妖怪ウォッチ二次創作長編:くれは舞う風・第一話『帰郷』

以前に出していた妖怪ウォッチ18禁を長編小説化させました。その第一話です。オリジナルキャラ及び設定を含みます。
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みなみ @minarudhia

妖怪ウォッチ長編SS開始:くれは舞う風第一話『帰郷』

2015-07-04 21:56:34
みなみ @minarudhia

ご注意:当SSはオリキャラ主人公となっております。

2015-07-04 21:57:39
みなみ @minarudhia

日の光を遮る木立。 耳障りなほどはっきり響く蝉の鳴き声。 その間を走り抜ける、一人の少女。 「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…!」 木の根に何度も足を取られながら彼女は走る。 言いようのない怖れが、彼女の足をもたつかせていた。 1

2015-07-04 22:00:33
みなみ @minarudhia

背後から迫る悍ましい気配。 それは大きく、意外にも速く少女を追いかけて来る。 少女は手に持った虫あみをがむしゃらに振り回しながら、ひたすら逃げていた。 …何から? 2

2015-07-04 22:03:16
みなみ @minarudhia

彼女は感じる。 悍ましいそれが、自分がこれまで見えたものとは比べものにならないほど、恐ろしく巨大なものだと。 今自分が向かっている先にはお寺がある。 自分を助けてくれる住職のいる寺が。 しかし。 「きゃっ!」 3

2015-07-04 22:06:03
みなみ @minarudhia

後少しという所で彼女の爪先に木の根が引っかかる。 ぶざまに転んだ彼女の背後、真後ろに悍ましい気配が迫った。 「!」 少女は振り返る。 今や泣き顔といっていいまでにその顔を歪ませながら振り向いた先にいるそいつを見た。 4

2015-07-04 22:08:03
みなみ @minarudhia

小山を思わせるほどに大きく、目だけが不気味に光ったシルエットを。 つ ぅ か ま え た ぁ 5

2015-07-04 22:09:39
みなみ @minarudhia

「!!」 そこで目は覚めた。 一糸纏わぬ全身は脂汗に覆われ、シーツをぐっしょりと濡らしていた。 「ゆ、夢…」 6

2015-07-04 22:11:59
みなみ @minarudhia

紅葉の色を思わせる明るい赤の混じる褐色のショートヘアをかきあげ、息を整えようと努める。 心臓が激しい動悸を行う脈動に耳を傾けながら、彼女…坂口秋奈は微かな記憶を夢に当て嵌めていた。 「…あれは…」 「アキナ?」 7

2015-07-04 22:13:43
みなみ @minarudhia

すぐそばから秋奈を気遣う声に目をやる。 そこには、子供ほどの大きさをしたライオンの獣人のようなものが体を横たえていた。 その頭のタテガミは炎そのもの、眼の光もわずかに火を帯びている。 「…メラメライオン…」 「どうした?何か悪い夢を見たのカ?」 気遣うように話しかけてきた。8

2015-07-04 22:15:28
みなみ @minarudhia

「…悪い、夢…」 掠れた声で繰り返した後、秋奈は自身がメラメライオンと呼んだものに抱き着いた。 「ア、アキナ?」 動揺する声に構わず、彼の胸に顔を押し付けてその場で泣きじゃくる。 9

2015-07-04 22:17:30
みなみ @minarudhia

メラメライオンの手が秋奈の髪を撫ぜる。 それで良かった。 妖怪……そう、妖怪でもいい。独りでなくて良かった。 秋奈の涙が自身の毛並みを濡らすのを感じながら、妖怪・メラメライオンは彼女が泣き止むまでそうしてやるつもりだった。 10

2015-07-04 22:23:24
みなみ @minarudhia

がたん、ごとん がたん、ごとん、がたん ≪本日も やまびこ線をご利用頂き 誠にありがとうございます≫ 12

2015-07-04 22:26:54
みなみ @minarudhia

慣れたアナウンスを聞き流しながら、秋奈は頬杖ついて窓を眺めていた。 真向かいではメラメライオンが空になった二人分の駅弁を片づけている。 「アキナ、お前の帰るトカクレ町って場所はどんな所なんだ?」 ビニール袋に駅弁の空箱を放り込み、メラメライオンが姿勢を正す。 13

2015-07-04 22:29:13
みなみ @minarudhia

「紅葉の名所で、私の生まれ故郷なの」 秋奈は窓から視線を戻し答えた。 「子供の時しかそこに住んでなかったからあまり覚えていないんだけれど、周囲が一面山で、秋になると紅葉でいっぱいになるの。それが凄く綺麗なのは覚えてる。…でも」 秋奈の表情がやや曇った。 14

2015-07-04 22:31:24
みなみ @minarudhia

「……禅納(ぜんな)和尚が死んだ騒ぎの後、父に連れられてあんのん団地の辺りまで引っ越したの。それに反対する人もいたんだけど、父は元々トカクレ生まれの人間じゃなかったし私が嫌な事件に巻き込まれるならこんな所に住まなくていいだろって聞かなかった」 15

2015-07-04 22:33:39
みなみ @minarudhia

「反対されたってどういうことだ?」 「…メラメライオン、私の髪と眼の色ってやっぱり変わってると思う?」 いきなり別な話題を切り出された。 「……染めた色じゃないんだよナ。オレはその色、綺麗だから好きだ。しかしそうだな、確かにそんな髪と眼の色をした人間、あまり見かけない」 16

2015-07-04 22:35:25
みなみ @minarudhia

髪が赤いだけの人間ならちらほら見るけどな、メラメライオンがそう付け加えると、秋奈は口元へ持ってきた妖緑茶を軽く啜って続けた。 17

2015-07-04 22:36:53
みなみ @minarudhia

「トカクレ町ではね……必ず一人だけ、この赤い髪と眼の色を持つ女の子が生まれるの。どこの家系がとかに関係なく町のどこかで必ず一人だけ、必ず秋の時期に生まれる。その子をトカクレ町の人達は“もみじ様”とか“くれは様”とか呼んで、特別な扱いをしていたって。なぜかはわからないんだけど」18

2015-07-04 22:38:09
みなみ @minarudhia

「アキナが、そのもみじ様とやらなんだな」 「父が言ってたことだけど、町の人たちは私が遠くへ行くことを怖がっていたって」 「…怖がっていた?」 「お年寄りが、特にね…『もみじ様をやってはダメだ 災いが起こる』って」 がたん、ごとん 19

2015-07-04 22:41:31
みなみ @minarudhia

「見鬼の眼を持っているのか?もみじ様とか呼ばれていたという他の人間は」 「わからない。でも、何かしら不思議な力は持っていたらしいの。そして、もみじ様が亡くなれば、その次の年の秋に必ず次のもみじ様が生まれる。不気味だと思うのよね…当のもみじ様と言われてる私が言うのもなんだけど」20

2015-07-04 22:43:51
みなみ @minarudhia

秋奈は肩をすくめつつ、手元の妖緑茶を啜った。 ……実に、15の年ぶりの帰郷である。 帰郷の理由は他愛のないもので、友人にして同僚の片岡早苗や他の同僚がトカクレの事を話していたことがきっかけだった。 21

2015-07-04 22:46:49
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