- FiveHolyWar
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魔王と呼ばれる者たちが現れてより、精霊の加護を欠いた現し世は、何処も似たような様相を見せる。 女神の『神殿』も、やはり荒れ果てていた。乾いた大地の上に、朽ちかけた石造りの建物。ひび割れた窓から、崩落した天井の隙間から、灰色の空が覗いている。その雲は太陽を隠し、雨の一粒も齎さない。
2014-09-22 18:57:30礼拝堂。姿の透けた狼が、落ち着いた様子でゆったりと、音もなく、色あせたタイル貼りの床を歩く。その後に続くように、赤い髪の女が姿を見せる。下ろしたままの長い髪は、毛先をまっすぐに揃えているのに、櫛を入れ忘れたように絡み、縺れている。着ているものは、継ぎ接ぎのくたびれた木綿のドレス。
2014-09-22 19:08:56「――マテル」 呼びかければ、狼が振り返る。透けて色の判然としない瞳が、女の緑色の瞳へと向く。女は物憂げな表情で、微かに唇を動かした。 「あたし一人じゃ、全部は無理だと思うわ」 他に何の姿も見えない、音も聞こえない。ここは空っぽであるように、女の目には映った。
2014-09-22 19:20:41女は自分の役割を知っている。けれど、同じく勇者たるものが存在していることを、まだ知らない。 「それでも、意味はあるのかしら」 細い声が虚ろに響く。廃墟も同然の風景の中に、立ち尽くす。引き返すつもりは、ない様子で。
2014-09-22 19:25:27「わー、やっぱしここもボロボロなんだね。うちとそっくりだ」 荒れきった漠々たる世界に住まう民としては、その少年は聊か能天気に過ぎた。黒の蓬髪を一つに束ね、貧弱な身体を擦り切れた外套で覆い隠す。日蝕めいた眼球で、悪に淘汰された女神の残骸とも言うべき神殿を一瞥すると、口を開いた。
2014-09-22 20:46:27「本当に魔王を倒すチカラなんてあるのかなぁ。僕が偉いことをやりたいあまりに幻聴を聞いたんだって言われた方がしっくりくるよ」 少なくとも少年の中で、女神の権威は失墜している。これだけ世界を放置しておきながら、今更神託など。 それでも少年がこの場へ赴いたのは、偏に義務感故だ。
2014-09-22 20:46:55自らが生きていくべき領域を護る為であり、共に暮らす家族の領域を護る為でもある。領域を護る力を得た以上は、その領域を護る為に邁進するのが至極当然。どこまでもって自分の為というのも、また事実だが。 「だーれかいーませんかー」 内部を碌に確認する事なく、外から気のない声をかけた。
2014-09-22 20:47:14神殿の礼拝堂へと歩を進める女がいた。 身につけているのは、あまり豪華とは言えない、それでもよそいきであることが伺える白いドレス。 手には木でできた杖――長さから見て歩行を助けるためのものだろう――を持っているが、それを使う様子はない。 一歩ずつ、しっかりとした足取りで進む。
2014-09-22 21:23:11廊下を歩く長身の女の頭上に、天井に巣を張っていた小さな蜘蛛が、つい、と降りてくる。その白金の髪にとまる前に、気づいた女は指先で糸をつまみ、それを防いだ。 「あら」 蜘蛛を床へ逃がし、口元に浮かべていた笑みを深くする。 「私の頭に触れるなんて……嬉しい事だけど、だめよ」
2014-09-22 21:29:33「さてと。礼拝堂まで行けば、女神様に会えるのかしら?」 わくわくとした響きが隠し切れない声で、先ほど蜘蛛が乗りそうになった自らの頭の天辺に、そっと指先で触れた。 「あらいけない、気を引き締めて。私はしっかり、お役目を果たさなくちゃいけないんだから」 扉に手をかけ、力を込める。
2014-09-22 21:34:32ゆっくりと、神殿に近づく。馬の上で揺れる体。手綱を引いて、女神に祈る。 「どうか、精霊の世の再興を。」 神殿には最後の味方がいるという。
2014-09-22 21:57:59神殿に眼差しを向けた。 「僕は人々の心(せいぎ)に殉死します ですがもし、最後に正義が勝つ!みんなの希望を認めて頂けるなら!! ……私に戦うための命をください、女神様……ッ」
2014-09-22 21:58:14神殿への階段を登る。入り口に瑞風の勇者がいた。 「やあ、僕は光焔の勇者。ただ光焔(こうえん)と呼んでくれ 若いね。長生きしなさい。勝って、豊かな世界で人生を楽しみなさい……ははは」 瑞風を通り越して神殿の中へと。
2014-09-22 21:58:41「うぉっ。脅かすなよ」 想定していた前方ではなく後方から。声をかけられ僅かに飛び上がりながら、先よりも数拍早く鼓動を刻む心ノ臓を押さえて。 「コーエン?ったって、あんただって年寄りには見え…ちょっおい」 耳朶は【光焔】を名と認識。やや片言めいた発音で復唱し。
2014-09-22 23:49:50廃退した女神の神殿。少し遠目に礼拝堂と思しき扉。 「これほどに追い込まれたとは。君の名は?」 礼拝堂へ歩み、瑞風の勇者に頭だけ振り返りたずねた。 「僕はそろそろ30歳だ。若いころ、この世界は優しいんだって教えてもらった こんな風に世界を変えてしまった魔王を、僕は許せない」
2014-09-23 00:42:32「瑞風ってのも言いにくいよね。アスラでいい」 家族にしか呼ばれぬ名を至極あっさりと名乗った。 「30歳は僕から見れば確かに年上だけど、年寄りって呼ばれるほどじゃないと思うな。あんただってこれからだ」 打倒魔王が成されれば、の話だが。
2014-09-23 02:37:45少し困ったように視線を泳がせた。 「そうだね。僕にも他の勇者にも故郷のみんなにも 魔王を倒した先を見る資格と希望はあるんだ。長生きしなきゃな……」 どこか実感のない言葉だった。
2014-09-23 06:43:02「彼女も勇者なのかな。僕は腕っ節があるわけじゃないんだけど勇者になったし、女性の勇者がいても不思議じゃないね」 礼拝堂の入り口に立っている勇者にかなり近づいていた
2014-09-23 06:43:43礼拝堂に一歩足を踏み入れようとして、近づいてくる人の気配に気づく。 振り返った女の青い瞳が、埃っぽい空気の向こうに人の影をみとめた。 これでも戦いのための訓練で、気配の察知は得意だ。 「他の勇者かしら」 取っ手にかけた手を引っ込め、白いシャツの人物が近づいてくるまで待つ。
2014-09-23 07:50:50「ごきげんよう」 相手がかなり近づいてきてから、女は会釈をして声をかけた。 「私、慈雨の勇者、なのだけれど……あなたも女神様から力を授かった、勇者の方なのかしら」 その背の高さが相手に与える堂々とした印象とは裏腹に、女は若干おどおどとした口調で話しかけ、返事を待った。
2014-09-23 07:57:40悲しげな瞳で、慈雨を見る。 「海はとても人の暮らせるようなところではなくなってしまったね……」 でもと続ける。 「まだ人が住んでいるところもある。僕も彼らを救うために戦うよ」
2014-09-23 10:20:04