【再放送版】全てがトロになる①

なぜか失禁要員になってしまった蒼龍。今では出番すら無い……。
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劉度 @arther456

【全てがトロになる・再放送】①

2015-07-28 21:01:39
劉度 @arther456

(これからSSを投下します。TLに長文が投下されますので、気になる方はリムーブ・ミュートなどお気軽にどうぞ。投下中はTLを余り見ないので、感想・実況などを #ryudo_ss に書いて頂けると、後でチェックして小躍りします。では、宜しければ暫くの間お付き合い下さいませ)

2015-07-28 21:02:50
劉度 @arther456

北方海域、津軽海峡。本州と北海道の境界に、原子力巡洋艦『蔵王』が出撃していた。その前に立ちはだかるのは、人と機械を融合させた無機質な生命の群れ。深海棲艦と呼ばれる人類の敵だ。人の大きさで軍艦の戦闘力を持つ彼女らに、人類は苦戦を強いられていた。 1

2015-07-28 21:03:42
劉度 @arther456

だが、今は違う。『全砲門開け……ってぇーっ!』勇ましい少女の号令で、砲声が轟く。20.3cmの砲弾すら弾くはずの装甲が貫かれ、重巡リ級が海に散った。戦艦・長門。船ではない。金属の砲と魔術を身にまとった戦乙女の名だ。彼女たちが、深海棲艦に対する日本の切り札・艦娘である。 2

2015-07-28 21:07:01
劉度 @arther456

そして艦娘は長門一人だけではない。『とどめよ、艦爆部隊、攻撃!』爆音と共に、深海棲艦の中でもトップクラスの装甲を持つ戦艦ル級が轟沈した。仕掛け人は、上空を飛ぶラグビーボールサイズの金属物体。旧日本軍の爆撃機『彗星』を模した形だが、機械ではない。魔力によって操られる式神だ。 3

2015-07-28 21:10:13
劉度 @arther456

金属の式神を操るのは、海に浮かぶ二人の少女。飛行甲板型の盾と弓を身につけた彼女たちの名は、かつての日本軍の航空母艦からとって、赤城・蒼龍と呼ばれていた。『敵戦艦の轟沈を確認しました』「よし!敵は撤退を始めた!不知火、追撃を頼む」『了解しました』 4

2015-07-28 21:13:25
劉度 @arther456

津軽海峡に深海棲艦が現れたと聞いて出撃したのは、原子力巡洋艦『蔵王』に乗る、横須賀鎮守府第33地区の提督だ。先の鉄底海峡での激戦、そして霧の艦隊と呼ばれる異世界の勢力の出現。その混乱に乗じて津軽海峡に深海棲艦が侵入し、漁船や貨物船を次々と沈めていたらしい。 5

2015-07-28 21:16:37
劉度 @arther456

北海道から本州に食料を運ぶ輸送船が撃沈される。それは、提督を激怒させるには十分な事件だった。新米時代から食料輸送とピンはねと密貿易を続けてきたこともある。大将となり、日本の海上護衛の大部分を任される立場になったこともある。だがそれ以上に、提督は『飢え』そのものを憎悪していた。 6

2015-07-28 21:19:51
劉度 @arther456

その理由はまだ誰にも語られていない。だが少なくとも原因を取り除いたことで、提督の怒りは収まっていた。『提督、撃沈された船の残骸から、生存者を一名発見しました』「一人か……。分かった、船に上げて」はあ、と提督が溜息をつくと、艦内に張り詰めていた緊張がほぐれた。 7

2015-07-28 21:23:03
劉度 @arther456

周囲に敵影はない。あとは生存者を大湊警備府に預けて、母港に帰るだけだ。気が抜けた提督はふと、出撃前に読もうと思っていたマンガ雑誌を思い出した。「そうだ、コンプティーク読むか」本屋で目についた雑誌だ。今月から艦娘を扱ったマンガが載っているらしい。 8

2015-07-28 21:26:16
劉度 @arther456

艦長室に向かおうと提督は立ち上がる。その体がぐらり、と傾き倒れた。「あれ?」体の感覚がおかしい。足がない。触ってみる。なんかヌメヌメする。ぞっとして、自分の足があるはずの場所を見る。尾びれと青い皮、そしてそれを覆うウロコ。「……え?」いつの間にか、足が魚の尾びれになっていた。 9

2015-07-28 21:29:31
劉度 @arther456

原子力巡洋艦『蔵王』は妖精さんと呼ばれる霊的な存在によって動かされている。そのため、操船に大勢の人間を必要としない。今日の『蔵王』の乗組員は提督と艦娘を除けば4人。原子炉を管理する機関長、軍医、料理長、ジャマイカからやってきた金剛級一番艦。 11

2015-07-28 21:32:49
劉度 @arther456

そして今、その僅かな人間は全員魚顔の魚人になっていた。「「「「「ゴボボボボーッ!」」」」」「なんなのこの半魚人のバーゲンセールは!」唯一喋れる提督は、あらん限りの声で絶叫する。その横で蒼龍は、並んだ魚顔に恐れをなして、しめやかに失禁していた。 12

2015-07-28 21:36:01
劉度 @arther456

「分析によると、海中から正体不明の魔力が沸き上がってます」「それが原因で、提督たちがマグロ化したみたいです」「ちなみにマグロ部分は100%トロです」「大トロです」妖精さんが分析結果を報告する。美味そうな話だが、一番知りたいことはそれではない。 13

2015-07-28 21:39:14
劉度 @arther456

「魚になるのは分かる。だけど……なんでマグロ?」「マグロのみぞ知る」こればっかりは妖精さんにも分からないらしい。魚人化するにしても、せめてもっときれいな魚にして欲しかったのだが。「艦娘たちや妖精さんは大丈夫?」「魔力バリアで守られてるから、大丈夫です」 14

2015-07-28 21:42:27
劉度 @arther456

どうやら艦娘たちは大丈夫そうだ。しかしこんな姿のまま港に帰る訳にはいかない。この海域を調査して、原因を取り除く必要がある。探るといえば、提督にはもう一つ気になることがあった。「ところでこれ、泳げるの?」自分の下半身を指差して、提督は妖精さんに質問する。 15

2015-07-28 21:45:39
劉度 @arther456

「やってみないと分からないです」「じゃあ、ちょっとやってみようか」興味津々の提督の下、実験が始まった。内火艇に乗り込んだ提督の胴にロープを付け、その端を蒼龍が持つ。「提督、きつくないですか?」「うん、大丈夫」そして提督はじゃぼん、と水に飛び込んだ。 16

2015-07-28 21:48:52
劉度 @arther456

「寒い!」上がってきたのは一分後だ。「そりゃあ、冬の津軽海峡ですからねー。で、どうでした?」「すっごい早く泳げるね。あと、えら呼吸もできる」「見た目だけじゃなくて、本格的に魚になってるみたいですね。気分はどうです?」「はるかに良い」 17

2015-07-28 21:52:04
劉度 @arther456

5分ほど泳いでから提督は船に上がった。足が魚になって自力ではハシゴを登れないので、蒼龍に背負われながらである。「上がったら今度こそコンプ見ないとなぁ」「あれ面白いんですか?」提督と蒼龍が会話していると、妖精さんが無線機を持ってやってきた。 18

2015-07-28 21:55:18
劉度 @arther456

不知火からか、と思い提督は受話器を取る。「もしもし、不知火?やっつけた?」『いえ。増援が現れました』「……え?」受話器を取り落としそうになった。「な、なんだ。規模はどれぐらいだ?」『敵は……その、信じられませんが――』続く不知火の言葉に、提督は声を失った。 19

2015-07-28 21:58:35
劉度 @arther456

水平線を見る。不知火が戻って来るはずの方向だ。空にポツポツと黒い点が見える。双眼鏡に目を当て、黒い点を凝視する。報告通り、マグロが空を飛んでいた。 20

2015-07-28 22:01:49
劉度 @arther456

『左舷後方より、マグロ三匹接近!』「木曾、頼む!」『任せろ!』木曾の連装砲が火を吹き、3匹中2匹のマグロが爆発する。砲撃を避けた一匹も、木曾の抜いたサーベルに一刀両断される。分断マグロは宙を舞い、赤とオレンジの花火になった。 22

2015-07-28 22:05:07