【突然の】枇杷先生の止血凝固講義【真面目】

枇杷先生の止血と凝固の講義 Hemostasis and Coagulation presented by Dr.Biwa
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枇杷 @loquat_priest

よっしゃ、唐突に連ツイ開始。ふだんバカ話と愚痴と文句しか言わないのにたまに勉強になるメンドクサイタイプのアカウントです。

2014-12-20 17:44:00
枇杷 @loquat_priest

血液凝固の話。出血を止めるヒトの身体の働きは、「血小板凝集」と「血液凝固」の2つでほぼすべてと言ってもよい。

2014-12-20 17:47:54
枇杷 @loquat_priest

血小板凝集は、血液中を流れる血小板という微粒子が、活性化して互いにベタベタとくっつき、血栓(thrombus)をつくる反応。粒子レベルの反応なので速いのが特徴で、短い時間で比較的大きな血栓をつくることができ、動脈のように流れが速いところでも対応できる。

2014-12-20 17:51:08
枇杷 @loquat_priest

血小板血栓は、速くつくれるかわりに強度が弱く、破綻しやすい。ケガをしたあといったん出血が止まったように見えたのが、傷をいじるとすぐ出血するのはこのため。止血を安定させるには、血栓を物理的に強くする必要がある。

2014-12-20 17:56:37
枇杷 @loquat_priest

これに対して凝固は、血液中のタンパク質の一種の「凝固因子」が、化学反応により重合して血餅(clot)をつくる反応。分子レベルの反応なので、加速する仕組みがあっても時間がかかる。できるのは遅いが、できた血餅は強固。1日たった傷をちょっと触ったくらいでは、かさぶたは剥がれない。

2014-12-20 18:03:39
枇杷 @loquat_priest

止血には2つの仕組みがあるが、血小板凝集と血液凝固は互いに活性化しあうので、血小板だけの血栓や血小板を全く含まない血餅というのはみられない。一般論として、動脈系には血小板に富む白色血栓が、静脈系には血小板の少ない赤色血栓ができやすい。

2014-12-20 18:08:30
枇杷 @loquat_priest

んで、凝固のメカニズムの話。凝固は難しいとかややこしいと言われるけど、個人的には、いきなりローマ数字の凝固因子とか、凝固カスケードやらの話が始まるからだと思う。凝固系を理解するには、「凝固系が実現したいことを理解する」「登場する役者をきちんと知る」だけでかなりいけると思ってる。

2014-12-20 18:14:26
枇杷 @loquat_priest

凝固系が実現したいこと。「止血が必要とされる場所で、最速で血餅をつくる」「不必要な場所で固まらせない」「間違って作動したら止める」「いらなくなった血餅は解かして消す」この4つ。

2014-12-20 18:25:07
枇杷 @loquat_priest

出血は死に直結するので、当然ながら実現したい中で最重要なのは「必要な場所ですぐに固まらせる」。この部分に最もエネルギーが注がれる。必要なのは、局所にとどまることと短時間を実現すること。例えば、飢餓による糖新生で肝臓全体が働くというのとは、かなり違った仕組みが求められる。

2014-12-20 18:30:23
枇杷 @loquat_priest

凝固の話に細胞はほとんど出てこない。これは、出血を感知してから細胞にシグナルを入れて、タンパクを合成するところから始めたのでは遅すぎて間に合わないから。前もって肝臓で多量のタンパク質を作り、血液中に豊富に流しておく。

2014-12-20 18:37:52
枇杷 @loquat_priest

70%が水分のヒト生体で塊をつくるには、不溶性のポリマーをつくればいい。水溶性のモノマーをたくさん血液中に循環させておいて、簡単な化学反応で疎水性の部分が露出するようにしておけば、分子間力と疎水結合で勝手にモノマーが重合してあっという間にポリマーができる。

2014-12-20 19:10:59
枇杷 @loquat_priest

これがフィブリノゲンで、酵素によって切断されるとフィブリンとなり、フィブリン同士は速やかに重合してフィブリンポリマーをつくる。この反応が起こらない限り、血餅はつくられることはないので、この反応を妨げれば凝固を阻害できる。

2014-12-20 19:17:31
枇杷 @loquat_priest

フィブリノゲンを切断してフィブリンにする酵素がトロンビン。血液凝固の反応のうち大部分は、トロンビンがフィブリンをつくってこれが重合する反応で、あとはオマケと言ってしまっても差し支えない。

2014-12-20 19:21:13
枇杷 @loquat_priest

ちなみにフィブリンの名の由来はfiber、トロンビンの名の由来はthrombus。この反応が大事であとはオマケなのに、オマケの凝固因子がなぜ他に何種類もあるのか? それも「短時間」を実現するため。

2014-12-20 19:23:29
枇杷 @loquat_priest

トロンビンは酵素なので、1分子あれば時間あたりある一定量のフィブリノゲンをフィブリンに切断できるが、止血を得るために短時間で大きなフィブリンポリマーを作ろうとすれば、トロンビン自体もそれなりの量が必要になる。短時間にそれなりの量のトロンビンを用意するにはどうすればいいか。

2014-12-20 19:26:54
枇杷 @loquat_priest

その答えは、トロンビンを前駆体として血液中にたくさん用意し、酵素によって切断させればいい。トロンビンの前駆体がプロトロンビンで、この反応を触媒する酵素が第10番目の凝固因子。

2014-12-20 19:31:07
枇杷 @loquat_priest

少量の第10因子があれば、「短時間に」それなりの量のトロンビンをつくり、それなりの量のトロンビンが多量のフィブリンを生成できる。凝固反応が何段階もの酵素反応の積み重ね(カスケード)になっているのは、出発点の酵素が少量でも、短時間に多量の最終生成物ができるというメリットによる。

2014-12-20 19:36:00
枇杷 @loquat_priest

枇杷が精力的に書いたブログが1日100人のペースで閲覧されるのと、枇杷のツイートが1日あたり100人のフォロワーにRTされるのとでは、同じ時間で見てもらえる量がケタ違いになる。ネズミ講と同じ。凝固のカスケードが複雑になる第一の理由は「短い時間で大きなフィブリン塊をつくれる」から。

2014-12-20 19:39:56
枇杷 @loquat_priest

豆知識1。凝固因子はなぜ名前でなく番号で呼ばれるか。1940-50年代にプロトロンビン、フィブリノゲン以外の凝固因子の発見が相次いだが、多数のグループがそれぞれに因子を命名したので混乱が生じた。1962年に専門家会議で発見順にローマ数字で番号を振ることが決められたのです。

2014-12-20 19:48:31
枇杷 @loquat_priest

それぞれの因子はfactorの頭文字をとってFI, FII…と呼ばれる。FIはフィブリノゲン、FIIはトロンビン。凝固因子の多くはタンパク質の切断活性にCa2+イオンを要求するので、FIVはカルシウム。

2014-12-20 19:52:46
枇杷 @loquat_priest

豆知識2。採血管にEDTAが入っているのは、Ca2+をキレートして不活化することで、凝固因子を働かせなくして血液凝固を阻止するから。よく混ぜて固まらないようにしましょうね。

2014-12-20 19:54:04
枇杷 @loquat_priest

豆知識3。凝固因子は1から13まであるが、FVIは欠番。これは、FVが発見されプロアクセラレリンと命名された時、その働きがアクセラリンという6番目の因子をつくると考えられたが、後にアクセラリンと考えられていたのが活性化されたFV自身(FVa)だったため。

2014-12-20 19:57:08
枇杷 @loquat_priest

いけねタイポ。プロアクセラレリン→プロアクセラリン

2014-12-20 19:57:52
枇杷 @loquat_priest

さて、フィブリノゲンとトロンビン以外はオマケだって言い切っちゃったけど、あんまりなのでちょっと補足。プロトロンビンをトロンビンに切断する酵素はFXa(FXの活性型でaをつける)。ではXをXaに変えるのは?

2014-12-20 20:03:37