【ミイラレ!第十四話:ちのりちゃんのこと】(原文のみ)

年と退魔師の少女がなんやかんやするお話。最後の戦いは唐突に。 こちらは原文のみとなります。実況付きはこちら→ http://togetter.com/li/869531
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鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「悪イガ、オ前ハ逃ガサン」「ここで倒すってか?ナメられたもんだ」拳を構え、春が言う。不敵に。「いくら衰えたからって、テメエみたいな若造にやられるほどあたいは弱かねえ」「……ダロウナ。私トシテモ、倒セルトハ思ワン」赤マントの両袖から赤い紙が滑り落ちる。24 #4215tk

2015-09-06 17:12:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

紙はひとりでに変形し、槍のような形状へと変化する。「ガ、足止メハデキル。……彼ト合流サレルト厄介」春は眉間にしわを寄せた。階段を見る。天井からはいくつもの縄がぶらさがり、さらに蜘蛛のように這う両手まで出現している。完全に時間稼ぎをするつもりか。25 #4215tk

2015-09-06 17:15:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「じゃあ、こっちは紅子ちゃんに任せるよ。私はこの子を運ばなきゃならないから」てけてけが言う。彼女は屋上に続くドアに手をかけると、あっさりとこれを破壊。平然とした様子で外へと消えていった。赤マントが小さく肩を竦める。「……マアイイ。デハ、始メルカ」26 #4215tk

2015-09-06 17:18:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……廊下で足を止め、四季は呼吸を整える。まだ夕方だというのに空に広がるのは闇だ。つまり、また異界に入り込んでしまったことになる。おそらく魔女が作り出した異界の中に。「……春、大丈夫かな」『あの怪異なら、死ぬことはねえと思うけどな』肩に出現したナナが言う。27 #4215tk

2015-09-06 17:21:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

『ひとまず問題はこっちだぜ。いっちゃ悪いが俺はほとんど戦えない。で、逃げ場もない。これからどうするよ?』無情な現実を突きつけられ、四季は顔をしかめる。ひとまず春が戻ってこなければ自分にはどうしようもない。今のままでは怜を助けるどころの話ではないのだ。28 #4215tk

2015-09-06 17:24:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「うーん、どうしよう……とりあえずここから抜け出す方法を」思わず口に出して呟いていた四季は、ふと顔を上げた。いつの間にか、天井に赤い染みができている。人型の染みが。『……ん?なんだ?』ナナが少し遅れてそれに気づく。染みの顔が変化した。笑みの形に。29 #4215tk

2015-09-06 17:27:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

嫌な予感を覚えた四季は、染みの広がる天井一帯を勢いよく駆け抜ける。その背後に濡れた音が響いた。振り向くと、染みから赤い液体が垂れてきている。床に降り注ぐそれはすぐに廊下を覆い尽くし、赤い水溜りを作り出す。ごぼり、と音を立ててその中から何かが身を起こした。30 #4215tk

2015-09-06 17:30:02
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

起き上がったそれはひとまずは人の形をしていた。その顔には目も口も鼻もない……いや、すぐに小さな穴が開く。「アー……アー」不明瞭な声。同時に人型が顫動し、少女の姿をとる。全身赤色の怪異は、呆然とする四季を見てにたりと笑った。「みぃつけたぁ」31 #4215tk

2015-09-06 17:33:40
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

その言葉を聞き、四季は迷わず踵を返して駆け出す。ほぼ間違いなく魔女の手先。捕まるわけにはいかない!……対する赤い怪異は、不思議そうに首を傾げた。傾げられた首がぐにゃりと伸び、垂れ下がる。「……鬼ごっこぉ、するのぉ?」そして再び粘っこい笑みを浮かべる。32 #4215tk

2015-09-07 21:12:07
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「わかったぁ。じゃあぁ、ちのりが鬼ぃ」その体が、足元に広がる赤い液体の海が不気味に蠢く。次の瞬間、それは爆発的に膨れ上がり、弾けて四季を追う!「うげっ!?」予想以上の素早さに彼は呻く。首だけ振り向くと、波のように迫る赤い液体からいくつもの手が生えるのが見えた。33 #4215tk

2015-09-07 21:15:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ナナッ!」『おう!体借りるぞ!』言葉とともに、体に冷たいものが入り込む。ひやりとした感覚は一瞬だけだ。彼の体は跳ね上がり、追いすがる赤い手を回避する。そのまま天井近くまで飛び上がった彼は体を捻り、天井を蹴って前に跳んだ。そして空中で前転し着地、走行再開!34 #4215tk

2015-09-07 21:18:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「待ってよおぉ……」背中から聞こえる笑い混じりの声を振り切るように、四季の体は加速する。『あっぶねぇ。なんだよあの怪異!』「もう元もわからないね。ひとまずこのまま振り切って」そこで四季は言葉を止めた。壁、天井、床。埋め尽くすように赤い紋様が浮かび上がる。35 #4215tk

2015-09-07 21:21:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「な、なに!?」四季は思わず声を上げる。ぐにゃりと世界が捻れた。目眩。赤が視界を埋め尽くす。四季は反射的に止まろうとした。目眩が戻る。世界の色が戻る。そして、目の前に現れたのは先ほどの赤い怪異!「うえっ!?」ブレーキをかけようとするも、遅い。36 #4215tk

2015-09-07 21:24:15
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

足先に触れた赤い液体が、鞭のように変形して四季の脚に巻き付いた。そして「うわぁっ!」そのまま彼を引き倒す。彼が立ち上がるより早く、赤い液体が彼を包み込んだ。体にかかる強烈な力に、四季は顔をしかめる。その鼻先に、真っ赤な少女の顔が突き出てきた。「つかまえたぁ」37 #4215tk

2015-09-07 21:27:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

にたり、と怪異が嬉しげに笑う。その顔は幼い子どものよう。蕩けて歪みそうになることと、顔中からしたたる赤い液体を除けば、だが。「このまま捕まえておけばぁ。お姉ちゃんにぃ、褒めてもらえるかなぁ」呟くようにいった怪異は、ずい、と四季に顔を近づけた。38 #4215tk

2015-09-07 21:30:24
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

瞳も瞳孔もない、赤一色の目。四季は怯みつつもそれを睨み返す。「あはぁ」怪異が笑った。蕩けるように。「ちのり、気に入っちゃったぁ。ねえぇ、お姉ちゃんが来るまでぇ、遊ぼうよぉ」「遊ぶって……むぐっ!?」声を上げかけた四季の口が、赤い手に押さえつけられる。39 #4215tk

2015-09-07 21:33:08
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

怪異の顔が歪む。その体からは手が生えている。何本も。「なにで遊ぶか考える前にぃ、かわいがってあげるねぇ?」そして四季の顔を、体を撫で回し始める。そのなんともいえない感覚に、彼は身を捩った。無論そんなことで逃げられるわけもない。赤い怪異がくすくすと笑った。40 #4215tk

2015-09-07 21:36:16
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

……屋上。『ちのりがあの子を捕らえたみたいッスよ』「そう」壁に浮いた忌月の声に、鹿島は振り返ることなく答えた。その目は校門の方角を見据えている。彼女の足元に転がされているのは怜。彼女の体にもはや手足はない。『てけてけ』の力で引き剥がされたのだ。41 #4215tk

2015-09-07 21:39:13
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

もがこうとする退魔師など、もはや鹿島は気に留めない。彼女は目を細めた。校門の向こうから、赤い炎を断続的に吹き上げてこちらにやってくる影を見つけたからだ。「……ヤッホー!調子はどう?」いつの間にか赤いローブと唾付き三角帽子を身につけた都月薫である。42 #4215tk

2015-09-07 21:42:14
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「順調だと思うよ」静かに鹿島が答える。「レイルちゃんは準備万端。もう学校中に仕掛けをかけてる。日条くんもちのりちゃんが捕まえた」「あ、そうなの?案外簡単に済んじゃったんだね」薫は意外そうな顔を見せる。が、すぐに肩を竦めた。「ま、いいや。じゃあ儀式を始めよう」43 #4215tk

2015-09-07 21:45:46
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「……儀式?」なんとか顔を上げた怜は、必死に魔女を睨みつける。「いったいなにを」「そんな怖い顔しないでよ。ちょっとトリルの友達を呼ぼうと思ってるだけだから……かいな!ちょっとその子の腕ちょうだい!」鹿島はなにも言わず、魔女に怜から取り上げた腕を投げてよこす。44 #4215tk

2015-09-08 19:36:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「ありがと!さて、ちょっとチクっとするよ。我慢してね」薫はまず、懐から取り出した黒い本を床に置いた。そしてその上に怜の腕を掲げると、その指に自身の爪を押し当てた。怜は僅かに顔をしかめる。切り離されたはずの手に、確かに痛みを感じたからだ。滲んだ血が本の上へ。45 #4215tk

2015-09-08 19:39:06
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

表紙に血が落ちた途端、本はひとりでに開かれる。勢いよくめくられたそれは、やがてあるページを見開いて動きを止めた。「んー、どれどれ……おお、これは!」本を覗きこんだ薫が驚きの声をあげる。そして満面の笑みで怜を見た。「すごいよ、草江さん!大物だ!」46 #4215tk

2015-09-08 19:42:11
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

「嫉妬を司る大悪魔と相性抜群!やっぱり蛇と相性がいいのかな?」はしゃぎながら、魔女は鉄の杖で本を一打ちする。ゴウ、と上がった炎が瞬く間に床へ広がり、複雑な魔法陣を形取った。「蛇といえばトリルもなんだけどね。いや、蛇っていったら機嫌損ねるんだけど」47 #4215tk

2015-09-08 19:45:00
鹿奈しかな a.k.a SS @RiverInWestern

上機嫌な薫は、魔法陣を見渡して腕組みする。「うん。さすがに大悪魔を呼ぶには時間がかかるね」「……どうして」「うん?」「どうして、こんなことを。わざわざ学校に侵入してまで」怜が声を振り絞る。それは彼女の本心からの質問だった。薫が困ったように眉をひそめる。48 #4215tk

2015-09-08 19:48:07