ミイラレ第四話: 天狗のこと

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。朝になっても怪異。
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

コン、コン、コン。その朝、四季を目覚めさせたのは小さなノックの音だった。ベッドから身を起こした四季はゆっくりと伸びをする。疲れた感じが抜けないのは、引っ越したばかりで慣れていないからか、それとも昨日のごたごたのせいか。幽霊との遭遇、青行燈の来訪。盛りだくさんだ。1 #4215tk

2015-06-19 20:46:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

コン、コン、コン。再びノックの音。四季は緩やかに首を居間へのドアへ向け……眉をひそめた。音の方向が違う。ドアとは反対方向から聞こえているような。コン、コン、コン!三度目のノック。今度はやや強め。ようやく音の方向を特定し、慌てて振り向く。反対側、ベランダの方から。2 #4215tk

2015-06-19 20:49:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は慌ててカーテンを開ける。窓の向こう側に人影。目が合う。驚く彼を見て、相手は満足気に目を細めた。してやったり、とでも言いたげに。黒っぽい山伏装束を身にまとった少女だ。背は低く、顔立ちも幼い。しかし見た目相応の中身でないことはその瞳を見ればよくわかる。3 #4215tk

2015-06-19 20:51:35
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

それは四季も重々承知だ。というより、昔からの顔馴染なので否応なく知っている。指でベランダ窓の鍵を指差している怪異を見て、四季は慌てて飛び起き鍵を開けた。「よう、四季坊。元気にやっておるか?」「ながれ!なんでこんなとこに!?」開けた直後の第一声が交わる。4 #4215tk

2015-06-19 20:54:24
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ながれと呼ばれた小さな怪異は、いたずらっぽく笑みを浮かべ、口元に人差し指を立てる。四季は顔をしかめて口を押さえた。怪異は霊感を持たぬ相手には見えず、その声も聞こえない。そうした人間がはたから見ていたら、変人扱いは必至である。四季は黙って怪異を手招きした。5 #4215tk

2015-06-19 20:57:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「なんでここに」窓を閉じ、尋ねる。「なんでときたか。それはもう、四季坊の様子を見るために決まっておろうて。どうじゃ?新しい地には慣れそうか」にこにことしながら、ながれ。四季は苦い顔で怪異を見下ろす。昔からお節介焼きなのだ、彼女は。「まだ一日も経ってないでしょ」6 #4215tk

2015-06-19 21:01:34
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そうともいうの。まあそんな細かいことは気にするな!ひとまず着替えて散歩にでも出たらどうじゃ?こちらに来る前に空からこの街は見てあるから、面白そうな場所にでも案内を」捲し立てるながれが、ふと言葉を止めた。その視線が四季から居間に続くドアへ。「誰ぞおるのか?」7 #4215tk

2015-06-19 21:03:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季の返事を待つことなく、ながれはずかずかと上がり込む。高足の一本下駄をつけたままで。「ちょ、ちょっと」四季は静止しようとした。遅かった。あっという間にドアへたどり着いた怪異は、勢いよくそれを開け放ったのだ。そして向こう側にいた存在に目を丸くする。8 #4215tk

2015-06-19 21:06:48
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「おや?」台所に向かっていたらしい、薄青い肌をした鬼女が振り返る。居間の中央に置かれたちゃぶ台でだらしなく漫画を読んでいたらしい幽霊が、驚いたように顔を上げた。三者の視線が交錯する。少しの沈黙。「……新居に移って早々、おなごを連れ込むとは感心せんぞ、四季坊」9 #4215tk

2015-06-19 21:10:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そんなんじゃない!」咎めるような口調のながれに、四季は思わず反論する。が、当のながれはさっさと鬼女へ視線を移していた。「ぬしの霊気は知っておる。四季坊の家を探っておったな?何者じゃ」「人に名前を聞くんなら、まずご自分からお名乗りになられたらいかがで?」10 #4215tk

2015-06-19 21:12:18
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

料理の片手間に答える巡の言葉に、ながれは小さく鼻を鳴らす。「よかろう。聞いて驚け、儂の名は僧正坊ながれ!天下に名を轟かせし大天狗が一人よ!」見得を切るながれに、四季はこっそりと息をついた。「とりあえず着替えてくるから。それまでケンカしないで待っててね」11 #4215tk

2015-06-19 21:15:01
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季は足早に寝室へ戻り、着替える。神経を研ぎ澄ませていたものの、その間に不穏な騒ぎは感じられなかった。自分の言うことを耳に入れてはくれているらしい。居間に戻ると、怪異たちは揃ってちゃぶ台を囲んでいる。空いているところ……ながれの隣だ……に座り、一息つく。12 #4215tk

2015-06-20 19:54:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「で、話はどこまで進んだの?」「ひとまず簡単な自己紹介は」答えたのは巡だ。彼女は急な来訪者を一瞥する。「しかし僧正坊とは。若旦那はずいぶんとお顔が広いことで」「あれ、知ってるの?」思いがけない言葉に首を傾げる。初対面だと思っていたのだが。13 #4215tk

2015-06-20 19:57:01
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「いえ、この方と会うのはこれが初めてですよう。ただ僧正坊の一族というのは」巡が説明を始めようとしたその時。玄関から鍵が開く音がした。「えっ」四季は声を上げそちらへ視線を向ける。その直後、勢いよく玄関のドアが開く。「四季!?また霊気を感じたんだけど大丈夫!?」14 #4215tk

2015-06-20 20:00:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

切迫して入ってきたのは、お隣の怜だ。その両腕には『武器』である赤と青の反物。臨戦態勢。「ああっ、ごめん!知り合いだから問題ないんだ!」「……えっ、ていうかどうやって鍵開けたんですか?戸締りはしっかりしてたはずなんですけど」小夜子が思い出したように口を挟む。15 #4215tk

2015-06-20 20:03:04
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その問いに、怜は黙って小さな針金を目の前に掲げた。ひとりでにうねり、形を変えていく針金を。「ここのアパートの鍵くらいだったら、御前さまの力を借りればどうにでもなるよ」「ええー、なんですかそれ……怖い……」「そんなことより。そこの子が四季の知り合いの怪異?」16 #4215tk

2015-06-20 20:06:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

退魔師の言い方が気に食わなかったか、ながれが立ち上がる。「子とはなんじゃ、子とは!こう見えてぬしよりもずっと長く生きておる!なにしろ儂は、」「天下に名を轟かせし大天狗、僧正坊ながれ。でしょ?だったらもうちょっと落ち着きなよ」四季はその袖を引っ張って座らせた。17 #4215tk

2015-06-20 20:09:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

呆れたようにそれを見ていた怜の顔が、天狗の名を聞いた途端に驚きの表情へと変わる。「……僧正坊?それって鞍馬天狗のことだよね!?なんでそんな大物がこんなところに」「……え、ながれって鞍馬天狗だったの?」「うむ。言っておらんかったか?」無論、四季も初耳だ。18 #4215tk

2015-06-20 20:12:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……巡さん巡さん。鞍馬天狗ってすごいんですか?」「そりゃアね。日本に数いる天狗の中でも、一、二を争うくらいの実力と知名度の持ち主さ」「へええ」小夜子が目を丸くしてながれを見やる。「すごいんですね。こんなに小さいのに」「……あァン?」ながれの目が険悪に光った。19 #4215tk

2015-06-20 20:15:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季の制止を振り切り立ち上がった彼女は右腕を振り上げる。その手にはいつの間にか、黒い羽で飾られた羽団扇があった。「そこに直れ、無礼者!バカにしおってからに、成敗してくれるわ!」轟、と部屋の中に風が渦巻く!「ダメだよながれ、落ちついて!」四季が慌てふためいた。20 #4215tk

2015-06-20 20:18:17
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……巡さん巡さん。鞍馬天狗ってすごいんですか?」「そりゃアね。日本に数いる天狗の中でも、一、二を争うくらいの実力と知名度の持ち主さ」「へええ」小夜子が目を丸くしてながれを見やる。「すごいんですね。こんなに小さいのに」「……あァン?」ながれの目が険悪に光った。19 #4215tk

2015-06-22 19:57:08
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