サンセット・アンド・ヘヴィレイン

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

【サンセット・アンド・ヘヴィレイン】

2015-10-20 18:33:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「どんな味がするんだい」イノウは気紛れに問うた。「錆びた鋼鉄の味さ」ミホは吐き捨てるように言い、半ばほどまで吸った手巻きの薬物カクテル煙草を指で挟んで、目の前にちらつかせた。「あんたも試す?」「人のレシピは吸わねえんだ」イノウはゆっくりと首を振った。 1

2015-10-20 18:38:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「さっさと殺したいね」ミホが細く煙を吐きながら言う。彼女の頭髪はピンク色で、片方の側頭部を剃り上げている。おかしなほど滑らかで白い顔は、バイオサイバネ皮膚だ。「ああ」イノウは答えた。「何で押し込み強盗をやめて、対企業のビズを受けようと思ったのさ。クソみたいな仕事だよ」とミホ。 2

2015-10-20 18:44:13
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「俺は結局、上がいねえと落ち着かねえんだ」イノウは使い慣れたオクダスカヤ社製の湾岸警備隊アサルトライフルAAV-229を傍らに立てかけた。「誰かのために殺すのが最高さ」「へえ」ミホが目を見開く。確実に薬物が決まっている。「無抵抗の一般人を殺すと、良心がとがめるとかいうクチ?」 3

2015-10-20 18:51:43
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「いいや」イノウは顔色ひとつ変えない。「4回ほど集合住宅を襲撃して、ガキもババアも殺してみたが、良心はウンともスンとも言わなかった。代わりに解ったのは、民間人じゃ緊張感がねえって事さ。あいつら、撃ち返してこねえんだ」「同感だね、アタシもそのクチさ」ミホは乾涸びた笑いを笑った。 4

2015-10-20 19:00:44
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「このビズ成功したら、結構なカネが入るけどさ、アンタどうするの?」「さあ。オキナワにでも高飛びして、引退か」「アンタ、無理だよ。殺しが何より好きって顔に書いてある」「そうだな」イノウは傷だらけの顔で、ようやく微笑んだ。皆、狂っている。だがこの場にいる誰もその言葉を口にしない。 5

2015-10-20 19:05:52
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「インカミング重点」後方の茂みの中から、ハッカーの冷徹な電子音声が聞こえた。彼は大型の無線LANユニットを背負い、ハンドヘルドUNIXを高速タイプしている。「約120秒後に、目標は予定通りこの地点です」「よおし」ミホは煙草を吸い終え、イノウもサイバーゴーグルを額から下ろした。 6

2015-10-20 19:14:17
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薬物煙草の甘いケモピーチ臭が消え、イノウは不快そうに鼻を鳴らした。病んだオゾン臭が大気中に満ちている。微かな重金属の雨粒。じきに雨は強くなるだろう。上空はマッポー級大気汚染に夕暮れの色が乗算され、違法イクラ工場廃水めいたマーブル模様を生み出す。狂った世界だ、と彼は舌打ちした。 7

2015-10-20 19:20:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

欠伸が出るほど交通量に乏しい二車線道路。西側は丘で、ガケ崩れ防止用に配置されたバリケードめいたコンクリと茂み。イノウ、ミホ、そしてハッカー。三人の傭兵はこの中に身を潜め、大型輸送トラック“な44-28”の通過を待っていた。ショーギ板とコケシを満載にした、オウテ社の車両である。 8

2015-10-20 19:29:15
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ショーギ板とコケシは、それぞれ別の場所で低コスト大量生産されたプロダクトである。ところが、この先にある高級ショーギ名産地として名高いヤナギヤマ・ヴィルでこれらを組み立てると、最高級のハンドメイド・ショーギ板として流通可能となる。誰もが気づかなかった盲点、法の抜け道である。 9

2015-10-20 19:35:23
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ヤナギヤマ・ヴィルは推定人口200。江戸38年に作られた小規模なアーティザン・コミュニティだ。だがこの偽装によりオウテ社が享受する利益は、年間数百億規模。ゆえにヴィル周辺はオウテ社の兵やセントリー・タレットが重点配備され、接近は不可能。輸送車両の奇襲が最も理にかなっている。 10

2015-10-20 19:46:24
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顔見せぬ依頼人は、オウテ社と敵対関係にあるどこかの暗黒メガコーポだろう。彼らにとってイノウ達は、いわば使い捨ての犬だ。作戦に成功しようと失敗しようと、暗黒メガコーポの関与は表沙汰にはならない。それでも犬たちは、進んでこのような危険ビズを受ける。カネのため、そして殺すために。 11

2015-10-20 19:57:44
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そう、彼らは積荷を奪って売り捌く海賊まがいの事をするわけではない。オウテ社の偽装を暴き、株価を暴落させるのだ。それで私腹を肥やす、何処かの誰かのために。「来なすった」イノウは銃身とケーブル直結されたサイバーゴーグル照準の視界の端に、"な44-28"の特徴的な車体を見た。 12

2015-10-20 20:02:59
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イノウは乾き始めた唇をなめた。アドレナリンが遥かに良く湧き出してきた。銃を構える。AAV-229は、銃身下部に特殊弾薬の発射機構をアタッチメント追加できる。サイバーゴーグル照準でロックオン重点。論理トリガを引いた。バシュン、と音を立てて、オレンジ色の自己推進弾が射出された。 13

2015-10-20 20:10:06
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依頼者から提供されたその握りこぶし大の特殊弾頭は、軌道制御を行いながら、"な44-28"の角ばった脳天へと鋼鉄のカニめいてしがみついた。爆発は起こらない。代わりに、無線LANアンテナを何本も伸ばした。"な44-28"は速度を緩めず走行を続ける。「ヒットした」イノウが言った。 14

2015-10-20 20:17:32
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後ろの茂みで、ハッカーは背中の違法無線LANユニットを最大出力にし、ニューロンの速度で論理タイプした。強烈な電磁波で、イノウは少しだけ眩暈がした。「アバッ…?」輸送トラックの運転席で操縦ユニットとLAN直結していたオウテ社員が、鼻血を垂らして死んだ。ハッキングを受けたのだ。 15

2015-10-20 20:23:18
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大型輸送トラックは罠に嵌まった鋼鉄のマストドンめいて軋み、左右にグラグラと揺れながら暴れ、目の前の道路を斜めに塞ぐような角度で急停車した。それは危うく横転しかけたため、イノウは眉根をひそめたが、ハッカーの遠隔操縦で辛うじて持ちこたえた。イノウは斜面を下り、ミホも続いた。 16

2015-10-20 20:30:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

重金属酸性雨がまばらに降り始めた。血相を変えて車両から降りたスーツ姿のサラリマンが、IRC端末に向かってヒステリックに何かを喚き立てながら、オレンジ色の無線LANユニットを指差している。イノウはAAV-229の三点バーストをサラリマンの心臓周辺に撃ち込み、容赦なく射殺した。 17

2015-10-20 20:36:39
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斜面を下り切った直後、イノウは道路の側面にあるコンクリートフェンスへ滑り込んだ。数発の銃弾が飛来し、この即席バリケードに突き刺さる。反対側のドアから降車していた軽武装のオウテ兵が、イノウに対して反撃を行ったのだ。兵士はヘルメットの下で己の企業名を叫びながら制圧射撃を続けた。 18

2015-10-20 20:46:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

そこへ、側面からミホが笑いながら飛び掛かった。彼女の手に握られたスダチカワフ社製のショックメイスSS-21が、不吉な青いLED誘導灯めいて光った。「イヤーッ!」「グワーッ!」敵はしたたかに殴られ、電磁ショックを浴びて蹌踉めいた。すかさずイノウが三点バーストを浴びせ射殺した。 19

2015-10-20 20:52:11
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ミホは、うつ伏せに倒れた敵のヘルメット後頭部を念入りにショックメイスで叩き続けていた。重サイバネを警戒すれば当然の行為だ。飛び散った血が青い電磁光の上で爆ぜ、鉄とオゾンの臭いに変わった。イノウはクリアリングを行い、車内に銃口を向けた。運転手は既にニューロンを焼かれ死んでいた。20

2015-10-20 21:04:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

敵を殲滅した。イノウは積荷を確認すべく、反対側のドアから降車し、"な44-28"トラック後部の積荷カーゴへ向かおうとした。だが、運転席から降りた瞬間、彼は気づいた。積荷カーゴのドアが開いている。「イヤーッ!」「ンアーッ!?」直後、謎のカラテシャウトとミホの悲鳴が聞こえた。 21

2015-10-20 21:09:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ミホは、うつ伏せに倒れた敵のヘルメット後頭部を念入りにショックメイスで叩き続けていた。重サイバネを警戒すれば当然の行為だ。飛び散った血が青い電磁光の上で爆ぜ、鉄とオゾンの臭いに変わった。イノウはクリアリングを行い、車内に銃口を向けた。運転手は既にニューロンを焼かれ死んでいた。20

2015-10-21 16:20:56
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