心理学を騙る「トンデモ」にご用心!──実例と対処法──
- kisopsy_kun
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さて,いったん話を戻します。筆者がフロイトの学説を根拠としたことの問題点の2点目です。確かにフロイトが「傘は父親の権威の象徴」と主張したとしましょう。それで,その主張が正しいと仮定してみましょう。では,そこからいかにして「『慎重だが小心者』という性格は、さらに浮き彫りとな」るか?
2015-08-17 20:56:16「傘は父親の権威の象徴であるから,折りたたみ傘を常に持ち歩く人は小心者だ」とフロイト自身が言っているのなら話は別ですが,フロイトの説をそのように解釈したのはあくまでも筆者です。フロイトの説からこの解釈が自然に演繹されるってことは少なくともなさそうですが,この解釈は妥当でしょうか?
2015-08-17 21:00:17正直,この論法を認めるのであれば,何でもありになっちゃいますよね。まず主張したいことを用意して,それから哲学者や思想家の発言のうち都合のいい部分を持ってきて根拠にする,ということが可能になっちゃう訳です。自説に合致しない意見は無視し放題。これは少なくとも科学的な態度でありません。
2015-08-17 21:02:53実はもうひとつ大きな問題があるんですが,ちょっと後回し。結局のところ,ここまでの話を要約すると,筆者の主張は「小心者だから折りたたみ傘を持ち歩く人がいる。だから折りたたみ傘を持ち歩く人は小心者だと私は思う。ナントカさんもそんな感じのこと言ってる。」といったところでしょうか。
2015-08-17 21:05:59当たり前といえば当たり前な話ですよね。論理の骨組みがこんな感じなので,結局のところ「いつも折りたたみ傘を持ち歩いている人は 小心者」という主張は,とくに真新しいものでもないし,かといって全ての人に当てはまるようなものでもない,ということが分かるかと思います。
2015-08-17 21:07:59別の見出しについてもちょっとだけ触れます。「ヤセ型の人は 控えめで人間嫌いの傾向」とありましたが,実はこれ,ドイツのクレッチマーという研究者が言い出したことです。が,残念ながら現在では否定されています。これも錬金術と同じですね。古い説を無批判に持ち出すのは危険です。
2015-08-17 21:13:04他の項目も読んだのですが,大体は(というか全部?)フロイトであったり既に反証されている古い知見を根拠にしているものや,「私はこう思う」ぐらいしか根拠のないようなもので,とても信用できるものではない,と僕は「思いました」。
2015-08-17 21:15:48ちなみにこの本,末尾に参考文献のリストがあります。「以下の文献を参考にさせていただきました。」とあり,ずらーっと書名が並んでいます。…しかしよく見てみると,この本と似た雰囲気を醸し出すアヤシイ書名がいっぱい…。 pic.twitter.com/wWZagpz65g
2015-08-17 21:20:39中には『キーワードコレクション 心理学』のようなちゃんとした本も含まれていますが,何よりも注目しなきゃいけないことは,フロイトの著作が含まれていないことですね。あれだけフロイトの説を持ち出していたのに!
2015-08-17 21:22:13単に書き忘れの可能性もありますが,恐らく筆者さんは,他の本に「フロイトによれば~」と書かれているのを読んで,それをそのままフロイトの説として本書で使用したのだと思います。孫引き,というやつですね。(もっと言えば,参考にされた本の著者も孫引きをしていて曾孫引きの可能性もある。)
2015-08-17 21:24:58ということはつまり,この本に書かれているフロイトの説というのは,筆者が自分で読んで確かめたものではなくて,誰かが解釈したものを右から左へ横流ししたのかもしれませんね。伝言ゲームでどんどん原形が無くなっていくように,もはやフロイトの主張では無くなってしまっているかもしれませんね。
2015-08-17 21:28:38そういう危険性があるので,研究において「原著を読む」というのは基本中の基本です。原著が外国語であってもせめて日本語訳ぐらいは読むべきです。大学でのレポートの書き方の指導では大抵言われることだと思います。孫引きしてしまえば信憑性は下がっちゃいますよね。
2015-08-17 21:32:31予定していたよりも長くなってしまいましたが,この本が「トンデモ」であることは少しは伝わったかな,と思います。この本の著者は大学の先生をされている方なのですが,こういうケースは珍しくありませんし,似たようなトンデモ本はいっぱいあります。
2015-08-17 21:35:01大きい本屋に行くと(あるいは小さめの本屋でも),心理学関係の本がいっぱい置いてあると思いますが,すぐにトンデモ本を見つけることができます。僕は暇な時,ふらっと本屋に行って心理学のトンデモ本をペラペラ捲ってツッコミを入れるという悪趣味なことをすることがあります。
2015-08-17 21:37:21でも,心理学畑じゃない人には,どれがちゃんとした本で,どれがトンデモ本かなんて,すぐに判別つきませんよね。どうやったらトンデモ本を見抜けるのでしょうか。その前に,なぜトンデモ本が問題なのかを考えてみましょう。
2015-08-17 21:38:40ブラッドタイプ・ハラスメントはご存知でしょうか。いわゆる,「B型の人とは付き合わない」みたいな,血液型を根拠に嫌がらせや差別を行うことです。現在では血液型と性格との間に関係性などない,という考え方が広く支持されているのですが,「関係ある」と信じている人も多数います。
2015-08-17 21:40:56実際に血液型と性格との間に関係があれば差別をしてもいい,という訳ではありませんが,こういったトンデモな知見を信じることによって実害が生じる,ということが実際にある訳です。
2015-08-17 21:42:03例えば,ある企業が「小心者は新規採用しない」という方針を取っているとします。そこで,面接のときに「折り畳み傘を持っているか」と聞き,持っていると回答した人を不採用にすることにしたとします。…誰も得しませんよねえ。欲しい人材は集まらないし,志願者は理由も分からず落とされるし。
2015-08-17 21:44:27では,どうやってトンデモ本を見抜けばいいのでしょうか。ひとつの方法としては,「人間を単純化しない」ということです。考えてもみてください。ちょっとしたしぐさや振る舞い方から「ホンネ」が分かるほど,人間って単純な生き物なのでしょうか。
2015-08-17 22:12:01たぶん,答えはノーです。普段の定期ツイートでも呟いていますが,そんな簡単に人の心が分かったら誰も苦労しません。twitter.com/kisopsy_kun/st…
2015-08-17 22:14:08ウソをつくと視線が云々~みたいなのは,根拠のないデタラメだよ。こんなのを心理学だと思わないで!確かに心理学は,観察可能な行動から心の仕組みを推測する学問なんだけど,日常的な仕草からそこまで推測できてしまうほど人間は単純じゃないからね。
2015-07-08 12:19:23そういえばFacebookでこんな記事が流行っていましたが,これもトンデモです。ヘルマン格子による錯視(交差部分の色が変わって見える)は網膜の側抑制によって生じるという説が有力ですが,ストレスと関連があるとは聞いたことありません。 pic.twitter.com/BdeF9BFvNI
2015-08-17 22:17:36ヘルマン格子については他のツイートで解説しているのでご参考までに。twitter.com/kisopsy_kun/st…
2015-08-17 22:20:01この図はヘルマン格子(Hermann grid)。白い線の交差点が暗く見える錯視が体験できるよ。この錯視は,隣接する視細胞により視細胞が側抑制(lateral inhibition)されるからと説明されることが多いよ。pic.twitter.com/UlgSSJXvMs
2015-08-04 12:20:36注:ヘルマン格子で黒い点が見える現象のメカニズムを探求するのは,科学的な心理学の仕事のひとつです。錯視は知覚心理学(および生理学的心理学)の枠組みの中でよく扱われる研究テーマです。
脈拍とかを測ればそこから副交感神経の活動量を推定してストレスの指標にしたりすることはできますが(そういうスマホアプリとかも出てた気がする),さすがにこんな単純な方法でストレスの指標が得られるのならもっと普及しているはずです。
2015-08-17 22:22:04Facebookではこの手のトンデモが定期的に出てきますが(中にはまともなものもありますが),へたにアプリと連携したりすると個人情報を抜かれることがあるのでご注意ください。
2015-08-17 22:23:25