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福島の甲状腺がん遺伝子解析について 2014年11月14日、福島医科大の鈴木真一氏が福島の癌の遺伝子解析結果を甲状腺学会で発表した。その結果について、注意すべき点を考えてみたいと思います。
2014-11-15 23:13:51事実確認(福島民報、NHK福島、@Yuri Hiranuma, togetter.com/li/744264)。 (1)23の組織標本を遺伝子解析した。平均年齢17.9才である。BRAF, RAS, RET変異陽性が確認された。
2014-11-15 23:15:43(2)成人型(BRAF)が67%陽性、小児で高頻度のRETは12.5%、チェルノブイリにおいて高頻度で発見されたRET/PTC3はゼロであった。 (3)成人型が多く、チェルノブイリと型が違うので「被曝起因とは考えにくい」と結論。 pic.twitter.com/IfLm1vIY04
2014-11-15 23:18:33鈴木真一氏の結論については、以下3点に注意が必要と思われます。 (1)たった23例で結論が出るのか? (2)チェルノブイリと福島の「年齢差」が無視されてはいないか? (3)そもそもRET再配列は被曝誘因癌のマーカーなのか?
2014-11-15 23:19:39ここでは、(2)チェルノブイリと福島の年齢差、および(3)RET再配列と被爆との関係、この二点に絞って、少し議論したいと思います。
2014-11-15 23:20:38小児乳頭がんの病理型・癌遺伝子は10才前後を境に変容することが知られている。以下図は英国の0-9才集団、および10-14才集団の病理亜型の違いを示している(Harsh & Williams, 1995)。 pic.twitter.com/rQYFG6I9fl
2014-11-15 23:22:3910-14才集団では標準型乳頭癌が大多数を占め、0-9才集団では充実型・濾胞ヴァリアントの乳頭がんが顕著に多いことから、Harsh & Williamsは充実型を「幼児型乳頭がん」と呼ぶ。 pic.twitter.com/wJNsUpDcTH
2014-11-15 23:26:00(訳)子供の年齢を分析すると、一般により若い子供ほど(乳頭癌)標準型は少なく、充実性ー濾胞型腫瘍がより多く発見されている。成人では充実性ー濾胞型腫瘍は極めて稀なので、我々はこのタイプの腫瘍を「幼児型」乳頭がん("childhood" PTC)と呼んでいる。幼児型の症例は(この研究が対象とする全小児症例のうち)33%を占め、10才未満の60%を占めている。平均年齢は10.4才であった。標準乳頭がんでは10才未満の子供は一人もおらず、平均年齢は13.1才であるので(幼児型は)かなり低年齢である。10才以上の患者では、60%近くが標準型乳頭がんであった。
このように、10才以上の子供では標準型が多く、成人乳頭がんに近い病理組織形態をとることが知られている。よって、現段階での福島(平均年齢17才)で「(チェルノブイリとは異なり)標準型乳頭がんが多数を占める」との福島医科大の発表(2014年6月)は、ある意味当然であろう。
2014-11-15 23:27:34ところで、初期チェルノブイリでは「幼児型」乳頭癌がたくさん発見された。遺伝子レベルでは、幼児型(充実型)はRET/PTC3変異、成人型(標準型)ではRET/PTC1変異が高頻度でみられる(Thomas G et al. 1999)。 pic.twitter.com/kv6UA8SSFU
2014-11-15 23:30:17とりわけ、チェルノブイリでは事故後10年の初期症例でRET/PTC3が多く見られた。ただし、患者の高年齢化とともにRET/PTC1に移行し、さらにBRAF変異などに大部分が移行すると予測されている(E. D Williams)。 pic.twitter.com/a72hTb2XMA
2014-11-15 23:31:55このように、小児乳頭癌は10才前後を境に、病理組織タイプも遺伝子表現型も大きく異なる。「年齢の違い」は重要である。福島23例の平均年齢は18才、初期チェルノブイリの診断時平均年齢は9~11歳前後である。福島は「成人型」(標準乳頭癌)、初期チェルノブイリは「幼児型」に対応する。
2014-11-15 23:33:40とくに初期チェルノブイリで高頻度で見られたRET/PTC3は幼児型乳頭がんの典型的な遺伝子変異である。平均年齢18才の福島で「RET/PTC3変異が発見されなかった」(鈴木氏)ことは年齢ファクターを考えれば、ある意味当然の結果である。
2014-11-15 23:35:17むろん、福島でもこれから低年齢層に癌患者が移行する可能性がある。実際に、チェルノブイリでは事故直後では青年層の増加がメインであり、低年齢層の癌が爆発的に増加したのは事故後4年を経てからである。 pic.twitter.com/zayavikxDL
2014-11-15 23:37:06ウクライナでも同様であり、山下俊一、鈴木真一氏らの論文(2014年)の図にあるように、事故後3~4年のウクライナと福島の年齢層はピッタリ重なる(@Yuri Hiranumaさん 、@ytkhamaoka さんなどからご教示受けた)。 pic.twitter.com/Tmz3NJYAPz
2014-11-15 23:38:28以上まとめれば、少なくとも現段階では、福島と初期チェルノブイリの年齢層は大きく異なる。よって「遺伝子解析をした結果、福島はチェルノブイリ型とは異なった」と結論付けるのは現時点では稚拙であろう。両者の違いは「年齢層の違い」の反映である可能性を考慮しなければならない。
2014-11-15 23:41:30(3)そもそもRET再配列は被曝誘因癌のマーカーなのか? 鈴木真一氏はRET/PTC3だけなく、RET/PTC変異自体が福島の23検体で12%しか見られなかったことも挙げて、「被曝が原因とは考えにくい」との根拠としている。次に、この点を考えてみたい。
2014-11-15 23:43:09初期チェルノブイリ研究では、RET再配列が高頻度で見られたことから、RET変異が被曝と関係あるのではないかと議論されてきた。ただし、近年では両者の因果関係に疑問を付す研究も多い。たとえば、ウクライナの研究を見てみよう(Powell N. et al. 2005)。
2014-11-15 23:44:03Powell N et al. 2005では、ウクライナ67症例に遺伝子解析を行っている。30才以上成人32人、16才未満小児が37人である(この内8人の子供はチェルノブイリ事故後の出生者であり、初期被曝は受けていない)。 pic.twitter.com/30LRlkBw7N
2014-11-15 23:51:21BRAF変異は成人で58%、小児では1例であった。RETについては、被曝群と散発群(自然発生癌)ともに差がなく、各々44%、50%であった。被爆群よりも散発群(被曝なし群)の頻度の方がむしろ高いという結果である。 pic.twitter.com/ZSH8QG6C9J
2014-11-15 23:53:04同様の結果はブリヤンスク州の研究でも示されている。この研究ではRET再配列の頻度と甲状腺被曝線量の間に有意差が見られないとして、量反応関係の点でもRETと被曝の関連性が否定されている(Tuttle R. M. et al. 08)。 pic.twitter.com/Ksq3DvWiNA
2014-11-15 23:54:41このような研究が相次いだことから、近年では「RET再配列は被曝誘因癌のマーカーではなく、患者の低年齢と関係している」との指摘も多い。 @CordwainersCatさん「RET/PTCは被曝誘因癌のマーカーではない?」 togetter.com/li/744789
2014-11-15 23:59:49かりにRET再配列が被曝とは無関係なら、医科大の遺伝子解析の結論は大きく揺らぐことになろう。「チェルノブイリではRET再配列が多くみられ、福島では見られない」という言明では、確たる結論は何も導かれない。
2014-11-16 00:02:44