【#twnovel】Twitter小説大賞応募作品選定中

第3回Twitter小説大賞への応募ついのべを選定中です。 お気に召したものがありましたらメッセージなど頂けると嬉しいです(^^*) 【2013.3.19. 応募10作決定しました】 →青字で強調してあります。 続きを読む
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萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel その人は群青の影を持っていた。不思議に思い目を留めたその瞬間、群青だけがするりと逃げだした。あとには何事もなかったかのように、黒い影が伸びている。あれはなんだったのだろう。振り返るが答えは出ない。ただ自分の足許が青く染まっていることだけは確かだ。#twnvday

2012-08-14 06:19:43
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 君のピアノを聴くのが好きだ。ピアノを弾く君の横顔と指先が好きだ。ピアノと君を独り占めしたくて、音楽室に鍵をかけた。けれど、部屋中に広がる音は頂けない。だからヘッドホンを被せてしまった。両耳を閉ざされた甘美な密室。静寂の中、君は指を躍らせる。他の誰にも聴かせない。

2012-08-18 21:47:42
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel タイルに落ちた小さな虹をパレットに、空想に膨れた幻を描いた。煌めく宝石、鮮やかな衣装、色とりどりの異国の果実。いつかこの塔から救ってくれる王子様。高窓越しの陽が翳っても、虹の絵の具は尽きることがない。塔から延びる梯子の出口に、夢見る姫は気付かない。#ついりみ希望

2012-08-22 20:28:01
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel シャーベット作りの機械を買った。硝子を入れると涼やかな透明の。絵具を入れると鮮やかで濃厚な。悪戯心を起こして夏のアルバムを入れてみたら、あっという間に溶けてしまった。夏は小さな泡と化して、グラスの底に溜まっている。一瞬きりの季節だった。#ついりみ希望

2012-09-02 20:29:26
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel ポップコーンを噛みながらスクリーンを眺める。華奢な青年の指が躍り、ピアノに合わせて球形の翡翠が散った。あちら側が奏でる音を聴きながら、こちら側で無遠慮に菓子を砕く。ふと見ると、ポップコーンに翡翠の原石が混ざっていた。物悲しいワルツはまだ続いている。

2012-09-03 21:39:39
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 改札口に落ちていたのは、夕焼け行きの定期券だった。一体誰が落としたのだろう。気紛れに家へ持ち帰ったその日、陽はなかなか沈まなかった。「駄目ですよ、他人のものを持ち帰っては」振り返ると黒衣の青年。定期券を片手に駅へ向かう。そしてようやく、長い夕焼けの末に夜が来た。

2012-09-12 21:13:38
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 静かすぎる夜だった。なにも知らずに済ませるつもりだったのに、結局ここまで来てしまうとは皮肉なものだ。実験室の硝子に手をついて、試験管をじっと見つめる。エメラルドの培養液はどんな夢を見せてくれるんだい。蛍光灯にしらじらと照らされて、僕の半身は静かに泡を吐く。

2012-09-20 23:03:23
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 真珠の涙なんてそう良いものじゃない。箪笥の角にぶつけた小指、玉葱の微塵切り、お構いなしだ。真珠をばら撒いて泣くほど惨めなことはない。それを知ってて真珠のリング。どんな神経? 呆れ顔で問うても貴方の真顔は崩れない。馬鹿馬鹿しくて言葉もなくて、また一粒真珠を落とす。

2012-09-25 22:37:48
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 「ひでェ雨だな。おい、なに泣いてやがる」「誰が泣くってのよ。雨女が悲しいときになんで雨が降るのさ」「他に誰が居んだよ」「泣いて雨が降るなら晴れ男に決まってんでしょ。あっちで泣いてるわよ」「どうしたんだ」「……雨女に振られました」「あの女、上機嫌だと思ったら……」

2012-09-29 21:12:16
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 血の夕陽が降る屋上だなんてお膳立てにも程がある、とずれた感想を抱いた。フェンスに凭れる僕に、君は悲壮な眼差しを向けている。「もうやめてよ」僕らを隔てるフェンス一枚。飛ぼうか迷う僕の背中に叫ぶ君。さてどうしようか。西から誘う夕焼けは、細めた眼にも毒々しく痛かった。

2012-10-12 21:58:22
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnvday おい酒だ、酒持ってこい。くそっ、飲まねえとやってられっか。冴えねえし鈍臭いし、強いていうならちょっと心持ちが紳士なだけのお前がだぜ、なんでこんな綺麗で優しい嫁さん射止めてんだよ、不公平だろうが、世の中。え、だから酒だよ。祝い酒だ。早くしねえと承知しねえぞ、畜生。

2012-10-14 20:04:55
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 悪いがここまでだ。生きて帰れるとは思っていない。これまでの努力? 馬鹿言っちゃいけない。あの強大な力の前に、俺如きが太刀打ちできると思うのか? 所詮、最初から結果の見えた戦だ――もう、既に。「馬鹿言ってないでさっさと行きなさい」中間試験一日目。空は、青い。

2012-10-19 21:55:44
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 素顔のほうが好きだと言ってくれるのは嬉しいけれど、僕の眼鏡を取り上げて喜んでいる笑顔は絶対に見られないから、やっぱり君の前で眼鏡を外すのは好きじゃないんだよ。#一文小説

2012-10-23 19:57:59
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 櫂の音が闇夜に響く。洞の鬼を調伏せよとの命であったが、戻った者は一人も居らぬ。せめて仲間の安否だけでも――舟を漕ぎながら水面を見て、ふと違和感に囚われた。ここは山ではなかったか。この舟は、なんの流れに浮いている。引き上げた櫂の紅さに山伏は、鬼の嗤笑を遠く聞く。

2012-11-04 21:15:57
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel しょき。鋏を握ると刃が擦れ、埃だらけの空気を切った。屋根裏部屋の本たちも、手許に置く意味はなくなった。ページに刃を入れ活字を崩す。漢字、平仮名、片仮名、数字。知識は断片に刻まれて、空に漂い世界に還る。さようなら、大切に集めたことばたち。無形の知は胸に根づいた。

2012-11-26 22:02:24
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 明朝体の「私」を書いて、生身のわたしを仮託した。騙る言葉は御伽話。口ずさむのは歌い手の幻想。形ないものと軽んじるならご自由に。嘘にひとひらの真を混ぜて、娯楽を繕うが道化師の性。お読みください、活字の張りぼて。紡ぐ世界のどこかの隅で、「私」がわたしを呟いている。

2012-12-02 21:34:55
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 長い間お待ちいたしておりました。彩りの春も情熱の夏も、実りの秋さえ白黒に沈んで思われました。ようやくお目にかかれて夢のよう。白い吹雪はささやかながら、わたくしからの捧げ物。今年も凍てつく氷の冬に、長くお傍に置いてくださいますよう――愛しの冬将軍閣下。

2012-12-09 20:44:00
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 扉を開けると彼女が泣きながら刃物を振るっていた。「嫌いなのに、大嫌いなのに、切れば切るほど泣けてくる……もう消えてなくなれば良いのに……」呪詛を聞き流しながら黙ってコートを脱ぎ、荷物を片づける。「カレー作るくらいで大袈裟だな」なにしろ彼女は大の玉葱嫌いなのだ。

2012-12-20 12:46:20
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 芝生は広がる。刈りこまれ、高さの揃った青い地面。子供が寝そべるか、恋人が座るか、それとも犬が駆けてくれるか。芝生は想い土を覆う。笑い声を受けとめる絨毯に、いつかなろうと夢を見る。細胞を殖やすその場が箱庭であることも、太陽が蛍光灯にすぎないことも、芝生は知らない。

2012-12-25 23:18:12
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel パンをトーストしながらコーヒーのお湯を沸かして、布団の中から湯たんぽを取りだした。ぎゅっと抱えると、辛うじて残る温もりが存在を主張する。人恋しさから抱えた湯たんぽは、夢と一緒に夜に溶けた。ぬるま湯を捨てるとトースターが鳴る。今日も君の居ない一日が始まる。

2012-12-30 07:36:01
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel お蕎麦をゆでてお出汁をかけて、大きな海老の天ぷらを載せた。仕上げに刻み葱の緑。毎年同じように作るけれど、今年は少し気合が違う。特別製のランチョンマットでおめかし、ぱちりと撮ってメールに添える。異国で働くあなたへ、日本はもう年越しです。来年は一緒に過ごせるかしら。

2012-12-31 19:36:09
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 伸ばした手の指先が触れたところで目が覚めた。翳した手になんの跡も残っていないことを確かめて、理性はやはりと納得し、感情はやはりと落胆する。目覚まし時計が鳴る前の、ほんの短い微睡みの間。夢にしか見られぬ姿を思い、布団にくるまり寝返りを打つ。あと数分だけ、幻を。

2013-01-10 22:07:30
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 夜の観覧車は天国に近づくらしい。硝子に貼りついて見下ろすと、星空のような夜景が広がっている。ねえ見て、上も下も星空よ。振り返るよりも、優しい言葉のほうが早かった。そうさ、だから君も星になるんだよ。頂点を過ぎたゴンドラの中で、ひとつの生が星空に沈む。

2013-01-22 23:34:16
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 時計の針はくるくると回る。経った時間を数えるのも億劫になって、ただひたすらにキーを叩いた。終業時間は過ぎたのに、終わる気配のない仕事。マウスから離した手が、またデスク脇の箱に伸びた。これで幾つになったのか、数えるのも怖いチョコレート。今日もドーピングに頼りきり。

2013-01-30 21:05:30
萌葱[moegi] @hmoegi

#twnovel 無秩序に並んだ題名の羅列に、目当ての書物も探し出せずにあてなく棚の間を彷徨う。行儀良く並んだ背表紙の中に、時折表紙が絵を添える。蘇芳、緋色、珊瑚色、浅葱、瑠璃紺、江戸紫。漫然と眺める書物の色に、階調を認めて立ち止まる。陽光の射す図書館は、色で塗りわけられていた。

2013-02-03 22:19:30