詩小説「有名人になるためには、血反吐を吐いて1日1回やればいい」レッズ・エララ神話体系、ほうき星町シリーズ昔話
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雪降りつむ。彼が歩む道に、南天の実のようにして紅い鮮血走る。腐りし骸掘り返しては、過去の過ちを償わんとする。その度にかつて放った「怨(オーン)」の呪詛を、我が身に新たに刻むようにして。ぽつりぽつりと、雪面に紅い鮮血走る。44
2015-08-10 21:19:49骸は、雪の中でも、血の紅い臭いを放つ。そうだ、自分は許されていないのだ、と知る。ただ音もなく……葬る。45
2015-08-10 21:20:39詩小説、レッズ・エララ神話体系、ほうき星町シリーズ――「有名人になるためには、血反吐を吐いて1日1回やればいい」、破「地獄の1日1回」(後)――おしまい。 次回、急「静山、春」につづく……
2015-08-10 21:22:12急「静山、春」
木こりが山を登っている。かつては「近づくな」と、山岳信仰上の畏敬で語られた峰を。先の秋にかけて、非常によどんだ雰囲気があった山であった。それが……少しずつ、浄化されていっているように思えた。1
2015-08-13 16:03:47春があと少しで足踏み入れる頃合いである。山を登り、奥に分け入り――木こりはみた。そこにある小動物の躯を、跪き丁寧に弔っている男の存在を。……おお、おお、これが仙の境にある存在だというのか……! 射す後光は、彼をしてその思いたらしめるのに十分……!2
2015-08-13 16:05:34村に帰った木こりは、その仙人伝説を語り始めるのであった……やがてその仙人が、かつて山脈に分け行っていった、当代いちの魔術師、月読だということが知れて…… 3
2015-08-13 16:05:53詩小説、レッズ・エララ神話体系、ほうき星町シリーズ――「有名人になるためには、血反吐を吐いて1日1回やればいい」、 急「静山、春」
2015-08-13 16:06:33振り返ってみれば、すべての躯を葬っていた、春。一端の寒さのあとじんわりとやってくる光の戯れの暖かさ。冬の孤独が、パラリと剥がれるようにして今はなく。ただ静かに、自分と山々だけがある。月読の姿は、もはやボロボロもいいところであるが、顔つきは、なんたる穏やかさであろうか……!4
2015-08-13 16:07:40月読……静かに流れる水がごとき、清冽さ。そこに野望の濁流はなく。ただ、あるがままを生きる、続ける……続ける。そしてそれに呼応するように、山も静かだ。うっすらと、あたりが光に満ちている。それは陽の光だけではない、木々、生命そのものが放つ……光 5
2015-08-13 16:10:03それが、自然、の意味。自らが、輝いて。 ときに、少女師匠がまた現れた。相変わらずの黒髪結いに、ハイカラ袴、豪奢な着物を羽織って。6
2015-08-13 16:13:01「よお、仙人サマ」「儂がですか?」「村じゃ大騒ぎだぜ、おまえがこのあたりの一番の「有名人」だ」「師匠のほうがよっぽどでしょう」「ぼくの場合はもう「昔話」やからね。「今を生きる伝説」としてはおめーさんだろう」「そうですか」「自慢しねえの?」「さて……殺せといわれたらしますが」7
2015-08-13 16:16:02「なにがあったというのです、村で具体的に」「……わからんか?」「……少ししか」「おまえさんの所行……弔い行為だな。それをみていた村人が、勝手に尾ひれはひれをつけて、語ってるわけさ。菩薩だ観音だ、とかってな」「はぁ……」「……? 前のおめーさんだったら喜んでいた境地だろうが」8
2015-08-13 16:19:03「……なんか、どうでもよくなってしまって」「ほほう」ニヤリとする少女師匠。「そのどうでもよさ、よく聞こうじゃないか」 月読は語る。「儂は儂の悔恨のためにやったまで。……ああそうか、これが「行」だったか……ひさしぶりに気づきましたわ」「1日1回やらんと、意味なかろ?」「はい」9
2015-08-13 16:22:02「わかるな?」師匠はいう。「鍛錬とは、結局究極の自己満足。結果はあとからついてくる……最初から巻き起こそさん「まーけてぃんぐなんちゃら」、みたいなモンはウソっぱちよ。自分がよければよし。ただし……自分がなにをしたか、なにをすべきか、の精査ほどムズいもんはないわな」10
2015-08-13 16:24:02今となってはそれがわかる月読だった。有名人……確かに、かつて憧れていた、興味をもっていた境地には、いま簡単にいる。だが、「自分が設定した目標達成」「それを行い続ける修行」「そしてその個人的結果」の前には、それがいかほどだというのか。輝きとは……他者による意味づけではない……。11
2015-08-13 16:27:02だから、月読、いう。「師匠」「さあ、次はなにをする?」「――なにをすべきか、儂に考えさせてください」師匠は、最大級の笑みでもって、それに答えた。春の滝、巨大瀑布は、白い飛沫をあげながら、轟々と今日も…… 12
2015-08-13 16:31:03詩小説、レッズ・エララ神話体系、ほうき星町シリーズ(の、むかしばなし)――「有名人になるためには、血反吐を吐いて1日1回やればいい」――おしまい
2015-08-13 16:32:00