チョコレート粉砕機#3

新たに開発された「見えない兵器」がテロリストに奪われた! 絶望的な状況で奮闘する研究者と婦人憲兵の話です。 #1はこちら http://togetter.com/li/847629 #2はこちら http://togetter.com/li/848093 続きを読む
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減衰世界 @decay_world

――チョコレート粉砕機#3

2015-07-17 15:40:24
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(前回までのあらすじ1:チョコを贈り合う季節に、輸送中の新兵器が奪われる。それは見えない兵器だった。犯人のアジトを突き止め奪還作戦を始めるが、すでに兵器は第三者の手に。それは見えない誰かの、見えない攻撃だった)

2015-07-17 15:46:06
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(前回までのあらすじ2:解決策が見つからないまま、見えない兵器による犯罪は続く。銀行が襲撃され、なすすべなく金品が奪われる。そこでエリオとミヒルはチョコが溶けるという異常に気付く。そして、見えない兵器の弱点が明らかになったのだ)

2015-07-17 15:48:50
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2月の帝都は風が冷たく、空は曇りがちだ。温かい麺をスープまで平らげたエリオとミヒルは、すぐさま店を飛び出して装甲車に乗り込んだ。憲兵庁舎に帰還し、発生した事件の続報を待つ。事件を防げないのは辛いが、兵器を使用し、充電の必要がある時を狙わなくてはいけない。 67

2015-07-17 15:54:08
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二人は憲兵庁舎に帰る途中、十分な量のチョコを購入していた。チョコの状態が変化することのみが見えない兵器の接近を明らかにする。それが何メートルの距離かなど、詳しいことは分からないが、唯一の手掛かりだった。二人は暇さえあればポケットに手を入れ、チョコの固さを確認する。 68

2015-07-17 15:57:43
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「事件発生! 銀蓋街3番街の宝石店だ!」 見えない兵器対策班の通信士が声をあげる。エリオとミヒルは顔を見合せ、さりげなく地図を広げた。事件現場に近い憲兵の詰所を探す。そこに、電源を求めて誰かがやってくる……憲兵のふりをした、テロリストが来るはずだ。 69

2015-07-17 16:00:50
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最寄りの詰所を指差し、二人は頷いた。そして装甲車に乗り、急行する。「テロリストは油断しているだろうか、現場に近い詰所だなんて」 「見えない兵器に絶対の自信を持っているはずだよ。正直、憲兵に内通者がいるなんて思いもしなかったもの」 エリオはポケットに手を入れる。 70

2015-07-17 16:05:19
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ポケットの中のチョコはまだ固い。見えない兵器が近くにあれば、これは柔らかくなってしまうはずだ。「そして奴らは、俺達がそれの輪郭を捉えたことを知らない」 詰所の前に静かに装甲車を止める。自然な足取りで中に入る。受付に一人いる以外は、がらんとしていた。 71

2015-07-17 16:09:16
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近くで事件が起こっているのだ。人がいないのは無理も無い。エリオとミヒルは受付に向かって静かに話しかける。「他に誰かいませんか?」 憲兵の娘は不思議そうに答える。「事件続きで疲れたと、奥の休憩室で二人休んでいますが……? 人員が足りないのですか?」 「そんな感じだ」 72

2015-07-17 16:13:27
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詰所の奥、休憩室に向かって力強く歩く。休憩室の入口には、一人の憲兵が立っていた。ミヒルは確信した。見張りだ。驚いた顔でこちらを見る。エリオはポケットに手を入れる。チョコが、次第に柔らかくなる。近づくにつれ、柔らかくなっていく! 時計を見る。事件発生から15分。 73

2015-07-17 16:16:17
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15分では見えない兵器に完全に充電することはできない。エリオは緊張で唾を飲み込む。二人は真っ直ぐ休憩室へ向かって歩いていく。見張りの憲兵がぎこちない顔で話しかけてくる。「よぉ、どうしたんだい。お前らも休憩か?」 「そんな感じです」 「着替え中なんだ。後にしてくれないか」 74

2015-07-17 16:19:11
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「着替え? 更衣室があるのに、何故休憩室で着替えるのです?」 「おい、待て!」 見張りの憲兵を押しのけて休憩室の扉を開ける。中には背の高い憲兵が座って煙草を吸っていた。近くにはコンセントがある。エリオはポケットの中のチョコを確かめる。包装紙越しに分かる柔らかさ。 75

2015-07-17 16:21:38
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触れば分かるはずだ。見えない兵器、あらゆる探知に捉えられない兵器は、触れば一発で分かる。エリオとミヒルの意図に気付いた背の高い憲兵は素早く手を動かす。ミヒルは走り出した。速い方が勝利する旗取り競争だ! どちらが手にするかは……一瞬の差にすぎなかった。 76

2015-07-17 16:24:04
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ミヒルは弾き飛ばされた。一瞬何が起こったのか、彼女には分からなかった。一拍遅れて、彼女は見えない兵器の攻撃を受けたことを知った。偽憲兵の方が速かったのだ。見えない兵器は奪われた。そして、見えない兵器が起動したのだ。自分は死んだのか……? ミヒルにはそれさえ分からなかった。 77

2015-07-17 17:05:15
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「ぐあッ」 短い悲鳴。最初ミヒルはそれが自分の断末魔かと思った。だが、妙に野太い。男の声だ。ミヒルは目を開ける。そこには、手を抑えた偽憲兵がいた。見えない兵器は? 後ろを見ると、見張りの憲兵にエリオが取り押さえられ、地面に伏していた。「早く拾え!」 見張りの憲兵が叫ぶ。 78

2015-07-17 17:07:58
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「こいつ、熱いんだ! 凄く……熱くて触れない!」 偽憲兵は見えない何かを掴もうとして四苦八苦している。エリオは組み伏せられながら叫んだ。「オーバーヒートだ! 兵器に大きな負荷がかかっている……チャンスだ!」 「チッ」 偽憲兵は制服の上着を脱ぎ、兵器を包もうとする。 79

2015-07-17 17:11:42
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「ミヒル、止めてくれ!」 エリオは叫ぶ。騒ぎを聞きつけて、詰所に憲兵が集まってくる。全てが上手くいくかに思えたそのとき、兵器を抱えた偽憲兵は呪文を唱える……テレポートの呪文だ! 「させるもんですか!」 ミヒルが飛びかかって呪文を妨害しようとする! 80

2015-07-17 17:14:38
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「待ってくれ……置いていかないでくれ!」 エリオを抑えていた見張りの偽憲兵は慌ててテレポートに乗りかかろうとする。だが、彼もミヒルも一瞬遅かった。兵器を抱えた偽憲兵は、瞬きひとつの間にテレポートで消え失せていた。駆けつけた他の憲兵がなだれ込んでくる。 81

2015-07-17 17:18:23
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偽憲兵は憲兵手帳を調べることですぐに偽物だと判明した。しかし、捕まった偽憲兵に構っている暇は無い。エリオとミヒルは詰所を飛び出して装甲車に乗った。他の憲兵も情報を共有し、辺りを探しまわる。届け出の無い魔法は、効果が制限される。それほど遠くへテレポートしていないはずだ。 82

2015-07-17 17:21:21
減衰世界 @decay_world

目立つ憲兵の制服を着替える前に、捕えなくてはいけない! 「見つけた!」 ミヒルが装甲車のハンドルを切る。路地へ駆け込む後ろ姿。偽憲兵だ。「ミヒルさん、気をつけてくれ。チャージが終わっていないとはいえ、兵器は発射可能状態にあるはずだ。衝撃波を受けたら死んでしまう」 83

2015-07-17 17:26:38
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「さっきはオーバーヒートの熱で手を離したから致命傷にならなかったけど、オーバーヒートの熱を考慮して撃たれたらどうなるか……例えば布でくるんだまま撃ったり……」 「死んでも生き返ればいいんでしょ! それよりも兵器を回収する方が大切! 兵器が他の者の手に渡る前に!」 84

2015-07-17 17:33:32
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装甲車のスピードを振りきれるほど、人間の足は速くは無い。急激に近寄る偽憲兵の背中。「一気に轢き殺すわ! 言い訳は蘇生してから!」 85

2015-07-17 17:39:56