「千の想いを」～番外編・天城がいた頃/夏の日(#4)～

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

【『千の想いを』『天に願いを』解・番外編　赤城さんの過去話『天城のいた頃/夏の日』　再開】

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

高雄や金剛、最上達と別れの挨拶を済まし食堂を出て部屋に戻ると、姉の姿は無かった。脱ぎ捨てられたパジャマだけがぐちゃぐちゃのタオルケットの上に乱雑に散らばっているのみだ。足の踏み場も無い程に埋め尽くす天城の『私物』もそのままであり、多分人を模しているのだと思う木像と目が合う。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

ケースではなく袋に突っ込まれたヴァイオリンが飛び出していたり、ピラミッドから発掘したかのような黄金の天秤が傾いて鞄から受け皿を覗かし、何かのトロフィーや盾も平然と床を転がっていたりする。 昔から謎の収集癖があったり、万能な天城ではあるが、艦娘になっても変わっていないようだ。

正規空母赤城 @AC_akagi

@tiyodadayo 全く…姉さんったらこんなに散らかして…… って…、これは何でしょうか…？

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

片付けようとは思ったものの、どう手を付けたらいいのかすらわからない。座れるスペースだけでもつくろうと赤城が手を伸ばすと、いかにも怪しい紙製の箱を見付けた。口が半開きとなっており、黒い粉が付着している。裏に書いてある文字は全て日本語ではなく、アルファベッドではあるが英語でもない。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

ドイツ語。読めるどころか習ったわけでもないが、直感だけでそう思い込む。 表面には白と黒だけで眼帯を付けたウサギを擬人化したキャラがいかにも『爆弾』な形をした物を持ってサムズアップしている。 黒い粉。 足元を見下ろす。床や彼女の靴下にもわずかに付いている。それはつまり。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

この箱はこの部屋で開封された事を意味する。

正規空母赤城 @AC_akagi

@tiyodadayo この粉ｊは……？

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

実際はドイツ語ではなくラトビア語なのだが、赤城がそれに気付けるだけの知識は無い。仮に書いてある文字が全て読めたとしたのならば、これが所持するだけでも違法な物だとすぐに察する事ができたであろう。何しろ、そう書いてあるのだから。 イラストを見て思わず唾を飲み込む。 この粉は、きっと。

天城 @amagisane

@tiyodadayo ただいまー。お、赤城戻ってたんだ。お疲れ。何してたかは知らないけど。あっはっは。いつもの癖で間宮の部屋に行っちゃったよ。そう言えば昨日からこの部屋なんだった。いやぁ暑いのなんのねぇ。汗だくだよまったく。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

ノックも無しに部屋の扉が開き、タンクトップにショートパンツ姿の姉が姿を見せる。棒立ちのまま箱を掴んでいた為に咄嗟に隠す事もできなかった。 服装。 やっぱり先程見掛けたのは姉だった。記憶と寸分違わない姿を眺める。

正規空母赤城 @AC_akagi

@amagisane @tiyodadayo お、お帰りなさい、天城姉さん…っ 姉さん…、この粉って…何でしょうか…？

天城 @amagisane

@AC_akagi @tiyodadayo うん？　火薬だよ。タバコ吸うならそれの傍で吸わないでね。 ふぃー。シャワーしてくるわ。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

両手に箱を持ったままおそるおそる尋ねるも、あっけらかんと返される。その昔、どうしてもわからない数式の宿題について訊いた時と、何も違わない気軽な態度だった。違う点があるとすれば、あの時は教師以上にわかりやすい例えを用いて応用まで教えてくれたのに、今は用途を教えてくれない所だろうか。

正規空母赤城 @AC_akagi

@amagisane @tiyodadayo か、火薬……っ は、はい…、行ってらっしゃい……

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

しゃがみ込み、タオルと着替えを引っ張り出すや鼻唄混じりで浴室へと消えていく。 棒立ちのままで姉を始終見詰め続けたものの、望む真の答えは結局教えてはくれなかった。 窓が東側を向いているせいで、この時間になると微妙に暗く感じる。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

今朝はこんな物が転がっていただろうか。 無かったと思うし、あったとしても気付かなかったかも知れない。それくらいに部屋は散らかっている。 火薬。 今や軍人の１介である赤城ではあるが、思い浮かぶ用途はそんなに多くは無い。 昼間の騒動を嫌でも思い出す。 可能性。

正規空母赤城 @AC_akagi

@tiyodadayo ううん…、でも… 仮に姉さんだったとして…、こんな風に残しておくものでしょうか……

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

つい今しがたの彼女から「まずい」と思ったような様子は見えなかった。と言うものの、姉の悪びれた態度を一度も見た事が無いのだが。 と。不意に電話の呼び出し音が響き、思考に耽っていた赤城が驚き派手に肩を跳ねさせる。 胸の内ポケットに入った携帯電話が鳴っていた。

正規空母赤城 @AC_akagi

@tiyodadayo んもぅ…、こんなときに…… びっくりしちゃいました… ……はい、赤城です

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

箱をそー、っとテーブルの上に置く。ニトログリセリンでは無いのだから、衝撃を与えてまずいわけでもないのだが、乱暴に放り出せる程に赤城は肝が大きくはない。 電話を取り出し、画面を見ると高雄の２文字が見えた。 食堂で番号を交換したばかりだ。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

「もしもし赤城さん？　急にごめんなさい。明日からの貴女の日程が決まったの。今メモを取れるかしら？」

正規空母赤城 @AC_akagi

@tiyodadayo あっ、はい、分かりましたっ ……えっと…、はい、大丈夫ですっ

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

電話を耳に付けたままで視線を走らせる。探すまでもなく、テーブルの上にメモとペン立てがあった。思えばこの部屋に初めて来た時には既にあった。 妙に手にしっくり来る万年筆を掴み、旗艦が述べる内容を洩れなく復唱しながら書き込んでいく。

ＴＲＰＧ狂いな千代田また多忙 @tiyodadayo

「…私はまだ早いと思うのだけれど、決まってしまった事なの。ごめんなさい。明日から色々と大変だとは思うけれど…、私達全員でサポートしますわね」 言葉を聞きながら、メモに目線を落とす。 来週の水曜。 出撃。 出撃と書いてある。 それまでの日程はびっしりと訓練だ。