決定論的に決まるとされる。

2014-12-14 22:33:49
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

これに対して「選択安定モデル(selection stabilization model; SSM)」では、個々の細胞の運命は誘導によって一意に決定されはしない。そうではなく、細胞の状態は周囲の細胞との相互作用によって不安定で未分化な状態から一つの状態へと安定化されるとされる。

2014-12-14 22:40:25
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

たまたま不安定な状態へと落ち込んでしまった細胞集団はやがて死ぬ(vitroでの実験はこれを支持している)。この意味で、細胞間ないし細胞集団間では自然選択と類似のメカニズムが働いていると考えられると著者は言う。

2014-12-14 22:47:04
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

この生物体内部における選択はそれ自体が個体に働く自然選択の産物である、なぜならこの内的選択は安定的な表現型の形成を保証することによって系統発生において強化されてきているから。

2014-12-14 23:11:29
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

また、遺伝子の発現が確率論的であるにも関わらず安定的な表現型が生み出されることは、大数の法則と種々の制約によって説明される。前者は生体内の分子間相互作用の数が膨大であることによる。後者は細胞膜や核、クロマチンなどの構造がランダムな遺伝子発現にある程度の制約を課していることを指す。

2014-12-14 23:18:39
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

以上のような著者が提示する理論の下では、個体発生と系統発生が因果的に相互に関連していることが強調される。個体発生は遺伝子の変異とそれにより生じた表現型を通じてのみ自然選択の影響を受けるのではなく、細胞と細胞集団間での選択を通じても自然選択に影響されることになる。

2014-12-14 23:26:39
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

最後に著者は、自身の持論である「個体発生と系統発生は主観的なカテゴリーに過ぎず、実際は個体系統発生(ontophylogenesis)という一つの現象のみがある」という主張を取り上げ、自然選択という唯一つの理論によって個体系統発生の全体を説明できると述べている。

2014-12-14 23:36:03
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

なんか色々気になるところがあるな。Kupiecは、自身のモデルでは個体発生における環境要因の役割が指導的ではなく選択的なので、「氏か育ちか」の問題は生じないと言っている。でも、例えば温度によって性決定がなされるような場合に、環境要因の役割が選択的であるとは言えないんじゃないか。

2014-12-14 23:47:38
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

ここでは環境要因は細胞挙動を特定の定常状態へと導く(著者が言うところの「制約」)ことで表現型を決定するのであって、定常状態へと落ち込まなかった細胞を殺す(著者が言う「生物体内部での選択」)ことでそれをするわけじゃないのでは。「氏か育ちか」問題の多くはこういう事例だと思うんだけど。

2014-12-14 23:54:09
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

もっともその点を認めただけでは著者のモデルが崩壊するわけではない。ただ、環境からの誘導作用を認めてしまったら環境が発生に及ぼす因果的効力を選択に一元化することはもはやできなくなるわけで、著者のモデルの魅力は少なくとも部分的には失われることになると思う。

2014-12-14 23:58:51
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

すぐにはまとめられないけど、他にも釈然としない点がいくつかある。後できっちり批判的に検討したら結構面白いかも知れない。

2014-12-15 00:00:51
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

"Comparison of animal and plant development: A right track to establish a theory of development?"読了。Towards a theory of developmentの第13章。

2014-12-20 22:29:15
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

「発生の原理」を探るためには動物の発生と植物の発生を比較するのがいい、と主張する論文。

2014-12-20 22:31:12
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

著者の言う「発生の原理」は、多くの系統群の発生において共通して観察されるような何らかのメカニズムを指す。ただし広範に用いられていれば何でもいいというわけではない。

2014-12-20 22:39:55
Yoshinari Yoshida @YoshinariYsd

相同なメカニズムは多くの系統で共有されているが、それらを調べても進化についての情報が得られるだけで、発生を下支えする「原理や論理」は分からない。それらの解明に有効なのは収斂的に獲得された発生メカニズムであり、ゆえに多細胞性を独立に獲得した系統間の比較が重要である、と著者は言う。

2014-12-20 22:45:37
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