昨日発生していたサイトログインできない不具合は修正されております(詳細はこちら)

チョコレート粉砕機#2

新たに開発された「見えない兵器」がテロリストに奪われた! 絶望的な状況で奮闘する研究者と婦人憲兵の話です。 #1はこちら http://togetter.com/li/847629 #3はこちら http://togetter.com/li/848540 続きを読む
0
減衰世界 @decay_world

エリオはひとつの結論に達した。「つまり、この仮説を証明しなくちゃいけないんだ。分かるかい、俺達だけでだ。この辺りは封鎖されているんだ。この近くに見えない兵器があったということは、憲兵の中にスパイがいるってことだ。そう、兵器を持って、俺達を監視している誰かが」 55

2015-07-16 19:29:29
減衰世界 @decay_world

現在分かっていることは、見えない兵器の存在によってチョコが溶けるという影響があること。そして、それを持つ実行犯が何食わぬ顔で憲兵として行動していること。その二つだった。それはまだ何の証拠も無い。それを確かなものにする行動が、エリオとミヒルの二人に求められていた。 56

2015-07-16 19:32:03
減衰世界 @decay_world

「とにかく、その裏切り憲兵を炙りだす作戦が必要なのね」 「それより先にチョコが本当に溶けるかどうか確かめたいんだけど」 「研究者はいつだってそう! 裏切りの方がどう考えたってゆゆしき事態です」 二人は会話を聞かれないように場所を変え、装甲車の中で話していた。 57

2015-07-16 19:35:50
減衰世界 @decay_world

「俺は研究者だ。捜査とかそう言うのは不慣れだ。ここは君の作戦を聞こう」 「いきなり丸投げきましたね……でも私はこれでも憲兵のプロなんです。期待には応えましょう」 ミヒルは身震いをして装甲車の暖房を入れた。暖房の音が沈黙の中やけに大きく聞こえる。だが、ミヒルは期待に応えた。 58

2015-07-16 19:39:05
減衰世界 @decay_world

「ひとつ疑問があります。何故憲兵に実行部隊を潜ませているのか。その理由を考えました。第一に、情報の優位性です。憲兵の動向を探れば、警備の薄い場所を狙うことができます。しかしそれは実行部隊でなくスパイでいいはずです。なぜ見えない兵器を携帯させる必要があるのか」 59

2015-07-16 19:43:03
減衰世界 @decay_world

「それはつまり、見えない兵器が憲兵の装備を利用しなければいけない欠点があるのではないですか?」 エリオはその理由が思い浮かばない。「見えない兵器を運用するのに特別な設備は必要ないんだ。家庭用の電源さえあれば半永久的に利用できる」 「それです!」 60

2015-07-16 19:50:02
減衰世界 @decay_world

ミヒルは俄かに興奮する。「普通に考えて、街中で電源が確保できますか? そりゃ家庭やオフィスに電源はありますよ。いちいち透明化して侵入するんですか? 充電している時間は何秒ですか? 何分ですか?」 「フルチャージに30分はかかる。そんな長時間の魔法使用は不可能だ」 61

2015-07-16 19:54:50
減衰世界 @decay_world

長時間魔法を使用すれば帝都の魔法ネットワークの監視網に捕捉され、特定されるだろう。その瞬間息の音を止めることすら可能だ。ミヒルの推理はこうだ。先の作戦でアジトを失った反政府組織は、安全な電源の確保と情報の入手を両立させるため、実行部隊を憲兵に紛れこませているという。 62

2015-07-16 19:58:49
減衰世界 @decay_world

電源は帝都においても貴重な存在だ。非合法に幾つもの電源を調達するのは難しい。アジトの喪失は致命的だったのだろう。つまり、憲兵組織に配備された電源を張り込めば、犯人を捕まえることも可能である。兵器は透明化できても……それを使う人間は透明化が難しいのだ。 63

2015-07-16 20:03:28
減衰世界 @decay_world

「作戦開始です。いいですか、秘密ですよ。他の誰が反政府組織のスパイか分かりません。一人や二人でない可能性もあるのです。憲兵組織は改編や移動が多く、私たちは互いの顔をあまり知りません」 作戦は決まった。それは地道な作業に思えた。憲兵の利用する電源は……無数にあるのだ。 64

2015-07-16 20:08:27
減衰世界 @decay_world

そのとき二人の腹が同時に鳴った。現在昼の11時。昨日の晩から二人は碌に食べておらず、夜もあまり眠っていない。「チョコだけじゃ辛いですね。少し、食べましょう。このままじゃ作戦中に倒れかねません」 「賛成だ」 ひとつの解決法、迷宮の脱出路が見つかったのだ。 65

2015-07-16 20:13:37
減衰世界 @decay_world

二人はようやく栄養補給できるほどに、緊張から解き放たれ、そして……希望を手にしたのだ。 66

2015-07-16 20:18:11
減衰世界 @decay_world

――チョコレート粉砕機#2 (了) #3へつづく

2015-07-16 20:18:25