rsbs日誌#36

﨟長けた鉄血のかはたれどきの魔女🦋 @r_s_b_s

#rsbs日誌　ハヂマリ。

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#rsbs日誌　ゴボン…ゴポ…と気泡が音を響かせる。海の中は静かだとヒトは言う。だが本当は違う。泡の音や潮の音、魚の音に生き物の命の音。様々な音で溢れている。ヒトの耳は地上の音を拾うのに適しているから、海の音に気付かないのだ。だから気付かないし、気付けない。

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#rsbs日誌　海の音を、海の声を聞くには海の耳が必要だ。鯨の声を聞くには鯨の耳が必要な様に。妖精を見るには妖精の目が必要な様に。だから、そう…彼らの結果は必然の出来事なのだ。海原を駆ける彼らの足を取り、暗い暗い水底へと引きずり込まれてしまうのは、悲しい位当然の事なのだ…

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#rsbs日誌　断末魔が轟き、木霊する。悲鳴が突き抜け、音色に変わる。音が交わり合い、歌に変わる…悲しい悲しい、暗い歌。苦しみ、痛みを歌った悲しい歌…歌が募り募って…命に変わる…どす黒く悲しい命。命と言うには余りにも倫理からかけ離れた命…水底から生まれた其れは…鬼火を携えた…

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#rsbs日誌　　…―――青い鬼火は…生者を引きずり込む魔性の炎―――…

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#rsbs日誌　わいわい、ガヤガヤと騒がしい食堂。それは賑やかな、余り人に嫌われない嫌わない喧騒。艦娘と妖精達は愉しげに会話を交わし、そして何を食すか。舌鼓を打とうかと幸せな悩みに夢中になっていた。普段とは違う際立つ今日の賑わいには理由があった。提督が料理をしているのだ。

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#rsbs日誌　「海〜の底か〜ら旨そうな匂いがするわ〜い♪潜水艦の台所〜で揚げたお芋が魚雷型〜♪」何処の物とも知れぬ不思議な歌を歌い、提督は上機嫌にコロッケを揚げていた。嘗ての帝国海軍で実際に作られた、ベシャメルソース仕立てのメンチコロッケに始まり、王道のジャガイモコロッケ…

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#rsbs日誌　鎮守府の畑で取れたトウキビや近海の海で獲れたカニを使ったクリームコロッケやスパイスがピリリと効いたホットなカレーコロッケ。とレパァトリィは様々であった。気紛れで作る提督の料理は美味しく、また艦娘と妖精らの人気の的であった。故にこの大騒ぎなのである。

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#rsbs日誌　この日、遠征や任務で席を外す事に成っていた艦娘と妖精らは酷く泣き散らした…が、「一人一つは食える様に仕込んでおく故、泣くでない。取り置きしてやるからな？」との慈悲深い言葉に彼女らは笑顔で海の彼方へと旅立っていった。しかし、何故こうも提督は上機嫌であるのか？

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#rsbs日誌　その旨を問うた所「今度の補給で茶葉やらなんやら、わしが前から気になっておった嗜好品が届くのじゃよ〜♪お茶の時間が楽しみなのじゃ〜♪」…と、答えていた。流石の魔女と呼ばれる提督と言えど、嗜好品の魅力を前にすると宛ら恋する乙女のやうにはしゃぎ散らすやうである。

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#rsbs日誌　「提督！第三鍋のカニクリームコロッケ揚がりました！」「第五鍋、メンチコロッケ次弾投入します！」「火傷に気を付けるのじゃよー？」厨房は正に戦争。外には詰め掛けた艦娘と妖精らの群れ。コロッケに添える美味しいキャベツサラダやドレッシング、ソースの準備に大騒ぎである。

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#rsbs日誌　「のう、料理長」「なんですか提督？」料理長、と呼ばれた元艦娘の専任の比叡が答える。「忙しくともやはりこうして、娘らが幸せそうな顔で料理を頬張ったり、あれやこれやと悩んでいる顔は見ていてとても幸福じゃのう…」キッチンから見える食堂の眺めに提督は染々と呟いた。

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#rsbs日誌　「御気持ちは非情に同感ですがこの食欲大戦争の引き金を引いたのは提督のせいなんですからね！春海ちゃん、マヨネーズ新品開けて！お雪、サラダの取り皿追加！川合、取り分け班にコロッケ搬送！ナッチ、食器洗い急いで！」テキパキと指示を下しながら料理長は吼えた。

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#rsbs日誌　「むー…至極真っ当な事を言われてしもうた…」新鮮なラードの油の海を泳ぐホックホクのジャガイモコロッケをテキパキと揚ながら提督は頬を掻いた。それでも言いたかったのだ。娘らの笑顔が何とも幸せであると。「提督ー！ジャガイモコロッケまだですかー！？暴走しつつありまーす！」

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#rsbs日誌　普段とは違うメニューであるため、食券は使えず、古式ゆかしいメモ帳スタイルで注文を取っていた元白露型の五月雨が泣いて絶叫していた。提督のジャガイモコロッケはホクホクなのである。潰し切っていない、ホクホクのジャガイモの、コロッケなのである。それはそれは美味なのだ。

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#rsbs日誌　潰し切ったネットリとしたジャガイモコロッケもまた美味であるが、提督は希少な、ホクホクのジャガイモコロッケをこよなく愛した。口の中を踊るホクホクの食感。それは外のカリカリに揚がった衣ととてもとても相性がいい。火傷を覚悟して、かぶり付きたくなる程に魅力があった。

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#rsbs日誌　そのホクホク加減は専任料理長の腕をもってしても再現は叶わず、魅了された娘らがまるで柔肌を晒した娘に群がる空腹のゾンビの如き形相で群がる始末であった。故に、騒ぐのだ。コロッケ！提督のジャガイモコロッケ！…と。「抑えきれません！早く作ってくださーい！」

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#rsbs日誌　「無理じゃー。揚げる時間は熱力学と物理学が支配しきっておるからのー」「魔女の癖に何でそんなに科学的なんですかー！」「じゃって料理は科学じゃもーん。因みにジャガイモコロッケの残弾、５０を切ったのじゃよー」「ぴえーっ！？残り５０以下です！ごめんなさいごめんなさーい！」

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#rsbs日誌　理性ある暴徒と化した空腹の艦娘と妖精らを相手に注文係の元五月雨は泣きながら平謝りをしていた。それでも仲間達と共に冷静に注文を書き綴っている様子に提督は後でお駄賃を弾んでやろうと心の中で独白するのである。そうこうしている間にもコロッケはパチパチと音を奏でてゐた。

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#rsbs日誌　ベシャメルソースに絡まり、塩コショウで味付けされたジューシーなメンチコロッケも、我儘なまでに具沢山のコーンクリームコロッケ、カニクリームコロッケも、ピリリと辛味の踊るカレーコロッケも次々に飛ぶように売れていった。阿鼻叫喚。然して幸せの絶叫。平和な昼下がり。

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#rsbs日誌　さて…提督の気紛れ料理は終焉を迎え、娘らと妖精らは舌鼓を打ち、任務中の艦娘らの為に取り置きされたコロッケ達は厳重に警備され、捕虜の深海棲艦からのリクエストのコロッケもまた、無事に彼女らの胃袋に収まった。翌日の労働は恐らく大変素晴らしい成果になるであろう。