禁忌や適応の判断根拠を得る問診は診察の一種であり、医行為である。

生理上危険を生ずるおそれのある断食療法の日数の判断根拠を得る問診は診察の一種であり、医行為である。 そんな裁判の解説を。 ついでに厚生省が出したカイロプラクティックに関する通達のおかしさも。
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びんぼっちゃま@インディーズ医療法学者 @binbo_cb1300st

そんな疑問があって、こんな陰謀論丸出しのまとめを作成したが、この裁判を見たあとではカイロプラクティック業界の支援を受けた政治家による陰謀論を唱えたくなる気持ちも理解してもらえるのではなかろうか? togetter.com/li/844882

2015-07-20 00:16:24

東京高裁判決 昭和47年(う)1260号 昭和47年12月6日

改行、強調、--(解説)--はまとめ主による。


主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用はこれを三分しその一を被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人植田八郎の提出にかかる控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

弁護人の控訴趣意第一点について
—(医師法違反について)--
—(弁護人の主張)--
所論は、原判決は、被告人は医師でないのに昭和43年6月12日ころから同年7月21日ころまでの間関東断食道場東京支部において、原判示のA外6名に対し、問診、ミルマグ(下剤)投与などの診療行為をなし、もって医業を行ったと認定判示しているが、被告人には右A外6名に対し問診をした事実はない。

そもそも医師法第17条違反の罪は医師でないものが医行為を行うことによって成立するものであるが、医行為とは人の疾病を診察し、よって治療を施すことをいい、診察を絶対必要条件とするものであるにもかかわらず、被告人は右A外6名に対し断食道場への入寮目的等を尋ね、これによって入寮日数を取り決めたにとどまり、これ以外に被告人が問診をしたと目さるべき事実がないことはもちろん、また右の事実が問診に当たらないことは明らかである。したがって、被告人の所為をもって医業を行ったと認定した原判決には事実誤認の違法があるというのである。

—(裁判所の医師法第17条の解釈)--
よって按ずるのに、医師法第17条は、「医師でなければ医業をなしてはならない。」と規定しているが、右にいわゆる医業をなすとは、人の疾病の治療、予防を目的とし、医学の専門的知識を必要とする診断、薬剤の処方、投与または外科的手術を行うことを内容とするいわゆる医行為に従事することを業とすることを意味するものと解される(最高裁昭和30年5月24日第三小法廷決定、量刑集9巻7号1093頁およびその原審たる大阪高裁昭和28年5月21日判決、同刑集1098頁各参照)。

—(本件の事実関係)--
今これを本件について考えてみるのに、原判決掲記の各証拠によれば、原判示のA外6名はいずれとも疾病の治療、予防を目的として被告人のもとを訪れたこと、すなわちAはアレルギー症状の治療、Oは左膝関節の痛みと蓄膿症の治療、Yはリュウマチの治療、T1は十二指腸潰瘍の予防と胃弱の治療、Hは腎臓浮腫の治療、T2は胃痛の治療、Nは顔のシミの治療と予防を目的として被告人のもとを訪れたものであることが認められるのみならず、被告人もまた右7名に対しこれら疾病の治療と予防を目的とする断食療法を行わせる前提として、被告人において、直接に、あるいは当時被告人のもとで原判示の断食道場に勤務していた事務員Mを通じて、断食道場への入寮目的、入寮当時の症状、病歴等を尋ね、入寮日数、捕食および断食の日数を指示していた事実が認められるのである。

もっとも、原審証人Mの証言および同人の検察官に対する供述調書、原審第11回公判廷における被告人の供述によれば、捕食および断食の日数は入寮日数によって一律に決せられているのみならず、実際の入寮日数もおおむね入寮者の希望を聴くことが一般的であったことが認められるとはいえ、被告人において、入寮者の病歴入寮当時の症状等から当該疾病の治療又は予防に要する期間を教示して入寮者の判断に資し、それに従って入寮日数をきめさせていたことがうかがわれるのである。

—(裁判所の判断)--
以上認定の事実関係に徴すれば、被告人が原判示のA外6名に対して前示の如く入寮当時の症状、病歴等を尋ねた行為は、当該相手の求めに応じてそれらの者の疾病の治療、予防を目的として、本来医学の専門的知識に基づいて認定するのでなければ生理上危険を生ずるおそれのある断食日数等の判断に資するための診察方法というほかないのであって、いわゆる問診に当たるものといわなければならない。

これに加えて、原判示掲記の各証拠によれば、被告人は右A外6名に対し生理的影響を及ぼす医薬品である下剤ミルマグを原判示のとおり投与していることも明らかである。

したがって、被告人の右問診、薬剤投与は、前記説示の医行為を業として行ったものというべきである。
してみれば、原判決が、被告人の行為をもって、問診、薬剤の投与などの診療行為をなしもって医業を行ったものと認定判示したことについては、所論のような事実誤認の違法はない。

同第二点について
—(薬事法に関する判示)−−
—(弁護人の主張)--
所論は、原判決は、被告人は薬局開設者ないし医薬品販売業の許可を受けたものでなく、かつ法定の除外事由がないのに、業として、原判示のA外11名に対し、下剤ミルマグを販売したものであると認定判示しているが、被告人は断食道場への入寮者の便宜のため下剤ミルマグ入手の取次をしたにすぎないものであって、業として医薬品を販売した事実はないから、原判決には事実誤認の違法がある、というのである。

—(認定事実と裁判所の判断)--
しかしながら、原判決掲記の証拠を総合すると、被告人は原判示のとおり、法定の資格が無いのに、昭和43年6月12日ころから同年7月21日ころまでの間、A外11名に対し被告人が直接自己の計算で薬局から購入した医薬品である下剤ミルマグ合計14瓶を一瓶200円で有償譲渡した事実を優に認定できるのであって、これをもって所論の如く医薬品販売業者とこれらA外11名との間の単なる取次行為と解することはできない。

けだし、薬事法第24条第1項にいう「業として医薬品を販売し」とは、反復継続して医薬品を不特定または多数の者に対してなす意思のもとに有償譲渡することを意味し、右の行為があれば業としての医薬品の販売行為が成立し、その販売回数の多少や営利の目的の有無は右販売行為の成否に関係がないものと解すべきであるからである。

したがって、被告人の右所為は、たとえ被告人が右ミルマグを買入価格と同一価格で頒布したものだるとしても、業として医薬品を販売したものというを妨げないし、被告人の右所為をもって、社会共同生活上許容されるべきものとも認められない。

結局、原判決には所論のような事実誤認の違法はない。

諭旨は理由がない。

よって、刑事訴訟法第396条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用は、刑事訴訟法第181条第1項本文により、主文第2項掲記のように被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

第5刑事部