五大聖戦:第一戦闘フェイズ【第三の扉】

──激突するは慈雨と徒波。
0
蓮田 颯丞 @hasterMissing

仮にも激流は水竜の化身で、呑み込まれたのはそれを操る慈雨の勇者。 激流は少女の身を傷つけず、そのまま魔王から距離を取らせるために輪の外へと弾き出すだろう。 ――それが平時ならば。 今この時、この渦に、水竜は果たして”何を”巻き込み、それは今どうなっているのか。

2014-10-29 00:26:39
蓮田 颯丞 @hasterMissing

「…水は吾なり、吾は水なり」 水竜の加護か。水中においても碧は言霊を紡ぎ続ける。 何も無ければ、碧の身体は激流の外側へと傷一つなく押し流される事だろう。 けれどもし、何かがあるのならば。呪い歌に呻く少女が、それを防ぐ手立ては無い。 少なくとも、今はまだ。

2014-10-29 00:29:09
名もなき魔術師 @Luca_w_de

ぜえ、ぜえと荒い息が漏れる。ここで勇者に止めを刺せば、然しそれが出来るほどに魔力は残っていない。 ――お願い。 「……溺れて死んで、《こっち》へおいで。あたしと一緒に遊びましょう、ねぇ」 同じ唇を吐いて出ずる筈。それなのに、《少女》の呪詛は、私(表層意識)のそれよりも遥かに甘い。

2014-10-29 00:45:42
名もなき魔術師 @Luca_w_de

私の身体を一時的に乗っ取った《少女》が、私の顔でにやぁ、と笑う。未だ荒れ狂う水面に映るその笑みは、おぞましいほどに歪んで―― 魔の魔足る所以を改めて思い知るぐらいには、思考は回復している。 刹那の間であった。刃のない剣の柄は、湖の底に沈んでしまったようだ。 慈雨の勇者は――

2014-10-29 00:45:54
蓮田 颯丞 @hasterMissing

甘く昏い誘いに、碧の目が夢みるようにぼうっとうつろなものになる。 何かに手を引かれるように――いや、事実、引かれているのであろう。 碧は少女に手を引かれて、激流の底へと沈む。水竜の加護があり、溺れ死ぬ事など有り得ない慈雨の勇者はしかし、呪詛によって少しずつ、肺から酸素を吐き出す。

2014-10-29 01:28:48
蓮田 颯丞 @hasterMissing

だが、それを黙って見ている水竜ではない。 激流と化した己の身体を、徐々に元の竜のかたちへと戻る。 すぐさま激流は消え、水の竜の姿が露となっていく。水底でなければ溺れ死ぬ事は無い。 単純で、しかし、それ故に読まれ易い。苦肉の策。

2014-10-29 01:40:59
蓮田 颯丞 @hasterMissing

水竜はかたちを戻しながら碧へと咆哮を一つ上げて。 もしも可能ならば、そのまま口を広げ、彼女を己の中へと呑み込もうとするだろう。

2014-10-29 01:42:42
名もなき魔術師 @Luca_w_de

水の竜が元の姿に戻ってゆく。 身体の支配権を《少女》から元の私へ。魔術を使えるのは、元から魔術師として生きてきた私しかいない。 然し、遅かった。 水の刃を。手を翳すも間に合わない。 後ろに飛ぶ。 呑まれることは間一髪で避けられたものの、服が裂けて腿から血が流れる。

2014-10-29 08:09:52
名もなき魔術師 @Luca_w_de

「……っ!」 肉が幾らか削げたらしい。《女たち》が泣き叫ぶ声が私にのみ聞こえる。 激痛。絶叫。未だ、未だ倒れる訳にはいかない。倒れたところで楽になどなる筈がない。 この至近距離で仕留めない訳にはいかないのだ。 「魔力を……」 右手の手元で水が刃を成す。私はそれを、水竜の喉元へ。

2014-10-29 08:10:04
蓮田 颯丞 @hasterMissing

水刃は、吸い込まれるようにして竜の喉元へと突き刺さる。 水そのものである水竜が受けるダメージは、本来ならば僅か。だが、魔王の、それも同じ水に属する者の一撃ならば僅かでは済まない。 刃は水の鱗すら突き破り、水竜へと痛手を与える。 ーー直後。水竜の背後から、飛び出して来る白い影。

2014-10-29 08:45:23
蓮田 颯丞 @hasterMissing

「…吾は時となりて世界を回し、空となりて世界を包もうっ!」 叫ぶような詠唱。先程から紡いでいたそれは、完成も間近なのか。 女神の加護を受けた膨大な魔力の奔流が碧から、あるいは碧へと、生まれ、注がれる。 だが、今の目的はそれではない。

2014-10-29 08:49:00
蓮田 颯丞 @hasterMissing

水竜を、水刃を越え、跳躍した碧が狙うは攻撃直後のルーサルカ。 少女の体躯に見合わぬ轟音を立てながら地面へと着地した瞬間、ルーサルカの腹へと深く潜り込み、掌底を叩き込もうとする。

2014-10-29 08:52:39
蓮田 颯丞 @hasterMissing

反撃すらも許容した、一撃の破壊力に偏った拳撃。 武術の心得があるならば、それが八極拳と呼ばれる武術の型である事が分かるだろう。 もっとも、小柄で体重も軽い碧の一撃は、直撃を受けたところで致命傷には至らないだろうが。

2014-10-29 08:56:02
名もなき魔術師 @Luca_w_de

水竜の背後。視界に異物が飛び込む。 華奢で小柄な少女の、慈雨の勇者の影。 少し、否少しではない。驚愕する。仕留めるまでは行かなくとも、あとは仕上げだけだった筈の少女だ。 詠唱。魔力。決意の表情。 見くびっていたのは此方の方らしい。 一瞬の判断。避けることが叶わないならば。

2014-10-29 09:20:58
名もなき魔術師 @Luca_w_de

骨の折れた音は聞こえなかった。 唯、耐えがたい痛みが一つ増えただけだ。遅れて口の中に血の味が滲む。 身体で受け止めた少女の一撃。これが魔力に頼ったものならば、 「……こ……の、っ……」 痛みで途切れそうな意識を叱咤する。両腕で少女の肩を乱暴に引き寄せる。

2014-10-29 09:21:06
蓮田 颯丞 @hasterMissing

肉を抉り骨を砕くこの感覚は、何度やっても慣れない。 がしりと碧の身体が掴まれて、ルーサルカへと引き寄せられる。 碧はそれに逆らわず、右側へ上半身を極限まで捻りながら、左手の拳を右手で包む。

2014-10-29 12:17:44
蓮田 颯丞 @hasterMissing

抱き寄せられ、肉薄するその瞬間。 「はぁぁぁぁっ!!」 足を捻り重心を傾けながら、捻り上げた身体を爆発的な勢いで戻す。 左の肘を突き出して、それを右の掌が押し付ける。 上半身全体を発射台とした肘鉄の一撃を、ルーサルカの腹部へと突き刺そうとする。

2014-10-29 12:23:22
名もなき魔術師 @Luca_w_de

気の遠くなる痛みの中。取れる手段は限られている。 「……水、の、本質……は……」 口にすることで意識を繋ぐ。私はまだ、倒れる訳にはいかないのだ。 打撃。口の端から血が零れる。頭に響く《女たち》の声が遠い。現実は尚更に。 然し、未だ倒れる訳にはいかない。 死ぬわけには、いかない。

2014-10-29 13:24:05
名もなき魔術師 @Luca_w_de

思い出せ、決意を。思い出せ、目的を。 彼女たちと誓ったのだ。私は此の冥い魔の道を行くと。 一瞬が随分長い時間に思えた。少女の齎す痛みを毅然と受け取る。 そして、 「……水の、本質は……む、きょうかい」 少女の攻撃を受けながらも、掴んだ腕は離さない。 この痛みを貴女に差し上げよう。

2014-10-29 13:24:06
蓮田 颯丞 @hasterMissing

「…………」 使い手によっては二の打ち要らずとまで称される、渾身の打撃が、二発。 手応えは確かにあったが、掴む腕が緩む気配はない。 血を吐くルーサルカの様子に、彼女もまた、譲れない願いがある事を強く感じる。 ーーだが、こちらとて退くわけにはいかない。

2014-10-29 15:26:58
蓮田 颯丞 @hasterMissing

碧は再び言霊を紡ごうと口を開きかけ。 しかし、それよりも早くルーサルカの言葉が紡がれた。 元より防御など捨てた捨身の一撃。碧に、それを防ぐ事は叶わない。

2014-10-29 15:28:43
名もなき魔術師 @Luca_w_de

次なる攻撃を仕掛けんとする相手に隙を作るため、詠唱する。 水の本質は無境界。 私の身体と意識を灼くこの痛みが、掴む腕を通じて慈雨の勇者へと伝わる筈。隙さえ出来れば、水の刃で首を、 『……何がそんなに哀しいのですか?』 ふと頭に響いたのは、《女たち》の声ではない。 嘗ての、私の。

2014-10-29 16:55:15
名もなき魔術師 @Luca_w_de

『……独りきりで泣かないで下さいな。それよりも、歌い、踊りましょう』 夜の帳の降りた湖の辺で、白く細い手を取った、私の声。 嘗ての、遠い遠い昔の、記憶。世を儚み、名前さえも忘れ去られた魔術師が、原初の《ルーサルカ》と交差する記憶。 痛みが、遠い。溢れて落ちる涙ばかりがいやに熱い。

2014-10-29 16:56:29
名もなき魔術師 @Luca_w_de

勇者を殺せば、多くの者が魔王に害され、怯えて暮らすことになる。そんなことは知っている。 それでも、 『……わたくしがついております。わたくしが貴女方の《ルーサルカ》となりましょう』 私が取らねば、誰が取ったというのだ。 悪魔と呼ばれ、誰の庇護も受けられぬ、孤独な彼女たちの、手を。

2014-10-29 16:56:57
蓮田 颯丞 @hasterMissing

「…………ッ!?」 突如内から生じた痛みに、思考が混乱する。 身体に傷は無い。だというのにまるで内臓を抉られたかの様な痛みが我が身を襲っている。 臓器を直接攻撃されたのか? それとも幻覚なのか? 一瞬、混乱しそうになる頭は 「…………」 目前の女の涙を見て、冷静さを取り戻す。

2014-10-29 21:57:43