稲川淳二 つぶやき怪談 2013年2月26日
「どうだァ、よかったら土・日にかけて、私の別荘へ皆で遊びに来ないか、ここと違って岐阜の山間にあるから、さすがに涼しいぞ」と誘われた。
2013-02-26 00:01:59周囲を木々に囲まれて、網戸を通して時折吹き込んでくる心地よい風に、冷えたビールで、すっかり気分も盛り上がって、熱帯夜なんか嘘のよう・・・・・のハズなんですが、
2013-02-26 00:03:06ただ秋田さんだけは、仕事の都合で後からひとり遅れて最終電車で到着する同僚の佐野さんという人を、自分の車で駅まで迎えに行かなきゃならないんで、アルコールは口にできない。
2013-02-26 00:03:47ゴクゴクと、喉を鳴らしてうまそうにビールを飲んでいる仲間を横目で見ながら、(損なくじ引いちゃったなァ・・・・・)と、我が身を悔やんだ。
2013-02-26 00:04:27時間も過ぎて、宴もたけなわになった頃、皆、酔っ払って聞いてやしないけど、一応、「じゃ、佐野迎えに駅まで行ってきます」と、一言ことわって外に出ると、
2013-02-26 00:04:56秋田さん、ひとり車に乗り込むと、窓を開けて風を通して、エンジンをスタートさせた。所々にポツンポツンと外灯があるだけの、河に沿って続く道路を飛ばしてゆくと、うっすらと靄が出てきた。
2013-02-26 00:06:15こんな寂しい橋の上に、珍しく人がいる。それも若い女のようなので、カップルでもいるのかなと思ったんですが、辺りには車も無いし、男の姿も見当らない。
2013-02-26 00:08:24ちょっと気になって、スピードを落して様子を見ながらゆくと、むこうは対向車線側で闇をバックにしているので、はっきりとはしないんですが、
2013-02-26 00:09:15さて、駅に着くとしばらくして、最終電車で佐野さんが到着したんで、バッグを後部座席に置くと、彼を助手席に座らせて、おしゃべりしながら、来た道を戻って行った。
2013-02-26 00:11:24「往きになァ、あの橋を渡って来たら、橋の途中で、ピンク色のスラックスをはいた、若い女だと思うんだけど、欄干に張り付くようにして、身を乗り出して橋の下を見つめてるんだよ。
2013-02-26 00:12:11闇の中だし、むこう向きで下を見てるんで、腰から下しか見えないんだけど、こんな時刻に、明かりの無い橋の上で、それもたったひとりでさ、何をしてるのか気になってなァ」と話すと、佐野さんが、
2013-02-26 00:12:35