オバケのミカタ第三話『オバケのミカタと吸血鬼』Aパート(1/3)
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それでも何とか破綻せずにやれているのは、お化けを狙った事件自体がそこまで多くないお陰だ。「――なのに最近、ちょっと事件が多すぎるわよね」哀が呟いた。ガレージを辞し、バックヤードの廊下を、出口目指して歩いている途中であった。「あの噂、やっぱり本当なのかしら」#OnM_3 47
2014-12-20 22:44:03「採算度外視でE兵器をばらまいている武器商人……ですか?」マコトが眉をひそめる。「本当にそんなヤツがいるとしたら脅威よ。『ないことになってる兵器』の取引を規制する法律なんて作りようがないんだから」「記憶の現実性バイアスですね」「そう」哀は頷く。#OnM_3 48
2014-12-20 22:44:32それは生のエクトプラズムをまき散らす霊動装甲全てに共通する性質だった。霊動装甲を見た・霊動装甲に出会ったという記憶は、人間の中で急速に薄らいでゆくのだ。そしていつの間にか、あれは夢だった、ただの交通事故だったなどという、現実的解釈にすり替わってしまう。#OnM_3 49
2014-12-20 22:45:31写真や映像に映らない――映ったとしても不自然な光や画像の歪みに隠されてしまう――という性質も、認知しづらさに拍車をかけている。霊動装甲を捉えられるのは、同じく霊子を利用した機器だけ。現実の戦場で人を殺めながらも、霊動装甲が一般に周知されない理由はそこにある。#OnM_3 50
2014-12-20 22:46:03「要は、きっかけがあるかないか、なんですけどね」言いつつ、マコトは裏口の鍵を開け、外へ出る。「この世にお化けたちが本当にいて人間の生活とも無関係じゃない、と知るきっかけが」「難しいわね。誰彼なく認知されちゃうと、それはもう不思議じゃなくなっちゃうわけだし」#OnM_3 51
2014-12-20 22:46:51「アレッ? 曲さん?」不意に名を呼ばれて、マコトは一瞬、耳を疑った。この声――なぜ彼女がここに?「やっぱり曲さんだ。何してんのここで?」自動販売機の前にしゃがみこんだ上繁神奈が、目をまん丸にしてこちらを見つめていた。多分、マコトも彼女と同じ顔をしていたろう。#OnM_3 52
2014-12-20 22:47:19マコトと哀、神奈は誰が言うともなしにプランターの縁に並んで座り、軽く会話を交わした。「喉が渇いたから、レキ部(歴史部)のみんなからいっとき離れて、ここまでジュース買いにきたんだけど……」と、神奈。「まさかそこで曲さんに会うなんて。すっごい偶然」#OnM_3 53
2014-12-20 22:55:01「ここ、なんでか知らないけど裏口横にしか自販機ないのよね」哀が飲み終わった豆乳のパックを丸める。神奈が言った。「ここに曲さんたちの秘密基地があったんだね」「秘密基地って……ただのお役所ですよ?」マコトは苦笑した。実際、近辺に住むお化けの多くはここを知っている。#OnM_3 54
2014-12-20 22:55:27「そういうもんなの? でも曲さん、昨日も……戦ってたんでしょ?」神奈はマコトの顔に残る痣へ、遠慮がちな視線を送った。「ええ、まあ……」「休みとかないの?」「ここ三日ほどはちょっと忙しかったですけど。多分、明日は一日丸ごとオフですよ」「え、本当?」#OnM_3 55
2014-12-20 22:56:05「明日が何か?」「や。実はさっきレキ部の友達と、明日横浜まで遊びに行こうって話してたんだけど」「はあ」「……曲さん、妖怪とか好き……だよね?」横浜行きとその質問がどう結びつくのか分からず、マコトは小首を傾けた。「ええ、それはもう。こんな仕事してるくらいですから」#OnM_3 56
2014-12-20 22:56:23「だよね」「それが何か……?」「んー、ど、どうしようかな。迷惑だったらいいんだけど」「もったいつけるわねえ」哀が嘆息し、豆乳パックをゴミ箱に投げた。外れた。「……そこまで言ったんなら話しなさいな」「……だね。曲さんあのさ、良かったら明日、一緒に来ない?」#OnM_3 57
2014-12-20 22:56:40「で、あんなに浮かれてるってわけかい」床にまき散らかされた衣類を横目に、沙綾が言った。「マコトお姉ちゃん、もう二時間もああやってるよ」と、充。「いいじゃないの」と哀。「マコトはもうちょっと、年頃の女の子らしい楽しみを知るべきだわ。……とはいえ……」#OnM_3 58
2014-12-20 22:57:57「服はもうちょっと揃えるべきよね」哀たちの視線の先――居間に置かれた姿見の前では、マコトが熱心に明日のコーディネートを考えていた。しかし足元に積まれたのは同じようなブラウスと、同じようなジャケットと、同じようなスカートばかり。悩む余地があるとは言い難かった。#OnM_3 59
2014-12-20 22:58:37同じ土曜日の夜。彩瓦市の中でもちょっと鄙びた地域に建てられたマンション『メゾン彩瓦』の一室である。ドアにかけられた標札の表記は『曲』――マコトはここで、哀、充、沙綾らと共同生活を送っているのだった。#OnM_3 60
2014-12-20 22:59:11「でもコレ『年頃の女の子』が仲良く観にいくようなモンか?」沙綾が、手にしたチラシをヒラヒラさせる。神奈から渡されたそれは、横浜で開かれている妖怪をテーマにした展覧会のものだ。浮世絵や双六など、二百点以上が集まるという。「きっかけとしてはアリじゃないかしら」と哀。#OnM_3 61
2014-12-20 23:00:02「どうせその後ランチとかショッピングとかカラオケとか行くんでしょ」「アタシが心配してんのはさ、余計なお化け薀蓄垂れまくって引かれねえかってことなんだよな」「あー」哀が唸る。「歴史部でしょ? ちょっとぐらいその、オタクっぽくても、許容してくれるんじゃないかしら」#OnM_3 62
2014-12-20 23:01:05「あのう」ひそひそと話し合っていた三妖怪は、突然話しかけられて飛び上がった。哀がごこちない笑みで振り向く。「な、何、マコト?」「最後の二つまで絞ったんですけど、そうしても決められなくて。どっちがいいと思います?」マコトが示したのは、二着のブラウスである。#OnM_3 63
2014-12-20 23:01:56片や角襟で、ベースは白。薄いレモンイエローのストライプ。片や角襟で、ベースは色。薄いベージュのストライプ。「んなもんどっちも同、イッテエ!」沙綾の足を素早く踏んづけ、哀はにっこり微笑みかけた。「レモン色がいいと思うわ」「そうですか」マコトははにかんだ。#OnM_3 64
2014-12-20 23:02:23哀は祈った。どうか明日一日、何事も起こりませんように。こんな形で、マコトの努力が報われる日があったっていいはずだ……一日くらい。#OnM_3 65
2014-12-20 23:02:50