チョコレート粉砕機#2
(前回までのあらすじ:チョコを贈り合う季節に、輸送中の新兵器が奪われる。それは見えない兵器だった。犯人のアジトを突き止め奪還作戦を始めるが、すでに兵器は第三者の手に。それは見えない誰かの、見えない攻撃だった)
2015-07-16 17:39:18答えというのは見えないものである。算数の問題だったら、必ず答え合わせがある。現実はそうはいかない。答えが合っていたのか、間違っていたのか。それは最後まで明らかにされることは無く、人々は自分の信じた最適解を元に行動する他ない。そして、エリオには答えが分からなかった。 35
2015-07-16 17:42:36「答えは悲劇的結末だ」 エリオは一人呟いた。すでに現場は静かになっていた。夜は明けた。透明化した暗殺者が攪乱している間に、テロリストは全員脱出してしまった。暗殺者もまた、目的を達成しどこかへと消え失せた。手際のよい動きだった。すでにこちらの襲撃は想定されていた。 36
2015-07-16 17:46:12帝都には魔法使いのネットワークがあり、帝都での魔法使用はほとんど管理されている。だが、魔法が使用されてからネットワークの管理下に置かれるまでタイムラグがある。テロリストはその短い時間を利用して魔法を使うのだ。テロリストの作戦は素早かった。足を掴むことはできなかった。 37
2015-07-16 17:49:18憲兵のミヒルは呆然とするエリオを小突いて言った。「何早々に諦めてるんですか。まだ事件は始まったばかりです。事件が終わるまで、最善を尽くすのです」 アジトに突入しようとした憲兵の数人が死亡した。彼らは教導院に送られ、蘇生処置を施される。被害は軽微だ。 38
2015-07-16 17:53:02蘇生処理を受ける途中で、いくつかの記憶の欠落を起こすなどのデメリットがあるが、知識と頭脳こそが人生のすべてであるエリオと違って、そのデメリットは無視できるだろう。費用は政府が出してくれるため、懐の心配も必要ない。一般市民であったら相当な費用がかかる。 39
2015-07-16 17:56:37見えない兵器の攻撃を受けた死体は綺麗なままだった。衝撃で弾き飛ばされるが、死因はそれではない。全身に衝撃を与えて、心臓を停止させるのだ。蘇生は容易であった。それだけが救いであった。兵器の特性から、テロリストが行う次なる犯罪が大方予想できた。それは殺人ではない。 40
2015-07-16 17:59:26テロリストは常に資金源と物資を求めている。各地に隠れた支持者からの支援だけでは足りない。そのため大義に沿った……強奪を繰り返す。それは人類帝国への破壊工作にもなる。エシエドール革命軍は見えない兵器を利用して、資金や武器を調達することが考えられた。 41
2015-07-16 18:01:54ただの強盗や詐欺ではない。大胆な行動に出る可能性もあった。ミヒルとエリオは装甲車に乗り、移動を開始した。すでに各地に憲兵を派遣して巡回や警備によって警戒レベルを上げている。「私たちも街を巡回して、奴らの尻尾を掴みます。奴らは地下隠し通路から逃げたようです」 42
2015-07-16 18:05:09「徒歩でいつまでも逃げているとは考えにくいでしょう。何らかの移動手段を手に入れているはずです。ただ隠し通路は爆破されていたので、特定は……」 そのとき装甲車のダッシュボードからカチカチという信号音が鳴った。憲兵の通信だ。ミヒルはアクセルを踏み、ハンドルを切る! 43
2015-07-16 18:08:15エリオの身体が斜めになる。「襲撃ですか!?」 「時計皿街、12番地! 銀行強盗よ!」 カチカチという信号はエリオにはただのノイズにしか聞こえ無かったが、そういう意味があったらしい。現場に急行するが、到着したときはすでに全てが終わった後だった。散乱する死体。 44
2015-07-16 18:13:24銀行の金庫は爆破されていた。ものの数分で警備兵は殺されてしまったらしい。姿を消してからの奇襲だった。いくら警戒しても、気が緩むときは来る。そこを狙われたのだ。対処の方法が思いつかなかった。エリオは無力感に打ちひしがれながら、破壊された金庫を見上げていた。 45
2015-07-16 18:18:37襲われた銀行の外、エントランスの階段に腰掛けてエリオはため息をついた。魔法犯罪で唯一ネックとなるのが、殺傷性魔法の行使である。警備兵などは魔法に対する防護策を練っているため、容易に魔法で殺すことはできない。結果戦闘時間が長引き、魔法探査に引っかかってしまう。 46
2015-07-16 18:24:20魔法耐性を突破できる魔法は時間がかかるため、やはり探査の対象になる。銃器やナイフを透明化する方法は? それもやはり、金属探知の魔法に引っかかる。見えない兵器は探知されない、十分な殺傷性を持っているのだ。まさにテロリスト垂涎の武器である。そしてそれはいま彼らの手にある。 47
2015-07-16 18:27:25「エリオ、エリオさん」 いつの間にかミヒルがやってきて彼の隣に座る。「なんだい、叱責ならいつでも聞いてあげるよ」 「違います。お腹がすきました。私たち、何も食べてないでしょう」 エリオは拍子抜けしてしまった。ミヒルはエリオがどうすることもできないことを分かっていた。 48
2015-07-16 18:31:55「無理に頑張ろうとして、大事なことを忘れてたりするんです。そう、栄養補給とか。大事なことを忘れると、状況は悪化するばかりです。ほら、さっきチョコをあげたでしょう。それを食べましょう」 「ああ、ありがとう」 エリオはミヒルに感謝した。冷たい振りをしながら、優しいのだ。 49
2015-07-16 18:37:27「ミヒルさんの分は……」 「私はまだたくさん持っています……あれ?」 ミヒルはバッグを探しながら、困惑の声をあげた。「どうしたんです?」 「やだ……チョコが変なの。溶けてる……」 今は2月だ。チョコが溶けるはずがない。しかし、ミヒルが取りだしたのは溶けたチョコだった。 50
2015-07-16 18:45:18「もしかして俺のも」 エリオはポケットを探る。やはりチョコは溶けていた。エリオの脳内に火花が散る。見えない兵器、その設計とチョコが繋がったのだ。「見えた……見えたぞ」 エリオの手の中でチョコが次第に固まっていく。その意味が分かったのだ。チョコが溶けたのは偶然ではない。 51
2015-07-16 18:50:52エリオは誰にも聞こえないように、ミヒルに囁いた。「見えない兵器を見つける方法が分かりました。どこで聞かれているか分からないので、静かに聞いてください」 「……本当なの?」 「チョコです。見えない兵器が接近すると、チョコが溶けるんです。離れると固まります」 52
2015-07-16 18:55:41「嘘でしょ。それが見えない兵器とどういう関係があるっていうの」 「理屈は後で好きなだけ論文に纏めます。しかし、世の中には一見関係ないような関連性があったりするんです。それは俺にも分からないことでした。とにかく、チョコによって兵器の場所が分かるんです」 53
2015-07-16 19:00:12「原理はあなたにも分からないんでしょ。それじゃ、ただの仮説ってことじゃない」 「正直、その通りです。でなければ、さっき俺達がチョコを取りだしたときに、近くに見えない兵器があって、当然持ち主が俺達を見ていたことになります」 「恐ろしい話。こんなに憲兵がいるのに」 54
2015-07-16 19:26:40