#twnovel 私のログ

第二回ついのべ大賞に応募した作品たち他。赤文字が応募作品。
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のおの @noz_on_tw

眼鏡を外すと世界は輪切りで溢れていた。信号機の赤青黄色の輪切り、走り去る車のフロントに輪切り、光の輪切りが留まることなく流れていく。輪切り輪切り、維管束のような輪切りはメルヘンで、もう少しだけ眼鏡を外していようと思った。 #twnovel

2010-11-16 02:38:56
のおの @noz_on_tw

#twnovel 妙な人だとは思っていた。「ジャケ買いの一種だよ。」彼の本棚には、小さな額縁に入れられた本の表紙が並んでいる。「中身?古紙回収に出したよ。開いてないから古紙って言えないかも(笑)」art、なんだろな。artなんだよ。私の喉は震えてしまって、もう何も言えなかった。

2010-11-23 23:32:56
のおの @noz_on_tw

勢いよく顔を洗う。水を被りつつ、「ふしゅっふしゅっ」と息を吐く。こんな癖がついたのは父を見ていたからだ。家畜に餌やりを終えると、彼は手と顔を洗う。蛇口から20センチ、青いホースが伸びている。ふしゅっふしゅっ。顔を上げると、鏡の向こうから父の眉をした顔が見ていた。 #twnovel

2010-11-30 00:17:03
のおの @noz_on_tw

食用豚は可愛いんだよ。ヨークシャーでもハンプシャーでも、耳がぴんとしているやつは特にね。やつらが満腹で、泥の中に座りこんでいる姿を見てみろ。そこに通りかかると、あのつぶらな眼でこちらを見上げてくるんだ。その時の耳がさ、まるで天使の羽根みたいに見えるんだよ。 #twnovel

2010-11-30 00:32:25
のおの @noz_on_tw

#twnovel 匂いも所詮電気信号である。技術者たちの手によって、ついに携帯電話に匂いを発生させる機能が搭載された。着うたならぬ着香と呼ぶらしい。我がゼミの学生たちもその機能を楽しんでいる。「やべ、教授だ」卒論の催促をするためにメールを入れると案外近くで臭った。これは、線香の…

2010-12-08 01:10:35
のおの @noz_on_tw

「えいっ☆」少女がタクトを一振りすると、そこらに散らばっていた紙たちが宙に舞い上がった。記されていた文字たちは煌めきながら、次々にディスプレイの中へおさまっていく。やがて青白く光る画面には、整然と並ぶ文字たちの得意げな顔が残った。最後に少女が打ち込む。「終わり」 #twnovel

2010-12-12 18:37:11
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どうして二人はいつも反対方向に向かうんだろう。待ち合わせのフロア、柱の背中合わせで互いをずっと待っていたね。中央線の上りと下り、ホームで別れを惜しむ間もなく人ごみに流されていったね。――そう言う私に、あなたは微笑んだ。「対極だから引きあうんだよ」 #twnovel

2010-12-14 22:16:11
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ストレッチャーが揺れる。剣のような頭は勇ましく、故郷の太陽にぎらりと映える。鮮烈な花よ、お前が群れ咲くあの畑に父はいた。汗を吸った白いシャツにあかがね色の肌、濃い眉の奥で鯨に似たあの眼。あの眼が、語っていた。極楽鳥花よ、記憶の彼方にお前は揺れている。 #twnovel

2010-12-14 22:33:58
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ひとしずく、ぽたり。陶器の井戸に還っていく。揺らさず散らさず、一番大切なのが、いやらしくならないように。それが難しいのだ。半畳に納まるくらい小さなその人は、「謙虚であれ」と教えてくれた。時の深く刻まれた手が、未だここに見えている。先生、茶の極みは果てがなく―― #twnovel

2010-12-14 23:53:06
のおの @noz_on_tw

「私からみんなに送るすべての年賀状を繋げたら、ひとつの大きな絵になるの。」少女は嬉しそうに言ったが、その絵が現れることはないだろう。彼女の家族は皆バラバラに暮らしている。年賀状が一ヶ所に集まることはもうない。 #twnovel

2010-12-28 22:46:51
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なぁんもないからさ、どうしたらいいか余計わからんかったみたいだわけ。真っ白な紙を前に母親はぼやく。え、違うよ、よく見てみぃ。その紙を丹念に眺めていた父親が素っ頓狂な声をあげる。光の加減で見えてきたのは、白い紙に白いクレヨンで描いた花畑だった。‐未来 #twnovel

2010-12-30 19:09:26
のおの @noz_on_tw

「男はソーキ骨が一本足りないっていうさぁね」叔母さんが豪快に笑う。だらしない男、意気地ない男、あほな男。そういう男たちを見て故郷の女たちは言う。男にはあばら骨が一本足りない、しょうもないのは仕方ない、と。正月も既に四日、二日酔いの叔父は布団で小さくなっている。#twnovel

2011-01-05 02:50:24
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「昔昔のことなんじゃあ」婆様はのんびりと語りだした。若いおなごのころに、地獄の裏門に穴を開けてしまったことがあるそうな。それで半月ほど、その門の修繕をさせられた。はじめのうちは厳しい現場監督の赤鬼が恐ろしくて。「婆様、それって」「爺様との馴初めよ、職場恋愛じゃ」#twnovel

2011-01-10 03:11:46
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少年は道路に赤い×印を見つけた。金曜日、学校の帰り道のことだ。国道沿いの煙たい道にぽつりぽつり、それは彼の自宅近くまで続いている。秘密結社の暗号かもしれない。この町が狙われているのかも。翌日も次の日も学校はお休みで、迎えた月曜日。通学路では道路工事が始まっていた。#twnovel

2011-01-10 22:21:13
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カタツムリのせいじさんは沖縄に住んでいます。せいじさんには恋人がいて、恋人は東京に住んでいます。せいじさんは飛行機に乗れません。恋人に会いに行く時はフェリーを利用します。家から港まで二週間、海を三日、港から恋人の家まで三日間。時間と距離が二人の愛を育んでいます。 #twnovel

2011-01-11 23:12:03
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ルウちゃんは食いしんぼう。「ママ、まんまるお月さま食べてもいい?」「駄目よ、夜道が暗いとパパが困るでしょ。」それでもルウちゃんは食べたくて仕方がありません。そこで毎日こっそり、少しずつスプーンですくって食べました。お月さまが減っちゃうのはそういうわけなんです。 #twnovel

2011-01-11 22:49:18
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かぼちゃのシールは五兄弟、美央ちゃんに100円ショップで買っていかれました。上二人はハロウィンパーティの招待状に貼られて、隣の悠君と向かいの玲奈ちゃんの家へ。真ん中の一人ははがれ落ちて、埃にまみれてゴミ箱いき。残る二人は美央ちゃんのノートで幸せに暮らしました。 #twnovel

2011-01-11 22:35:59
のおの @noz_on_tw

透き通る青空に風が吹く。桜の咲く頃の気温、だそうだ。するりと忍ばせた右手が冷たいから、君が少し身じろぎする。黙って歩く川沿いは、とても静かでなんだか眠たい。桜の春を惜しむこの国に、去りゆく冬を惜しむ人はいるだろうか。もしかしたら私たちだけかもしれないね。 #twnovel

2011-02-18 18:07:31
のおの @noz_on_tw

ガラスを叩けば硬質な音がする。土に落ちれば命に沁み込む音がする。東京の乾いた二月に雨が降る。君のいたぬくもりはとうに消え、足跡さえ払拭するように雨が降る。変わりゆく不安をうったえる私に、君は平気だとしか言わない。卒業。この街を出たら何かが変わると、雨は言うのに。 #twnovel

2011-02-18 04:29:34
のおの @noz_on_tw

たとえ夜でもその香りで居場所がわかる。そんな歌を捧げたのは誰だっただろうか。紅梅、白梅。濃い色の枝に宿る高貴な花よ。その花に君を思う。暗闇でも君は香り高く、私を満たす。その君が今宵はいない。庭先から漂う花の気配を肴に、私はひとり静かに酒を含んだ。 #twnovel

2011-02-10 13:15:49
のおの @noz_on_tw

ナース長というのだろうか。白い服のよく馴染んだ女が、病室から出て俺に話しかける。「お国はどちら」「…京都です」ドアの向こうには弟が寝ている。長年の鬱積を振り払って会いに来たのに、帰れときたもんだ。「ようおこし」「え」「弟さんが伝えてくれって」咳ばらいが聞こえた。 #twnovel

2011-02-08 22:37:16
のおの @noz_on_tw

ある靴紐が恋をした。中央線の車内で、麗しの君は微笑んでいた。爪先の丸い、ラバソの靴紐。彼は声をかけたけど、彼女の靴底は高くて届かない。彼は汚れた白いスニーカー。履き主はバイト帰りの青年。青年はくたびれて眠っている。新宿駅で彼女は降りた。青年はまだ起きない。 #twnovel

2011-02-05 12:37:56
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雪ん子はやっとのことで窓枠にたどり着いた。飛び回ってつかれた腕を休めようとしたとたん、融けた。他の雪ん子たちも次々に融けていく。それを見た別の雪ん子たちは道路に降りたけど、そこでは排気ガスで融かされた。融けなかった子らも、憧れの雪だるまになることはできなかった。 #twnovel

2011-01-29 01:22:22
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一針一針、かぎ針の編む毛糸のストール。秋の日暮れにあなたを守るように、冬の早朝にあなたが安らぐように、春の萌黄にあなたが華やぐように、夏の終わりが悲しくならないように。川を漂う木の葉のように二人もいつか会えなくなる。そんな時にもあなたが包まれているように、編む。 #twnovel

2011-01-29 01:04:04
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黒々とした水をたたえて海は凪いでいる。夜、美しい静寂に波音のリズム。月はなく、星も微かに光を届けるのみ。鼻をかすめる空気は冷たいが、それよりもただ心地よい。リズムに合わせて躰を揺する。命の奥から感じる安らぎ。死にに行くのではない。じきに船は港を出る。 #twpoem

2011-01-29 00:54:29