「千の想いを」~番外編・天城がいた頃/夏の日(#5)~
- mamiya_AFS
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高雄は天才という存在と概念を信じてはいない。いや、いなかった。 その考えは艦娘となってしばらくしない内に打ち砕かれて消えた。 天城がその最たる原因であったが、後に高雄の後輩となった金剛や最上達も彼女の中の価値観を壊して有り余り、龍田と天龍も努力の天才であると言える。
2014-09-07 16:41:28主機による水上浮遊と移動は研修次代に済ませるとは言え、航行運動は全くの別物である。簡単に言えば、自転車に乗れるからと言って山道をウィリー走行できるかは当然別の話であり、実際に、武装を担いで戦闘をこなす、等という行為はスポーツの範疇に入るレベルでは済まされない。
2014-09-07 16:45:42最初は軽くのつもりだったが、半時間も経たない内に金剛は半ば本気で模擬弾を撃っている。だというのに、そのほとんどを回避されるに至っている。 クリップボードを手に高雄は複雑な気持ちで海上を滑る赤い衣装の新人を眺めていた。脇では最上が退屈そうにあくびをしている。
2014-09-07 16:50:24これは回避できまいと思った弾道をも、波を蹴り背面飛びでかわし、危なげなく着水をこなしバランスも大きく崩していない。基本的に『浮く』と『進む』しか機能を持っていない主機に於いて、アクロバティックな運動をこなすのは熟練した経験が無ければこなせるものではない。普通は。
2014-09-07 16:54:28艦装も実物ではなく重しを詰めたナップザックだけであるが、着水時に倒れないだけでも異常な運動神経と言えた。撃っている金剛も、眺めている最上や龍田姉妹もたいして気にはしていないようだが、これも彼女達が当然のようにできる異常な存在であって、普通の環境で育ってきた高雄には理解できない。
2014-09-07 16:57:45寧ろ、天城の妹なんだから当然だ、という空気さえ纏っている。それについては高雄も納得できる部分ではあった。それ程までに、天城の能力は常軌を逸している。だとしても限度があるだろう。 高雄が帽子をかぶり直し、隣の最上へと顔を向ける。
2014-09-07 17:00:09「…最上さん、発砲準備をお願いします」 今日の訓練はそこまでやるつもりはなかった。否、今行っている回避訓練も仕上げに少しやるだけの予定であった。 出撃までの準備期間を考えれば、早まるに越した事はないが新人に対する指導法とは大きくかけ離れている。
2014-09-07 17:03:12「赤城さん! 今から最上さんも攻撃に加わります! 視野を大きく持つ事を意識して回避してみて下さい!」 金剛の発砲音と波の音に負けない声量で叫ぶ。
2014-09-07 17:06:17驚きに声を上げる最上の弁はもっともだった。火力を重視した金剛の砲撃は照準と弾速の面でスピードを伴っていない。いわば『かわしやすい』部類の攻撃である。それに対し、最上は遊撃手として金剛の武装とは真逆の性質を持っている。 「いいんです。これも彼女の為ですから」
2014-09-07 17:10:06多方位からの攻撃に対応する、というのは無論実戦では当然の状況であり必要不可欠な要素ではあるが、実際に行うのは容易な事ではない。攻撃の量が倍になるのに、受ける側は注意力が半分になるという荒い計算が成り立つ。これは実際に行った経験量でしか克服できない技術だ。 敢えて言おう、普通は。
2014-09-07 17:14:13@Kongou_Yasaka @tiyodadayo なら金剛は全門発砲、ボクは第一砲塔を同時に発砲して1.5秒後に第二砲塔を左奥に第三砲塔を右手前に発砲するよ
2014-09-07 17:11:52つい今しがたまであくびを噛んでいたというのに、砲を抱えた時には真剣な眼差しとなっている。普段の性格と言動から浮ついてるイメージを持たれる最上ではあるが、いざ戦闘に関しては狙撃手のような冷静さと正確な腕前を持つ。弾道のシミュレーション能力と連携のイメージ力は艦隊随一だ。
2014-09-07 17:18:04本人から見て30度程度の間隔を空けて構える金剛と最上を、赤城が交互に見据えて腰をやや落とす。 表情。 高雄が小さく溜め息を吐く。 怯えていない。怖れていない。この状況を。 模擬弾とは言え直撃すれば当然怪我もする。打ち所が悪ければ骨折以上もあるだろう。それなのに。
2014-09-07 17:21:18ちらりと振り返れば、龍田がにこにこと微笑み、天龍は腕を組んだまままぶたを閉じていた。気にしてはいない、この状況を。 顔を戻すと同時に、2人の攻撃が始まった。
2014-09-07 17:23:03