世にも奇妙な「愛」の話

■ヴィゴ・ニールセン ニールセン家の跡取り息子。淡い金髪に宝石のようなエメラルドの瞳が印象的な、白いスーツの御曹司。 ■ダニエル・マクレーン ニールセン家に仕えるフットマンの一人。自信家で協調性に欠ける。 続きを読む
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御曹司 @applex004

「……ん、」 寝転がった男に手を引かれ、少女の華奢な体が男の上に被さる。少女が男の横に手を着けば、整えられたシーツに皺が寄った。柔らかなスプリングの鳴声。 「エマ、もっとお口開けテ」 「…ん、…ぁ」 従順に小さな口を開いて見せる少女の頬を撫で、男の翠の宝石が妖しく細まる。

2015-08-11 21:44:39
御曹司 @applex004

「アハ、イイ子♡」 自身と揃いの長い金糸に指を通し、そっとサイドテーブルに手を伸ばした。 「イイ子にはご褒美をアげないとネ♡」 男の翠が伏せられ、少女の小さな桃色の唇に自身の唇を合わせた。くちゅ、と瑞々しい音が立つ。

2015-08-11 21:52:10
御曹司 @applex004

「ヴィゴ!!!!!!」 けたたましい音ともに簡素なドアが開け放たれた。勢いよく部屋の中に踏み込んだ男ーーーこの屋敷の家主である壮年の男はベッドで絡まる二人を目に止め、固まった。 「なぁに、父サン。いまエマがご飯中だヨ」 きょとんとした様子で男は持っていた皿の桃を口に含んだ。

2015-08-11 21:58:08
御曹司 @applex004

「……お前は……、」 何事か口にしようと男の父親は言いかけるものの、結局何処から突っ込めばいいのかわからずに盛大なため息を吐いた。 「撃たれたと使用人が騒いでいたから心配して駆けつけてみれば……まったく……」 「アハ♡心配かけちゃっタ。ごめんネ!」

2015-08-11 22:03:58
御曹司 @applex004

色んな意味で想像以上に元気そうな息子を前に男は短期間で二度目のため息を吐いた。そして、男から口移しで食事をとる瓜二つの少女をちらりと盗み見る。 「……終わったと思っていたよ。あの日に、殺したと」 「アハ♡ボクがエマを死なせらハズないでショ。ボクのカワイイ、リトル・レディ」

2015-08-11 22:08:23
御曹司 @applex004

少女の額に、こめかみに、頰にとキスを落とす男を父親はゾッとした眼で見つめていたが、やがて諦めたように首を振るとソファに腰を落ち着けた。 「……それで、どうするつもりなんだ。それには「エマニュエル。エマって呼んであげテ♡」 「……エマには、戸籍もなにも無いんだぞ。お前だって…」

2015-08-11 22:12:39
御曹司 @applex004

「世間からなんと言われるか……」 父親の深刻な言葉に、男はただ無邪気に「もっと、」とせがむ少女を見つめた。これからどうするか。そんなことは男の方が答えを知りたいくらいだった。 「ネェ、父サン、イイこと思いついタ!ボク、エマと結婚すル!!」

2015-08-11 22:19:15
御曹司 @applex004

「お前はっ!…何処までうちの家系図を複雑にすれば気が済むんだ!!」 あっけらかんとした様子の息子に父親はとうとう本当に頭を抱えてしまった。 「エー、良い案でショ?ボクとエマが肉親だって証拠は何処にも残っテないシ、そしたらエマも公式にニールセン家の一員になれるジャン!」

2015-08-11 22:24:59
御曹司 @applex004

「……まったく。ヴィゴ、巫山戯ていないでちゃんと話をしなさい」 「ボク結構本気で言ってるんダケド」 眠たくなってきたのか、自身に寄り添って船を漕ぎ始めた少女の背を優しく撫でながら男はうーん、と唇を尖らせた。

2015-08-11 22:34:45
御曹司 @applex004

「駄目に決まっているだろう。なんのためにお前を社交界に出入りさせてると思っている……言っておくがそこかしこのお嬢さんを食い荒らさせる為でもないからな!!」 「食い荒らすっテ…ヤメテヨ、娘の前で恥ずかしいコト言わないでヨ」 「成人を過ぎた男が頬を染めるな!…はぁ、真面目にしなさい」

2015-08-11 22:40:36
御曹司 @applex004

普段通り飄々とした態度を崩さない息子に父親の表情が険しくなる。 思えば子供の頃から男はこんな調子だった。いつも笑っていて、人懐っこくあるのにその深層心理は実の父親である自分でさえまったく見せていないのではと思わせる。 「わたしはお前との時を取り戻そうと努力したつもりだったよ」

2015-08-11 22:46:13
御曹司 @applex004

両手で頭を抱える父親の表情は男からは見えない。だが、その声色は長年の苦悩を思わせるように震えていた。 「知ってル。だから父サンのコト、大好きだヨ♡」 場にそぐわない明るい男の声。愛する息子のその声に何度救われ、何度不安を抱いたか。

2015-08-11 22:51:25
御曹司 @applex004

「父サンが一人でボクを必死で育てテくれたコトも、今なラ昔よりちゃんと解るヨ。…ありがとう、愛してル」 結局、それが息子の本音なのかなど考えたところでこの先も一生解ることはないのだ。そうであれば、ただ無条件に信じる方がずっと父親の心は救われた。

2015-08-11 22:57:08
御曹司 @applex004

「……父サン、ボクはどうすればイイ?」 だから、愛してるの言葉の次に、図ったように弱気な言葉を吐くこれも、演技ではなく自身を頼ってのことなのだ、と父親は自分を納得させた。 「……エマはわたしの養子に迎え入れる。それでお前たちは正式に兄妹になれるだろう」

2015-08-11 22:59:59
御曹司 @applex004

「アハ♡ウン、ありがとう、父さサン!」 「良いな、兄妹だぞ!!忘れるな!!」 「モー、わかってるヨ♡すっごく仲良しな兄妹!ネー、エマ♡」 眠ってしまった少女を幸せそうに抱きしめる息子にまたため息が溢れたが、父親の口元はほんの少し笑っているように見えた。

2015-08-11 23:04:02
御曹司 @applex004

父親はようやく形ある絆を手に入れ寄り添う二人を残し、静かに部屋から出て行った。

2015-08-11 23:12:11

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