全てがトロになる ①

SSと言ったが、何のSSかは指定していない。つまり我々がその気になれば、忍殺のSSにするのも艦これのSSにするのも勝手だということ……!
ログ 艦これ ニンジャスレイヤー
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劉度 @arther456
【全てがトロになる】①
劉度 @arther456
北方海域、津軽海峡。本州と北海道を繋ぐ海域に、原子力巡洋艦『蔵王』が出撃していた。その前に立ちはだかるのは、人と機械を融合させた無機質な生命の群れ。深海棲艦と呼ばれる人類の敵だ。人の大きさで軍艦の戦闘力を持つ彼女らに、人類は長い苦戦を強いられていた。1
劉度 @arther456
だが、今は違う。『全砲門開け……ってぇーっ!』勇ましい少女の号令で、砲声が轟く。20.3cmの砲弾すら弾くはずの装甲が貫かれ、重巡リ級が海に散った。戦艦・長門。船ではない。金属の砲と魔術を身にまとった戦乙女の名だ。彼女たちが、深海棲艦に対する日本の切り札・艦娘である。2
劉度 @arther456
そして艦娘は長門一人だけではない。『とどめよ、艦爆部隊、攻撃!』爆音と共に、深海棲艦の中でもトップクラスの装甲を持つ戦艦ル級が轟沈した。仕掛け人は、上空を飛ぶラグビーボールサイズの金属物体。旧日本軍の爆撃機『彗星』を模したそれは機械ではない。魔力によって操られる式神だ。3
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そしてその式神を操るのは、海に浮かぶ二人の少女。飛行甲板型の盾と弓を身につけた彼女たちの名はかつての日本軍空母からとって、赤城・蒼龍と呼ばれていた。『敵戦艦の轟沈を確認しました』「ん、ご苦労さま。敵は撤退を始めた。不知火、追撃を頼む」『了解しました』4
劉度 @arther456
艦娘たちを統率するのは、『蔵王』の艦長、横須賀鎮守府の提督である。津軽海峡に深海棲艦が現れた時、真っ先に出撃したのがこの提督の艦隊だった。大湊鎮守府の元帥には、事後承諾を得るつもりである。5
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先の鉄底海峡での激戦、そして霧の艦隊と呼ばれる異世界の勢力の出現。その混乱に乗じて津軽海峡に深海棲艦が侵入し、漁船や貨物船を次々と沈めていった。その話を聞いた途端、提督は全ての任務を中断、あるいは他社に委任して津軽海峡へと出撃してきたのだ。6
劉度 @arther456
北海道から本州に食料を運ぶ輸送船が撃沈される。それは、提督を激怒させるには十分な事件だった。新米時代から食料輸送とピンはねと密貿易を続けてきたこともある。大将となり、日本の海上護衛の大部分を任される立場になったこともある。だがそれ以上に、提督は『飢え』そのものを憎悪していた。7
劉度 @arther456
その理由はまだ誰にも語られていない。だが少なくとも原因を取り除いたことで、提督の怒りは収まっていた。『提督、撃沈された船の残骸から、生存者を一名発見しました』「そうか。港に戻るまでうちで預かろう」ふう、と提督の安堵の溜息とともに、艦内に張り詰めていた緊張がほぐれた。8
劉度 @arther456
「そうだ、コンプティーク読むか。別次元の鎮守府がマンガになってるんだよな、あれ」出撃前に買ったマンガ雑誌を思い出し、提督は立ち上がる。その体がぐらり、と傾き倒れた。「あれ?」体の感覚がおかしい。足がない。触ってみる。なんかヌメヌメする。9
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ぞっとして、自分の足があるはずの場所を見る。尾びれと青い皮、そしてそれを覆うウロコ。「は……あ、えええええ!?」提督の足は、人魚のような魚の尾びれになっていた。10
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原子力巡洋艦『蔵王』の乗組員の大半は妖精さんと呼ばれる霊的な存在である。提督を除けば人間は僅か4人。原子炉を管理する機関長、軍医、料理長、ジャマイカからやってきた金剛級一番艦。これだけしかいない。12
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そして今、その僅かな人間たちは全員魚顔の魚人になっていた。「「「「「ゴボボボボーッ!」」」」」「なんだよこの半魚人のバーゲンセール!」唯一喋れる提督は、あらん限りの声で絶叫する。その横で蒼龍は並んだ魚顔に恐れをなして、しめやかに失禁していた。13
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「分析によると、海中から正体不明の魔力が沸き上がってます」「それが原因で、提督たちがマグロ化したみたいです」「ちなみにマグロ部分は100%トロです」「大トロです」妖精さんが分析結果を報告する。美味そうな話だが、一番知りたいことはそれではない。14
劉度 @arther456
「魚になるのは分かる。だけど……なんでマグロ?」「マグロのみぞ知る」こればっかりは妖精さんにも分からないらしい。魚人化するにしても、せめてもっときれいな魚にして欲しかったのだが。「艦娘たちや妖精さんは大丈夫?」「魔力フィールドで守られてるから、大丈夫です」15
劉度 @arther456
どうやら人間にしか作用しないらしい。それなら戦闘には支障ない。追撃していった不知火は、今頃元気に深海棲艦を沈めているだろう。ただ、こんな姿のまま港に帰る訳にはいかない。拾った遭難者には悪いが、もっとこの海域を調査して、原因を探らなくては。16
劉度 @arther456
探るといえば、提督にはもう一つ気になっていることがあった。「ところでこれ、泳げるの?」自分の下半身を指差して、提督は妖精さんに質問する。「やってみないと分からないです」「じゃあ、ちょっとやってみようか」17
劉度 @arther456
興味津々の提督の下、実験が始まった。内火艇に乗り込んだ提督の胴にロープを付け、その端を蒼龍が持つ。本当は赤城に持ってもらいたかったが、あいにく彼女は遭難者の面倒を見ていた。「提督、きつくないですか?」「うん、大丈夫」そして提督はじゃぼん、と水に飛び込む。18
劉度 @arther456
「寒い!」上がってきたのは一分後だ。「そりゃあ、冬の津軽海峡ですからねー。で、どうでした?」「すっごい早く泳げるね。あと、えら呼吸もできる」「見た目だけじゃなくて、本格的に魚になってるみたいですね。気分はどうです?」「はるかに良い」19
劉度 @arther456
5分ほど泳いでから提督は船に上がった。足が魚になって自力ではハシゴを登れないので、蒼龍の背負われながらである。「上がったら今度こそコンプ見ないとなぁ」「あれ面白いんですか?」提督と蒼龍が会話していると、妖精さんが無線機を持ってやってきた。20
劉度 @arther456
不知火からか、と思い提督は受話器を取る。「もしもし、不知火?やっつけた?」『いえ。増援が現れました』「……え?」受話器を取り落としそうになった。「な、なんだ。規模はどれぐらいだ?」『敵は……その、信じられませんが――』続く不知火の言葉に、提督は声を失った。21
劉度 @arther456
水平線を見る。不知火が戻って来るはずの方向だ。空にポツポツと黒い点が見える。双眼鏡に目を当て、黒い点を凝視する。報告通り、マグロが空を飛んでいた。22
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