オバケのミカタ第三話『オバケのミカタと吸血鬼』Aパート(1/3)

twitter連載小説『オバケのミカタ』の第三話。妖怪&特撮テイストのアクション小説です。
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アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

土曜日、神奈川県彩瓦市。上繁神奈は歴史部の仲間とともに、市の郷土資料館を訪れていた。新一年生部員の歓迎を兼ねた、歴史部の恒例行事である。ガラスケースに陳列された戦国武将の兜や農民の脱穀機を横目に見ながら、しかし神奈は別のことを考えていた。#OnM_3 24

2014-12-20 22:26:09
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半月前、ここと隣接する図書館の屋上で交わした会話のこと――そしてクラスメイトの曲マコトのことである。自分の記憶が確かなら、彼女はこう名乗った。「文化庁特殊文化財局南関東支局員、曲マコト」と。と言うからには、どこかにその特殊文化財局とやらの本拠地があるのだろう。#OnM_3 25

2014-12-20 22:27:07
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マコトが彩瓦第一高校に通っている以上、その本拠地もそう遠くないところ――おそらく彩瓦市内――にあるのだろう。もしかすると、普段何気なく見過ごしているビルの内部や地下が、彼らの秘密基地になっているのかもしれない。そう考えると妙にわくわくした。#OnM_3 26

2014-12-20 22:27:39
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秘密基地。神奈の想像する特殊文化財局とはまさにそのイメージだった。壁を埋め尽くす巨大モニタ、薄暗い部屋の中でキーボードを叩き続ける何人ものオペレーターたち……。だが想像力豊かな彼女も、まさか自分が今いる場所のすぐ近くにその施設があることまでは想像できなかった。#OnM_3 27

2014-12-20 22:28:06
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『関係者以外立ち入り禁止』の鉄扉を抜けて、郷土資料館のバックヤードへ入るとする。そこは隣の図書館と共有の管理棟だ。その、二階の突き当たりにその部屋はあった。擦りガラスのはまったアルミの扉には『文化庁 特殊文化財局 南関東支局オフィス』の表記がある。#OnM_3 28

2014-12-20 22:29:05
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その扉をくぐると、中は市役所の一室を思わせる、何の変哲もないオフィスであった。デスクトップが載った事務机が八つ。ファイルがぎっしり詰まった書類棚が四つ。コピー機が一つ。給湯機が一つ。パーティションで区切られた一角は、ソファが向かい合わされた応接スペースだ。#OnM_3 29

2014-12-20 22:29:34
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オフィスの最奥、他より一回り大きいデスクには、黙々と書類仕事をこなしている五十がらみの男がいる。白髪交じりの髪、こけた頬、眼光鋭い切れ長の目。彼こそが南関東支局の長――釣鐘安吾であった。他に二人の女性事務員が、それぞれ自分の机で仕事をこなしている。そして。#OnM_3 30

2014-12-20 22:30:43
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部屋の反対側――他と比べて明らかに雑然としたデスクでは、書類の山に顔を埋めるようにして、曲マコトが寝息を立てていた。ふわふわの髪が机一杯に広がっている。右手にボールペンを握ったままであるところを見ると、どうやら何がしかの書類を作成しようとしていたらしい。#OnM_3 31

2014-12-20 22:31:33
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もうかれこれ二十分間、ピクリとも動かないマコトをさすがに見かねて、事務員の一方がスルスルと首を伸ばした。名は六実。妖怪《ろくろ首》である。「マコちゃん。マーコーちゃーん」耳元で囁く。「寝るならちゃんと布団で寝ないと、カラダ休まらないわよお~?」#OnM_3 32

2014-12-20 22:32:06
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「んん……」マコトが頭を起こした。髪が乱れて顔に貼りついている。口元の絆創膏は、昨夜の戦いの名残であった。左眼にも青痣が残っている。「でも、せめて戦闘詳報くらいは私が書きませんと……」と言っている間にもう、こくりこくりと眠りかかっている。#OnM_3 33

2014-12-20 22:32:39
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「そんな夢見心地で書かれたのなんて使えないよ」と、苦笑するのは六実の対面に座る事務員、名前は深町梢。こちらは普通の人間である。「《白夜》の戦いはちゃんとログが残ってるから大丈夫。せめて学校が休みの日くらい、お家でゆっくりしてなさい」#OnM_3 34

2014-12-20 22:33:04
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「ですが」「マコト」釣鐘が、書類に判を押しながら言った。「コンディションを保つのも、同僚を信頼するのも仕事のうちだ。何もかも一人でやろうとしているうちは、永遠に半人前のままだぞ」六実が長い首をくねらせながらウンウンと頷く。「そうだよお~」#OnM_3 35

2014-12-20 22:33:44
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マコトはばつが悪そうに俯いた。「……はい、釣鐘のおじさん。いえ、支局長」そして目やにをこすり落とすと手櫛で髪を整え、眼鏡についた顔の脂をハンカチで拭ってから、鞄を片手に立ち上がった。#OnM_3 36

2014-12-20 22:34:22
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マコトの足音が遠のいてゆくのを聞きながら、六実は釣鐘の方へ首を伸ばした。「やっぱり、あの子一人に負担かけすぎなんじゃないですか~?」「分かっている」釣鐘は苦々しげに漏らした。「分かっているさ……」#OnM_3 37

2014-12-20 22:34:39
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その足で、マコトはガレージに向かった。彩瓦市郷土資料館のガレージは常にシャッターが降ろされており、車が出入りすることはない。それもそのはず、そこにあるのは車庫ではなく、霊動装甲《白夜》の格納庫兼修理工房なのだ。扉を開けると、埃っぽい臭いが鼻をつく。#OnM_3 38

2014-12-20 22:35:42
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「哀ー?」マコトはガレージ内を進んでいった。スチールラックに予備のパーツや工具、設計図のファイルなどがこちゃごちゃと詰めこまれている。相棒は、工房の一角にしつらえたワークステーションに向き合っていた。ここの主も一緒だ。マコトに気づいて、一つ目の顔が持ち上がる。#OnM_3 39

2014-12-20 22:36:25
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「あら? もう済んだの?」「居眠りしてたら帰れって言われちゃいました」マコトは舌を出した。そして、哀の横でディスプレイを睨む信楽焼の狸に会釈する。「どうも、倉右衛門さん。《白夜》の調子はいかがですか」「どうもこうもないわい」狸は短い指でおのれの顎を撫でた。#OnM_3 40

2014-12-20 22:37:05
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この狸こそ、南関東支局の整備班長・倉右衛門であった。「本当は一週間ぐらいかけてオーバーホールしたいんじゃがな。まー騙し騙し使ってくしかないわい」「ご苦労をおかけします」「うん。……ま、あんたの足枷にならんよう努力するよ」彼は愛飲しているホープに火をつけた。#OnM_3 41

2014-12-20 22:38:15
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

全員の視線が、ガレージの中央に鎮座する《白夜》に向いた。マネキンに装着させられたその周囲を、今は整備班の小鬼や付喪神たちがせわしなく走り回っている。蛍光灯の明かりに照らされた象牙色の装甲には、細かい傷やへこみが数え切れないほどつけられていた。#OnM_3 42

2014-12-20 22:38:45
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

「南関東全域をこれ一機、マコト一人で守ろうってんだから、そりゃガタもくるわよね」「初めて着たときはピカピカだったんですけどねえ」「せめて二交代制にできりゃいいんじゃがなあ」「大変なのはどこも一緒ですし……それにうちは、まだ守備範囲狭い方ですから」#OnM_3 43

2014-12-20 22:40:17
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

霊動装甲《白夜》は特殊文化財局主導のもと、お化けに協力的な複数の企業によるチームに開発された。2009年にロールアウトした最新型だ。だが、実際に配備されているのは南関東、関西、東北、九州の四支局のみ。他の局では一世代、二世代前の霊動装甲を今も使用している。#OnM_3 44

2014-12-20 22:41:21
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

理由は単純明快――予算不足である。霊動装甲は、建造はもとより、維持・管理にも相当な費用がかる。文化庁の下部組織に過ぎず、存在が表沙汰になることもない特殊文化財局が、それだけの財源を確保するのは至難の業だ。当然、おいそれとは機体を増やせない。#OnM_3 45

2014-12-20 22:41:50
アンダーグラウンドノベルズ @OBAKEnoMIKATA

個人の体格や生理に合わせて調整せねばならないというミームドライバーシステム特有の制限も、状況をより過酷にしている。つまり着回しができないのだ。結果的に、全国十の支局と本局に一機/一人ずつ――都合十一人で、日本全土を守らねばならない。それが現状だ。#OnM_3 46

2014-12-20 22:42:59