稲川淳二のつぶやき怪談　2015年4月26日投稿分

稲川淳二 @Junji_Inagawa

少し早く着いたんで、クルマを停めて、 窓を開けると、ひと息入れて、 皆が揃うまで時間待ちをしていると、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「すいません」と声がして、 見ると助手席の開いている窓からサングラスをした女が覗き込んで、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「すいませんが、 この先に放置してある、私のクルマ迄、乗せてってもらえませんか？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と頼んできたんで、 （時間もあるし、軽くその辺りを流してくるか） と、女を助手席に乗せると、クルマをスタートさせた。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

クルマが、駐車場を出てゆくところへ、 丁度、Ａさんのクルマがやって来たんで、 真也さんが、軽く手を上げると、 気が付いたＡさんが、その瞬間、驚いたような顔をした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それというのも、フロントウィンドーを透して、 運転している真也さんと、 その隣の助手席のサングラスの女が目に入ったからだ。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

それが、あの写真の女とそっくりだったんで、一瞬息を呑んだ。 で、慌ててクルマを停めると、近くにいた仲間に、 「なあ、真也、女連れて来てんのかァ？」

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と聞くと、 「いや、あいつひとりだよ」 と言ったんで、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「まずいぞ、アイツのクルマ直ぐ止めろ、変な奴が乗ってるんだァ！」 と叫ぶと、自分はそのまま真也さんのクルマを追った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

一方、真也さんは、日の暮れかけた峠道を、 ヘッドライトをつけてクルマを飛ばしながら、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「・・ねえ、クルマを放置してるって、どういう事」 と女に聞くと、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

「・・あたしがひと月前に、この峠道でクルマを走らせていたら、 向こうから、猛スピードでクルマが走って来たの。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

赤いボディに白いラインが２本入ったクルマで、 レースでもしているみたいだった・・・。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

グングン近付いてきたんで、恐くなった。 ・・道幅は狭いし、曲りくねっているし。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

でも、いっこうにスピードを落さないで、目の前に迫って来たんで、 ただ、もう必死でかわそうとしてハンドルを切ったとたん、 クルマがコントロールを失って、この崖下に転落したの」 と言った。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（・・そういえば、確かひと月くらい前に、この峠道の崖下で、 ペシャンコに潰れたクルマが発見されて、

稲川淳二 @Junji_Inagawa

車内から、運転していた若い女の死体が見付かったって、 出来事があったなァ） と思いだした。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（そうだ。運転していた女は死んだんだ・・・。 それに、赤いボディに白いラインが２本入ったクルマって、 もしかしてこのクルマの事か？）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

と、ふっとあの写真の女を思い出した。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（サングラスを掛けて助手席に写っていた女・・・） と思った瞬間、全身から血の気が引いていった。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

・・冷えた汗が噴き出して、額から顔面をつたって流れ落ちていく。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

（・・今、隣にいるのは死んだ女なんだ・・・。 生きてる人間じゃないんだ・・・。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

どうしよう・・このままじゃまずい。　 皆のところへ戻らなくちゃ）

稲川淳二 @Junji_Inagawa

ヘッドライトの照らす先だけを見詰めてクルマを走らせる。 ハンドルを握る手がぐっしょりと汗ばんでくる。

稲川淳二 @Junji_Inagawa

隣で、 ハァー、ハァーハァーハァー 女の息遣いがする。