オバケのミカタ第三話『オバケのミカタと吸血鬼』Aパート(1/3)

twitter連載小説『オバケのミカタ』の第三話。妖怪&特撮テイストのアクション小説です。
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アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

オバケのミカタ 第三話『オバケのミカタと吸血鬼』#OnM_3 00

2014-12-20 22:00:54
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「ふろいでー、しぇーねる、げってるふんけん、とったー、あうす、えっりーじーうーむ」神奈川県某所、深夜の貿易港。コンテナがうず高く積まれた一角に、下手糞な交響曲第九が響く。「べる、べりーってん、ふぁーいえるとぅんけん、ひーむりっしぇー、だいん、はーいりとぅーむ♪」#OnM_3 01

2014-12-20 22:01:46
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

女、である。喪服の如き黒一色のドレス。つば広の帽子に隠れて顔は窺えぬ。巨大なキャリーケースを意気揚々と引っ張る彼女の職業は、武器商人。名はない。生まれ落ちたときにはあったはずだが、忘れ去られて久しい――今はただ、こう呼ばれている。「――フロイライン・ブロッケン」#OnM_3 02

2014-12-20 22:02:12
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

彼女を呼び止めたのは、コンテナの陰から僅かに顔を覗かせる男であった。白人。背は高く、逞しい体つき。肩から自動小銃を提げている。「これはこれは。ヘル・ホルスキー。グーテンアーベント」ブロッケンは胸に手を当て、いっそ嫌味なくらいに深々とお辞儀をする。#OnM_3 03

2014-12-20 22:03:16
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「いつも当《ヘクセンハウス》社をご利用いただき、誠に有難うございます。お客様におかれましては本日も御機嫌麗しゅう――」「能書きはいい」ホルスキーと呼ばれた男は、長ったらしい口上を煩わしげに遮った。「金は」「こちらに」ブロッケンがキャリーの蓋を開く。#OnM_3 04

2014-12-20 22:03:45
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

中にぎっしりと詰められていたのは大量の現金だ。「ご要望通り半分がアメリカドル、四分の一がユーロ、残り四分の一が日本円。ご確認になりますよね?」「当然だ」ホルスキーは札束を無作為に取り出し、枚数を数えはじめた。無表情を装っているが、口元の緩みは隠しきれない。#OnM_3 05

2014-12-20 22:04:34
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舐めるように札をチェックし終えた彼は、背後の闇に視線を遣った。そこから二人目の男が滲み出るように現れる。手にしているのは、ぱんぱんに膨れ上がった二つのスポーツバッグだ。地面に降ろすと、ガラガラとくぐもった金属音が鳴った。#OnM_3 06

2014-12-20 22:05:06
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第二の男がバッグを開けてみせる。中に詰まっていたのは缶コーヒー程度の大きさをした金属カプセルだった。側面のスリットから、青白い光が漏れている――お化けの身体から搾り出し精製した、純粋エクトプラズムだ。男がブロッケンの方へと、バッグを押し遣った。#OnM_3 07

2014-12-20 22:05:51
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ブロッケンは嬰児を扱うかのごとき慎重な手つきで、カプセルを一つ取り上げる。青白い光が、帽子の下の顔を照らした――意外なほど若い。陶磁器のような肌に黒髪、黒い瞳。顔の右側は半分に切ったベネツィア風マスクに覆われている。そして整った顔の造作を切り裂くような――笑み。#OnM_3 08

2014-12-20 22:06:31
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二人の男と武器商人との取引を、アニタ=クラスニッチは冷めた目で見つめていた。闇に佇む彼女の肌は病的に青白く、髪も白い。瞳でさえ白く濁っている。五月も末だというのに丈の長いブラックレザーのコートを着こみ、襟を立てている。彼女はクルースニク(反吸血鬼)だ。#OnM_3 09

2014-12-20 22:07:14
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クルースニクは、スラヴ人の伝承に登場する吸血鬼ハンターである。白い羊膜に包まれて生まれ、吸血鬼とは対立する宿命にある。霊子科学の観点から言えば、彼らはDNAの一部がミームによって変質した特殊な人間だ。肉体にごく微量のエクトプラズムが含まれている。#OnM_3 10

2014-12-20 22:08:12
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アニタは二人の男――ホルスキーとミルノフ――と共に吸血鬼狩りで生計を立てていた。まだ十五歳のアニタにとってホルスキーたちは親代わりであり、仲間だったが、彼女は基本的に二人を軽蔑していた。二人の動機は所詮金儲け。アニタを矢面に立たせ、甘い汁を吸っているだけだ。#OnM_3 11

2014-12-20 22:08:44
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

自分は違う。アニタは無意識的に、胸に提げたロザリオを握った。自分が白い羊膜と共に生まれて来たのは主の思し召しだ。地上に蔓延る害虫を駆逐するために、主は自分をお遣わしになった。自分が吸血鬼と戦うのは天命であり、聖戦なのだ。――ふいに、耳元で声がした。「お嬢さん」#OnM_3 12

2014-12-20 22:10:02
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「!!」反射的に飛び退く――右腕に装着した杭打ち機を向ける。嘘臭い笑みを顔に貼りつけたブロッケンが、指輪ケースを差し出していた。「……何?」警戒を解かぬまま問う。いつ接近された? 油断はしていなかった筈――。「サービスです」武器商人は事もなげに言った。#OnM_3 13

2014-12-20 22:10:41
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「よろしければお試しください。OSはいじってありますから、旧式の《へクセンパンツァー》にも適合するはずですよ」《ヘクセンパンツァー(魔女の鎧)》とは、霊動装甲の古い呼び名だ。本来はナチスが初めて実戦投入した一連のシリーズにつけられた名であり、後に一般化した。#OnM_3 14

2014-12-20 22:11:48
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

アニタはひったくるようにしてケースを受け取る。中を改め、目を剥いた。指輪型の転送デバイス。「本体は湾岸の倉庫に。転送範囲は半径二百キロといったところですね」「霊動装甲の……オプション装備?」「いかにも」「それを私に、無料で?」「いかにも」#OnM_3 15

2014-12-20 22:12:51
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「胡散臭いわね。これ一つでも、今日私たちが売ったエクトプラズムの対価としては十分……いえ、十二分にお釣りが出るわ。それをタダで寄越すなんて、裏があるとしか思えない」「いやはや、お見通しですか。お恥ずかしい」ブロッケンは悪びれもせず、おのが仮面をぴしゃりと叩いた。#OnM_3 16

2014-12-20 22:13:27
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「ものは相談なんですが……幾つか、お聞かせ願いたいことがありまして」「情報が対価というわけね。そうやって尻の毛まで抜くの死の商人のやり方だとか」ミルノフが非難がましい目を向けた――貰えるものは貰っておけとでも言いたげだ――が、アニタは意に介さない。#OnM_3 17

2014-12-20 22:14:15
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「いえいえ」ブロッケンの表情筋が笑顔の形になった。「これはビジネスではございません。いわば私めの、個人的趣味でして」「趣味?」「ええ」亀裂のような笑みが深まる。「貴女はこのエクトプラズムを得るのに多くの化物を滅ぼしたはず。……その様子を、お聞かせ願いたく」#OnM_3 18

2014-12-20 22:14:58
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「……?」「お化けの死に様が知りたいのです……私は! 無様に逃げ惑いましたか? 命乞いをしましたか? 涙を流した? 血を吐いた? 誰かの名を呼びましたか?」「――っ」アニタは薄ら寒いものを覚えた。相手の皮膚の下で、狂気が蚯蚓のように蠢いているのを感じたからだ。 #OnM_3 19

2014-12-20 22:16:00
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「……どうして、そんなことが知りたいの」「どうして?」ブロッケンはくつくつと喉を鳴らした。「それはね。……私がお化けの、敵だからですよ」#OnM_3 20

2014-12-20 22:17:09
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水曜日、千葉県某所。曲マコトは、妖怪《手長婆》を拉致した中国マフィアのアジトに単身殴りこみ、二時間に及ぶ壮絶な格闘戦の末、二十一人全員を無力化。手長婆の救出に成功した。中国マフィアの怪我は平均して全治四週間であった。#OnM_3 21

2014-12-20 22:23:58
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木曜日、東京都某所。曲マコトは、妖怪《古籠火》を破壊してエクトプラズムを採取しようとした自称霊能者の男と対決。彼を歩道橋から蹴り落とし、古籠火を保護してお化けに理解ある古道具屋に紹介した。霊能者の怪我は全治六週間であった。#OnM_3 22

2014-12-20 22:25:04
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金曜日、埼玉県某所。曲マコトは、小学校に棲む《シャカシャカ》を退治しに現れた忍者の前に立ちはだかった。彼の霊動装甲《ガンマシャドウ》にマコトは《白夜》で対抗。これを撃破し、シャカシャカの住処を守りきった。忍者の怪我は全治八週間であった。#OnM_3 23

2014-12-20 22:25:30