ミイラレ第四話: 天狗のこと

怪異に好かれる少年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。朝になっても怪異。
1
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

四季の制止を振り切り立ち上がった彼女は右腕を振り上げる。その手にはいつの間にか、黒い羽で飾られた羽団扇があった。「そこに直れ、無礼者!バカにしおってからに、成敗してくれるわ!」轟、と部屋の中に風が渦巻く!「ダメだよながれ、落ちついて!」四季が慌てふためいた。20 #4215tk

2015-06-22 20:00:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

部屋の中に嵐が吹き荒れる。家具ががたがたと揺れるも倒れる様子はない。顔をしかめている巡がなにか対処しているのか。自分の失言に気づいた小夜子が凍りついている。目を怒らせた天狗が羽団扇を持った腕を振り下ろそうと「だーッ!」したところを背後から四季が羽交い締めに!21 #4215tk

2015-06-22 20:03:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「なにをする、離せ四季坊!離さんか!」「できるわけないでしょ!怜もちょっと手伝って!」「え……あ、ああ、うん」曖昧に頷いた怜が靴を脱ぎ、小走りで四季の元へと向かってくる。「……あの、止めるってどうすれば」「え……なんかないの、退魔師の道具みたいの!」22 #4215tk

2015-06-22 20:09:10
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「あるはあるけど」退魔師が困ったようにながれを見下ろす。ながれがきっ、とそれを睨み返した。「見下ろすでないわ小娘!無礼じゃぞ!」『相変わらず妙なところで堪え性のないやつじゃの、おぬしは』周囲の脳裏に響く声。怜の首に巻きつくように具現化した白蛇。朽縄御前。23 #4215tk

2015-06-22 20:11:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「なんじゃ、朽縄か。神社はどうした?」『ちゃんと守護しておるわ!こやつに憑けておるのは分身よ。おぬしこそわざわざこちらに来てやることがそれでよいのか?』ぐ、とながれが言葉を詰まらせる。急に冷静になったのか、周囲を見た彼女はバツが悪そうに羽団扇をしまいこむ。24 #4215tk

2015-06-22 20:13:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

ほっと息を吐いた四季がながれを解放する。「あ……あのう」小夜子がおずおずと声を上げる。「すいませんでした、ながれさん。その……私、悪気があったわけじゃ」「よい」嘆息混じりの返答。そのまま座り込む天狗。「儂も大人げなかったわ」その言葉に、一同の緊張が解ける。25 #4215tk

2015-06-22 20:15:20
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『少しは頭を冷やすがよい』蛇神が呆れたように言う。『同じことを妾の管轄内でやっておったら、即刻追い出しておるところじゃ』「……それは困るの」ながれが苦笑する。彼女は四季に向き直ると、素直に頭を下げた。「すまん、四季坊。騒がせたの」「わかってくれてよかったよ」26 #4215tk

2015-06-22 20:18:03
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怜も腰を下ろし、ちゃぶ台を囲む。奇妙な沈黙。「とりあえず朝飯にしますか」気を取り直したように声を上げたのは巡である。「あたしの手作りでよければ、ですけど」「作っててくれたの?」四季が目を丸くした。怜が顔をしかめている。「そんな、わざわざ」「簡単なもんですよ」27 #4215tk

2015-06-22 20:21:28
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「僧正坊殿もいかがです?そこの退魔師も」来訪者二人を一瞥し、巡が問う。ながれは迷うことなく頷き、少し遅れて怜もそれに続く。「よし。話があるんならそのあとにするとしましょう。まずは一旦落ち着かんとどうにも……」ぼそぼそと呟きながら、鬼女がキッチンと向かっていく。28 #4215tk

2015-06-22 20:24:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ごちそうさま」巡の作った朝食……和食だった……を食べ終え、手を合わせる。「はい、お粗末さまで」鬼女が答えて手を叩く。それと同時に、空になった茶碗や皿がひとりでにキッチンへと飛んでいった。「料理を作るなんぞ久しぶりですよ。お口に合えばいいのですが」30 #4215tk

2015-06-23 19:36:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「大丈夫です!美味しかったですよ〜!」「そりゃどうも」にこやかに言う小夜子に、巡は苦笑を浮かべていた。が、すぐに表情を引き締めながれを見やる。「さて。なにか聞きたいことがおありなら伺いますが」「無論ある」天狗が低い声で呟いた。「ぬしが山ン本組というは真か?」31 #4215tk

2015-06-23 19:39:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ええ、もちろんですとも」溜息をつき、巡。「まあ基本的には裏方でしたからね。あたしの名なんぞ知れ渡っちゃあいないでしょう」「というかながれも知ってたんだ、山ン本組」「そりゃあの」呆然とする四季に、ながれは柔らかい笑みを向けた。「長く生きてれば嫌でも耳に入る」32 #4215tk

2015-06-23 19:42:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

天狗は小首を傾げ、四季を見上げた。「四季坊、そやつに渡された小槌を見せてくれんか」「え?」彼は戸惑う。寝る前にはどこかへ姿を消してしまったあの小槌。どうすれば「出ろ、と言やあ出ますよ。若旦那の言葉には従うはずです」巡の助言。「そ、そうなの?えー……出ろ!」33 #4215tk

2015-06-23 19:45:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

適当な掛け声。すると軽い音を立てて小槌が手の中に落ちた。「うわ、本当だ!すごい!」「ははは、そうじゃの。さて」騒ぐ四季の手首を取り、ながれはまじまじと古びた小槌を見やる。少しの間凝視したあと、彼女は小さく唸る。「なんとまあ。本物のようじゃの」驚きの声。34 #4215tk

2015-06-23 19:48:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その反応に鬼女の眉間にしわが寄った。「心外な。なんだと思っていたので?」「騙りかなにかかと。いくらなんでも話がうますぎるでな」天狗が苦い顔をする。そして翡翠色の瞳で鬼女を睨んだ。「何者じゃ、ぬしは」「あたしゃ一介の青行燈でございますよう。つまらぬ妖怪です」35 #4215tk

2015-06-23 19:51:25
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「つまらぬ妖怪、か」「はい」二人の怪異は真っ向から睨み合う。数秒の沈黙。先に根負けしたのはながれだ。「まあよい。そういうことにしておいてやろう……ときに、話は変わるが」「なんです?」「わざわざ四季坊を頭に据えたということは、巷の怪異を集めるためと見てよいな?」36 #4215tk

2015-06-23 19:55:19
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「そうですねえ。そのとおりです。別に隠す必要もなし」「そうか。よし、四季坊」「なに?」「儂を山ン本組に入れよ」思わぬ言葉に、四季は目を丸くする。「な……なに言ってるのさ、ながれ!」「儂が一番槍になってやろうと言っておる。構わんな?」巡を横目に、天狗は言った。37 #4215tk

2015-06-23 19:57:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ほう!そりゃまことで?」眉を跳ね上げた巡が破顔する。「そりゃアいい!若旦那、ぜひお言葉に甘えるべきですよう。僧正坊殿がお力を貸してくれるとなれば、百人力ですからね」「そりゃ……そうだろうけど」四季は言葉を濁しつつ、ながれを見やる。天狗はにこにこと笑うだけだ。38 #4215tk

2015-06-24 20:36:05
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『心配するでないぞ、四季坊』突然の念話に、四季は声を上げかけた。ながれがわずかに眉をひそめ、それを咎める。『これ、落ち着け。顔に出すでないぞ?あやつにバレたら面倒だからの』『あやつって……巡のこと?』悩む素振りを見せながら、四季も念話で返す。39 #4215tk

2015-06-24 20:39:09
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『そうじゃ。彼奴、どうにも訝しい』『そりゃまあ怪しいよね』『いかに怪異を取り込んだとて、あそこまでの力量。解せん』『そういうもんなの?』四季は少なからず驚いた。怪異の強さなどついぞ気にしたことはない。しかし、ながれがそう評価するのであれば、相当なものだろう。40 #4215tk

2015-06-24 20:42:15