辻仁成 ツイッター小説「つぶやく人々」その1
- hamanaka_aki
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ツイッター小説「つぶやく人々」第49回:「フォロワーが4千人を超えたにゅ」俺は数字をクリックした。妻がパソコンを覗く。画面いっぱいつぶやきが並んだ。「見るにゅ。みんな生きてるにゅ。この声に真剣に耳を傾ける必要があるにゅ。彼らのつぶやきが向かう先に世界の明日の約束があるにゅ」つづく
2010-03-07 20:41:02ついったー小説「つぶやく人々」第50回:パソコンを覗く妻の顔がこわばり始める。「やっぱり、私、にゅで喋るのやめる。それからあなたにもこの小説やめてもらいたい」俺は妻の性格を知り尽くしているのでそれほど驚かなかった。「ねえ、斎藤さん締め切り待っているよ。あなたプロでしょ?」つづく
2010-03-07 22:53:10ツイッター小説「つぶやく人々」第51回:「フォローしてくれる方がいるのはありがたいことかもしれないけど、違うような気がする」妻は俺に背中を向けた。「ツイッターで小説配信して、ますます本が売れなくなって、衰退しつづける文芸誌が廃刊になって出版社が潰れていくのを手伝ってない?」つづく
2010-03-07 22:55:56ツイッター小説「つぶやく人々」第52回:「書店の人のおかげだってあんたよく言ってたじゃん。こんなツールで小説配りまくったら、彼らを苦しめない?」「いや、こんなことで衰退するような世界かよ」「でも、雑誌がどんどん消えていく・・。。あ!あんた、にゅ、忘れてるよ」「あ、やべ!」つづく
2010-03-07 22:59:56ツイッター小説「つぶやく人々」第53回:「ニュースで海燕元編集長の寺田博さんが亡くなられたって・・。時代だからって、文芸の灯消していいの?」妻は昔から保守的な人間だった。俺たちの家は革新の俺と保守妻とのバランスでなりたっている。妻にツイッターを理解させることは容易じゃない。つづく
2010-03-07 23:04:01ツイッター小説「つぶやく人々」第54回:「お前の気持ちはわかるにゅ。でも、閉塞感溢れる現在の日本の出版界はもとより、経済も政治もこのままじゃ再生は簡単じゃない。新しい時代と添い寝することも解決策の一つにゅ」苦しい「にゅ」であった。知的な会話はにゅ尻言葉にはむかない。つづく
2010-03-07 23:08:58ツイッター小説「つぶやく人々」第55回:「確かに俺の文学を守ると発言したにゅ。でも、それは壊すことから始まるにゅ。俺は作家の前に野蛮なロッカーにゅ。でも、もはやロックも所詮の芸能ごとにゅ、だから壊すにゅ。そして、そこから出てくる新芽に未来を託すにゅ。それが俺のやり方にゅ」つづく
2010-03-07 23:12:13ツイッター小説「つぶやく人々」第56回:妻がそろりと歩んだ。腰がぐっと落ち構え始めている。「あんたには孤高に文学や出版界を守ってもらいたかった」室内に再び殺気が満ち始める。「あんたは言ったわね、一冊売れて印税百円が貰える。だからバゲット一本買う時にも読者に感謝しなさいって」つづく
2010-03-07 23:19:32ツイッター小説「つぶやく人々」第57回:「校閲や取次や営業や書店に感謝しろって、食事の前にはお祈りもさせられたのに、その精神はどこへ捨てた!」妻が酔拳のポーズをとった。くそ、酔パンチだ!「にゅにはにゅにゅ!にゅにはにゅにゅにゅ~」俺は仕事机の上に飛び上がり、応戦した。つづく
2010-03-07 23:23:04ツイッター小説「つぶやく人々」第58回:「待つにゅ!仲間割れはよくないにゅ。日本を良くしようという思いは一緒にゅ」妻の攻撃を避けながら必死で説得する。「いいや、待てないにゅ。締め切り守れ!本を書け!ベストセラー出せ!印税稼げ!」くそ、酔拳の嵐だ。神聖な仕事場がカオスとなる。つづく
2010-03-07 23:27:52ツイッター小説「つぶやく人々」第59回:「俺にはその商業主義が許せないにゅ」おっと、頬の横を掠めるパンチ!俺は身を翻しながら妻と対峙する。「待て。印税だけじゃ今は暮らせないにゅ。時代が悪すぎるにゅ。こういうツールを使って、本離れした人々を取り戻したいにゅ。革命は必要にゅ」つづく
2010-03-07 23:33:20ツイッター小説「つぶやく人々」第60回:「ねえ、何が悪いの?どうして読者が本から離れるの?ツイッターとかブログとかiphoneのせい?そういうものが古き良き精神を破壊した?あんたがその加担者!」「待つにゅ、そうじゃないにゅ。一番悪いのは・・・作家にゅ」妻が驚いた顔をした。つづく
2010-03-07 23:38:01ツイッター小説「つぶやく人々」第61回:「本が売れない原因を作った張本人は作家にゅ。出版社や書店のせいではないし、コンピューターゲームやパソコンの普及のせいじゃないにゅ。単純に作家が面白い小説を書かなくなったからにゅ。いや、書けなくなったにゅ。そして、権威化したにゅ」つづく
2010-03-07 23:41:23ツイッター小説「つぶやく人々」第62回:「昔の小説の方が断然面白いにゅ。読者との乖離を生み出しているのは実は書き手にゅ。編集者不足も確かにあるにゅ。活字に活力がないので、出版界も書店界も伸び悩むにゅ。当然にゅ。ツイッターの方が千倍生き生きしているにゅ。結果本は売れないにゅ」つづく
2010-03-07 23:48:26ツイッター小説「つぶやく人々」第63回:「じゃあ、あんたが面白い小説をばんばん書いて日本を引っ張ればいいじゃない。なのに、一銭にもならないツイッターでオタク小説。その上原稿料を払ってくれる女性自身をほったらかして!あんたこそ最悪の作家よ。締め切り守れ!家族と文学を守れ!」つづく
2010-03-07 23:51:37ツイッター小説「つぶやく人々」第64回:これ以上妻が暴れるとフランス警察に通報されてしまう。まず俺が落ち着く必要があった。「分かった、謝るにゅ。まず、今すぐ女性自身の原稿をあげて斎藤さんに送るにゅ。でも、ツイッター小説は続けさせてほしいにゅ。マヒした時代を動かすためににゅ」つづく
2010-03-07 23:57:41ツイッター小説「つぶやく人々」第65回:「麻痺しているのはあんたです」妻はそう言って足元の本を拾い上げた。「十年間ありがとう。日本に帰らさせてもらいます」俺は強張った。この想定外の行動に。でも、妻が本気なのは分かる、これでも夫なのだから。「もう限界にゅ」妻がつぶやいた。つづく
2010-03-08 04:10:45ツイッター小説「つぶやく人々」第66回:妻がトランクに荷物をまとめ始める。「日本日本!」愚息が騒いでいる。「限界にゅ」人はつぶやくとき本心を露わにする。ささやきは誘惑、ぼやきは怒り、嘆きは絶望、そしてつぶやきは本音の結晶なのである。まいったね。つづく
2010-03-08 19:20:53ツイッター小説「つぶやく人々」第67回:出て行こうとする妻を引きとめ「お前が出ていくことはない。冷却期間を置くにゅ、俺がしばらく家を出るにゅ」と宣言。女性自身に原稿を送り、パソコン持って家を出た。やっと会えたねから十年、とうとうサヨナライツカが訪れるのか、フォローミー! つづく
2010-03-09 04:52:43辻仁成氏の連続ツイッター小説「つぶやく人々」を1回から67回まで読了。面白いじゃん! 辻さんの最高傑作ではないか。というか、これが、いちばん、辻さんらしいのではないかな。もしかしたら、いままでの小説が方向性を間違えていたのでは。我々は辻仁成を誤解していたのかも(当人も含めて)。
2010-03-09 15:19:18何気なくフォローの人覗いてたら、高橋源一郎氏がすごくこの小説ヲ褒めているにゅ。でも、本人かどうか分からないにゅ。辻仁成の最高傑作とか書かれてる。今まで辻を誤解していた、と言ってるにゅ。それはどんな辻だろう? でも、素直に喜ぶべきなんだろうにゅ。源一郎さま、お元気さまですにゅか~?
2010-03-09 23:19:21@TsujiHitonariお元気だよにゅ。3歳児と5歳児の相手で疲れてるけど。ぼくは、辻さんがデビューした時から、辻さんの本質は「笑い」じゃないかと思ってたんですね(よく夜中に電話で話してたでしょ)。ところが、書いてる小説はそうじゃなかったんで、どうしてだろうと思ってたわけ。
2010-03-10 03:27:00@TsujiHitonari褒め殺しじゃないよw。って、そんなことしても、意味ないにゅ。ぼくは、よく「褒め殺ししてる」っていわれますが、それは、みんな、その作品をきちんと読んでないからだと思います!
2010-03-10 03:30:48