真夜中の釣り大会#1

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日は沈み、辺りは暗くなっていた。村人だろうか、広場に設置された3本の電灯を手動で点灯していく男がいた。4人にはそれぞれランタンが手渡された。メファルは元気よく宣言する。「さぁ、これから山に入ります。釣り大会を始めましょう！」 22

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フィルとレッド、そして二人のカップルはガイドのメファルに連れられて、夜の山へと入って行った。散々登山だと言っていたが、山道は砂利で整備されていた。それでもフィルとレッドの革靴では難儀に思えたが、不思議にも二人は鳥のように軽々しく道を歩く。やがて目的地周辺へと辿りついた。 23

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「ほう、これは……」　フィルは最初それが木々の間から洩れる月明かりかと思った。暗い夜の山、光を遮る森の中に、幾つもの光点が揺らめいているのだ。蛍ならば光は飛び交っているはずだ。しかし、その光は波間に漂う月明かりのように瞬くだけだ。「これが噂の……」 24

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ガイドのメファルが静かに囁いた。「ささ、大きな音を立てずに、釣り糸を垂らします。アンコウガエルは臆病なのです。あまり近寄らないように、釣り糸だけを近くに垂らしてくださいね」　そう言って彼女は各自に釣竿を手渡した。ランタンの光は布で覆って消すよう指示した。 25

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ランタンの明かりを消すと、揺らめく光の正体が分かる。アンコウのような触角の発光体なのだ。アンコウガエルはその名の通りアンコウによく似た生き物だった。しかし前足は長く、山形の胴体をしている。それが湿った地面をのろのろと這いずっていた。これなら手で捕まえられそうだ。 26

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しかし、ガイドのメファルは釘を刺す。「警戒してないうちは大人しいですが、危険を察知すると素早く逃げますからね。ささ、私が手本を見せます。餌の肉片を針につけて、こうやってアンコウガエルの目の前に垂らしてください」　そう言って竿を比較的近くにいたアンコウガエルに向ける。 27

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アンコウガエルの目の前に餌が落とされた瞬間、目にも留まらぬ動きでアンコウガエルが餌に食いつく！　「今です！」　メファルが竿を引く！　すると、アンコウガエルは針が口に刺さりズルズルと地面を引きずられる。逃げようとするが、糸を振り切って逃げることはできなかった。 28

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「見ましたか？　簡単でしょう。釣り放題ですので、早速チャレンジしてみてください。釣ったアンコウガエルは後で料理にします」　針に繋がれたアンコウガエルを引き寄せたメファルは、竿を足で踏んで固定すると、手袋の両手でしっかりとアンコウガエルを捕まえた。 29

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ピックを顎の下の柔らかい皮膚に差し〆るメファル。「へぇ、これなら俺にでもできそうだ」　レッドは闇の中にやりと笑って、竿を構えた。しかし、不用意に餌を近づけたせいか、アンコウガエルは警戒して逃げていく。「あ、ちょっと待ってよ」　「餌の動きが不自然ですね……」 30

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「まぁ、何回かやってれば慣れますよ。アンコウガエルはいっぱいいますし」　そう言ってメファルはカップルの方へと説明に行った。「畜生、食い付け、食えってば」　むきになって逃がした一匹を追うレッド。「やれやれ」　それについていくフィル。やがて二人はガイドから離れていった。 31

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「おい、レッド。どこまで行くんだよ」　「ちょっと待って、俺達いまどこにいるんだ？」　闇の中、フィルとレッドは立ち止った。ランタンのフードを外し、辺りを照らす。夜の森の中は危険だ。少し足を踏み入れただけで、そこは迷宮になる。ガイドの姿は見えない。戻る道も分からない。 32

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「こりゃ、しくじったかな？」　レッドが申し訳なさそうな顔をする。フィルは大声を出そうとして、ふと闇の中に光を見つける。「ん、明かりだ、レッド。ガイドさんのかな。いやはや、大目玉だね」　アンコウガエルの明かりとは違う光が、遠くにあった。それは闇の中、ボンヤリと輝いていた。 33

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――真夜中の釣り大会#1　（了）　#2へつづく