ア・セイレーン・シング・フォア・ハー・ウイングス #5

これ作ってる今現在、#6を投稿しています。忘れてた。
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劉度 @arther456

「第一艦隊の指揮はこの伊勢が執るよ!みんな、ついてきて!」「Italiaが作ってくれたChance、掴んでみせるネー!」「アレだけ大きいなら、酸素魚雷20発じゃ足りないかしら、うふふ……!」「艦隊行動を乱さない程度にお願いします、大井さん」「分かってるわよ!」 22

2015-06-01 21:47:37
劉度 @arther456

ようやく海上に降り立った艦娘たちが、敵戦艦に躍りかかる。砲撃で舵をやられたとはいえ、その力は戦艦棲姫と同等、いや、それ以上。第一、第二艦隊が協力しても揺らぎすらしない。その戦火の裏側を潜り抜け、リットリオとローマは『蔵王』に乗り込んだ。 23

2015-06-01 21:51:06
劉度 @arther456

「弾薬!」「話は聞かせてもらった!」妖精さんたちがすぐさま補充用の弾薬を運んできた。先程の砲撃で、二隻の弾薬は正真正銘弾切れになってしまっていた。「規格とか、大丈夫かのう?」第三艦隊旗艦の利根が、イタリア艦に問いかける。「ええと、確かめてみます」 24

2015-06-01 21:54:24
劉度 @arther456

リットリオは妖精さんから砲弾を受け取ると、カリッと香ばしい音を立ててそれを齧った。「……え?」目を丸くする利根の前で、リットリオはもう一口。「美味しいですー。これなら大丈夫ですねー」その後ろでは、ローマが徹甲弾をパンのように食べていた。 25

2015-06-01 21:57:36
劉度 @arther456

「な、な、な……!?」たじろぐ利根だが、こういう生態を知らないわけではない。だが、それは艦娘ではない。「提督よ!このイタリアの者たち、深海棲艦じゃぞ!?」慌てて砲を準備しながら、利根は叫んだ。「ぴえー!?」妖精さんたちも、思わぬ敵の出現に、物陰へと隠れてしまう。 26

2015-06-01 22:00:57
劉度 @arther456

しかし、提督の返事は意外なものだった。『……あー、うん。大丈夫。その子たちは味方だから』「いや、深海棲艦じゃぞ!?」『分かってる!深海棲艦だけど味方なんだ!後で説明するから、今は私を信じてくれ!』「お主、さてはまた深海棲艦に洗脳されたな!?」『違うってば!』 27

2015-06-01 22:04:13
劉度 @arther456

『左舷後方に敵艦多数!』オペレーターの叫び声。旧式戦闘機の攻撃を潜り抜けた駆逐艦や軽巡が、『蔵王』に向かってきていた。「……仕方ありません。私たちが味方だということ、身を持って証明いたします。ローマ、ついてきて」そのまま、リットリオとローマは海上に戻る。 28

2015-06-01 22:07:27
劉度 @arther456

「一番、二番砲塔……狙え」リットリオの381mm/50口径三連装砲が、狙いを定める。「ああ、主王よ、我に我が罪を見、我が兄弟を議せざるを賜え……」ローマも聖句を唱え狙いを定める。「今よ、撃て!」「けだし、汝は世々に崇め讃められる――Amen!」そして、全砲門が火を吹いた。 29

2015-06-01 22:10:46
劉度 @arther456

重巡すらいない水雷戦隊は一溜まりもなかった。初撃の衝撃で隊列は大きく乱れ、そこに大量の大口径砲弾が降り注ぐ。直撃が無かったにも関わらず、敵船団は一撃で戦闘不能に陥った。「やっぱり、艤装で狙いをつけるのは慣れないわねー」「姉さんはまず、狙いをつけるのが遅すぎます」 30

2015-06-01 22:14:04
劉度 @arther456

「あやつら……本当にやりおった」甲板上の利根は、その様子を呆然と見ていた。深海棲艦が同じ深海棲艦と戦っている。一体どういうことなのだろうか。頭の中でグルグルと疑問が渦巻いている。「どういうことじゃ提督!説明せい!」『……ひっ、な、なんで?』返事は、怯えた声。 31

2015-06-01 22:17:22
劉度 @arther456

「どうした!?」『大変です、利根さん!提督がおかしくなりました!』「何じゃと!?」前触れのない唐突な錯乱である。「ええと、縛ってあるか!?」『ええ、シートベルトでなんとか……ひえっ!?』「どうし」言いかけた利根の声が、落ちた。空気、いや、空間そのものが突然重圧を帯びた。 32

2015-06-01 22:20:48
劉度 @arther456

《うわあああっ!?》戦闘海域北側。黒いF-14のパイロットは、突然の急降下に悲鳴を上げた。とっさに操縦桿を引き上げ、なんとか体勢を立て直す。《アーチャー、大丈夫か!?》《はい、ですが機体のバランスが……!》《持ちこたえろ!ミサイルを撃って、機体を軽くしろ!》《了解!》 33

2015-06-01 22:24:06
劉度 @arther456

「キャオラッ!」「ゴボボーッ!?」戦闘海域南側。港湾水鬼のマグロが、戦艦棲姫の腕をしたたかに打った。ガシィン、と重い金属音が洋上に響く。「不良どもめ……!」戦艦棲姫は忌々しげに呟く。勝てるはずの戦いが、この欠陥基地のせいで掻き回されていた。 34

2015-06-01 22:30:00
劉度 @arther456

「ムカつくんだよぉ……その"言葉"がよぉ!」マグロ殴打、と見せかけ強烈な前蹴り。戦艦棲姫の体勢が崩れる。「"欠陥品"って決めたのは、テメーらの都合だろぉ!?」マグロを振り下ろす。だが戦艦棲姫はそれを弾き、逆に港湾水鬼の顔面を殴りつける。港湾水鬼の鼻から飛び散る。 35

2015-06-01 22:33:13
劉度 @arther456

だが、よろめきながら港湾水鬼は戦艦棲姫の首を掴んだ。「!?」「シャッゴラァ!」強烈な頭突き!戦艦棲姫が大きくよろめいた!「貰ったァ!」港湾水鬼がトドメのマグロを振り上げる!だが、そのマグロが突然重くなった。「!?」港湾水鬼はマグロを取り落としてしまう。「"重い"……!?」 36

2015-06-01 22:36:28
劉度 @arther456

それは戦艦棲姫の体も同様だった。全身が縛り付けられたかのように重い。二人の耳に、歌が聞こえてくる。全てのものを海底に引きずり込もうとする呪いの歌が。「おい、冗談じゃねえぞ、オイ……!?」呻きながら、港湾水鬼は東の海の方を振り返った。 37

2015-06-01 22:39:40
劉度 @arther456

艦娘たちと砲火を交わすプリンス・オブ・ウェールズは、呪歌の影響を最も強く受けていた。何しろ原寸大の戦艦の艤装だ。『蔵王』より、『セント・エフレム』より、圧倒的に重い。「ぐうっ……!」艦橋の戦艦棲姫は、思わぬ妨害に苦悶の声を漏らす。「やはり、連れてきたのは失敗だったか……!」 38

2015-06-01 22:42:59
劉度 @arther456

【艦これBGM】「深海棲艦モチーフ曲②」【10分ループ】【発令!第十一号作戦】 youtu.be/WrvNwRsuHbE @YouTubeさんから

2015-06-01 22:46:16
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劉度 @arther456

遠く、東の海を見る。展開する艦娘たちの後方、『蔵王』の更に向こう側。こちらに向かって急速接近する影がある。白いドレスを翼のようにはためかせながらやってくる女の姿。アッドゥ環礁で日本の魔法を受け、封印されていたはずの泊地水鬼だった。 39

2015-06-01 22:46:35
劉度 @arther456

「来たわね」泊地水鬼は既に、『蔵王』甲板上から見える位置にまで近づいていた。沈めシズメと歌いながら、空すら引きずり込みかねない呪いを振り撒いている。甲板上のビスマルクも、気を抜けば歌に釣られて海に飛び込んでしまいそうだった。両手で頬を打ち、気合を入れなおす。 41

2015-06-01 22:49:49
劉度 @arther456

「三隈、準備はいい?」「今はくまりんことお呼びください」「あ、うん、分かったわ……」ビスマルクと三隈は、砲ではなくマイクを握っていた。甲板には巨大スピーカーが立ち並び、即席ステージには陸軍の魔術師に編んでもらった五芒星の魔法陣が描かれている。 42

2015-06-01 22:53:06
劉度 @arther456

万が一に備えて、提督はビスマルクと三隈に歌の準備をさせていた。まだまだ謎の多い陸上型深海棲艦だ。封印を破ってくる心配はあった。そしてその心配は見事に的中した。「メロディは覚えたかしら?」「はい。あのセルマさんとデュエットできるなんて、くまりんこ、感激ですわ」 43

2015-06-01 22:56:20
劉度 @arther456

「……本当だったら、ドイツで歌うはずの曲だったんだけどね」語るビスマルクの表情は、少しだけ暗かった。艦娘になる直前に仕上がった曲だ。今まで歌ってきた曲の中で、一番気に入っていた。これを諦めさせた、アイドルを休止せざるを得なかった、自分の艦娘適性を何度恨んだことだろうか。 44

2015-06-01 22:59:33
劉度 @arther456

「でしたら、なおさら感激ですわ!セルマさんのお気に入りの曲を一緒に歌わせていただけるなんて!」三隈は無邪気に、屈託なく笑う。その笑顔に、ビスマルクも元気づけられた。「……そこまで言うなら、しっかりついてきなさいよ?ジャンゴウ!音楽、流して!」 45

2015-06-01 23:02:50