サンセット・アンド・ヘヴィレイン

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

敵を殲滅した。イノウは積荷を確認すべく、反対側のドアから降車し、"な44-28"トラック後部の積荷カーゴへ向かおうとした。だが、運転席から降りた瞬間、彼は気づいた。積荷カーゴのドアが開いている。「イヤーッ!」「ンアーッ!?」直後、謎のカラテシャウトとミホの悲鳴が聞こえた。 21

2015-10-21 16:21:02
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

イノウは誰よりも信頼できる相棒、AAV-229をしっかりと構えながら、ヘッドライトの横を通って素早くトラックの反対側へと回り込んだ。少し先で、ミホの振るうショックメイスが虚しく空振りし、電磁光の円弧を中空に描いていた。敵と戦闘中なのだ。そして敵は、黒装束のニンジャだった。 22

2015-10-21 16:28:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

恐怖よりも速く、彼は三点バースト射撃を行った。だが、敵はブリッジで全弾回避したのだ。直後、「イヤーッ!」「グワーッ!」ニンジャのチョップ突きがミホの鳩尾に決まり、彼女の背中側へと貫通していた。スプリンクラーめいた血飛沫。ニンジャは腕を引き抜き、二歩下がってザンシンした。  23

2015-10-21 16:36:19
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャ!?」イノウは恐慌に陥りかけながら、再び敵を射撃した。「イヤーッ!」ニンジャは片手間に銃弾をジャンプ回避しながら、空中蹴りで念入りにミホの顎を蹴り上げた。「ンアーッ!」重サイバネを警戒すれば当然の行為だ。ピンク色の頭は高く飛び、赤い血飛沫が間欠泉じみて吹き出した。 24

2015-10-21 16:47:06
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ニンジャ……」イノウが再射撃を試みた直後、重い衝撃が胸を叩いた。38、いや40口径弾で撃たれたような鈍く鋭い衝撃。プロテクターに加え四重構造ケブラーを着込んでいなかったら、即死だっただろう。「ナンデ……」胸部に刺さった3枚の鋭いスリケン。いつ投擲されたのかも定かではない。 25

2015-10-21 16:54:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

イノウは力無く四歩後ずさり、ゆっくりと仰向けに倒れた。的外れの三点バースト射撃が、斜め上方の空に向かって吐き出された。「アイエエエエエエ!」ハッカーの狂乱じみた電子音声と、彼が持つLAN直結型ピストルの射撃音が聞こえた。「イヤーッ!」そしてニンジャのシャウト。「アバーッ!」 26

2015-10-21 17:00:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

果たして何が起こったのか。二重三重の陰謀であろうか?否。イノウには知る由もないが、戦場に立たず一つ上のレイヤで争う者たちにとっては、極めてシンプルな事態であった。オウテ社は保険を掛けていた。輸送車襲撃の電子的気配を察知した彼らは、ソウカイヤにニンジャ派遣を依頼していたのだ。 27

2015-10-21 17:08:01
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

アドレナリンが湧く。イノウはショックから立ち直り、獣めいた叫び声とともに身体を起こし、連射する。BRATATATA!「イヤーッ!」だがニンジャは背向け状態から銃弾を連続側転回避する。まるで悪夢を見ているようだ。だがこの悪夢には鈍い痛みがあった。「イヤーッ!」「グワーッ!?」 28

2015-10-21 17:15:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

目にも止まらぬカラテ技によって、イノウはたちまち戦闘不能に陥った。ライフル銃もサイドアームも瞬時に奪われた。イノウは本能的に悟った。敵は手加減をしていると。獲物を捕獲し、尋問するために。イノウはコンテナの側面に叩き付けられ、頭を持ち上げられた。自爆装置も察知され、奪われた。 29

2015-10-21 17:21:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ア……ア……」ゴーグルを砕かれたイノウは、腫れた目で敵を見る。その彼方にはマーブル模様の空。「アイサツがまだだったか?ドーモ、サンセットです」ニンジャはそう名乗った。サンセット。夕暮れ。狂った世界の色。皮肉な名だ。イノウは自嘲気味に、ニューロンの中でその言葉を繰り返した。 30

2015-10-21 17:27:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前を殺さないでいる理由は解るな?」ニンジャが言った。「ムダな事はやめて、さっさと殺せよ……俺は湾岸警備隊上がりだ……拷問しようが何も吐かねえ」「ニンジャの拷問を体験した事はあるまい」サンセットは冷酷な声で言った。イノウの瞳の奥に、確かな恐怖の色が一瞬走った。 31

2015-10-21 17:37:59
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「お前は狂ったふりをした臆病者だ」サンセットは嘲笑うように言った。「拷問を恐れる臆病者は自爆装置に頼る」「……だ、だが俺たちゃ…何も知らねえ……解るだろ……ただの犬さ……」「俺は犬をいたぶり殺すのが大好きだ、特に、鍛えられた猟犬を……」BE-BEEP!不意にクラクション音。 32

2015-10-21 17:44:40
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

その苛立たしげなタクシークラクションは、コンテナの向こう側から聞こえた。むべなるかな、斜線を跨いで暴走した大型輸送車"な44-28"は、完全に道路を塞いでいるのだ。「虫めが」サンセットは舌打ちし、尋問を続けた。「特に、鍛えられた猟犬をなぶり殺すのが……」BE-BEEEP! 33

2015-10-21 17:50:34
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「DAMNIT」サンセットはイノウを放り捨て、片膝を踏み砕いてから、もう片足を掴んで引きずった。「極度汚染大気の空。重金属酸性雨。溢れる違法サイバネ。マグロの死に絶えた海。暗黒メガコーポの支配。確かにこの世界は狂っているが、生温い。これからお前に真の理不尽を見せてくれよう」 34

2015-10-21 18:01:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

イノウの装甲ヘルメット後頭部が、荒いアスファルト路面に小刻みに叩きつけられ、ガチガチと鳴った。恐怖に歯を鳴らすように。サンセットは彼を引きずりながら、不運な黄色タクシーに向かって歩いた。何をするかは想像に難くない。彼らを恐怖に陥れ、殺すのだ。ただ鬱陶しいという理由だけで。 35

2015-10-21 18:09:43
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「降りて来い」とサンセットは嘲笑うように言い放ち、手招きした。運転手は突如現れたニンジャを見て、本能的パニックを起こしているはずだ。相手が取るであろう反応は二つしかない。失禁し腰を抜かすか、震え上がりながら命令に従うか、二つに一つである。だが、実際はそのどちらでもなかった。 36

2015-10-21 18:18:17
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

運転手はゆっくりとドアを開け、確かな足取りで車外に降りた。「何……!?」サンセットが大きく目を見開き、後ずさった。ニンジャが、後ずさったのだ。何が起こっているのかイノウには想像すらつかぬ。「貴様は……まさか……!」「そのまさかだ、サンセット=サン」運転手は、ニンジャだった。 37

2015-10-21 18:21:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは赤黒の装束に身を包み、「忍」「殺」の漢字が刻まれたメンポで口元を隠したニンジャだった。彼はタクシーのドアを閉めると、両手を合わせオジギした。イノウにはそれが、この世界の狂気の色が形を為した存在のように見えた。「ドーモ、ニンジャスレイヤーです」「ドーモ、サンセットです」 38

2015-10-21 18:28:10
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

オジギ終了直後、二者のカラテが激突した。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが先に動き、強烈なカラテ飛び膝蹴りを繰り出す。ハヤイ!「グワーッ!?」サンセットはこれをブロック防御し直撃を避けるも、後方の斜面へと弾き飛ばされた。ここでイノウはついに精神力が途切れ、道路で卒倒した。 39

2015-10-21 18:38:14
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」「グワーッ!」サンセットは逃走を試みたが、二度も行く手を阻まれた。次いでスリケンの投げ合いを挟み、カラテを構えて睨み合った。「待て、ニンジャスレイヤー=サン、お前は俺に何の恨みが……!?」「ソウカイヤがオウテ社にニンジャを派遣したという情報はアタリだったな」 40

2015-10-21 18:45:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

サンセットの額に脂汗が滲む。死神は噂通りの手練だ。「待て、ニンジャスレイヤー=サン、そこまで知っているのなら……見ろ!俺は任務を遂行していただけだ……!輸送トラックを襲う極悪犯罪者どもを迎撃して何が悪い……!?お前とは何の関係も」「ニンジャ、殺すべし」そして噂以上の狂犬だ。 41

2015-10-21 18:53:09
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

いまや、サンセットは完全に気圧されている。「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーが仕掛けた。「イヤーッ!」サンセットはバック転で紙一重回避!そのまま8連続側転を決め、最後はオリンピック自由形競泳選手のスタート飛び込みめいた鋭い跳躍で、トラックコンテナへと逃げ込んだ!「アバヨ!」 42

2015-10-21 19:01:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「何処へ逃げようと無駄だ…!」死神は怒りに燃える眼差しでサンセットを追い、コンテナ内へと乗り込んだ。敵もまた油断ならぬ手練だ。追いつめられ頭だけ穴に入れるウサギめいて、このコンテナに逃げ込んだか?そうではあるまい。ニンジャスレイヤーは警戒を怠らぬまま、目の前のフスマを開く。 43

2015-10-21 19:06:12
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「バカな……行き止まりとは……!」ニンジャスレイヤーが足を踏み入れたのは、タタミ敷きの四角い小部屋であった。それはシュギ・ジキと呼ばれるパターンで、十二枚のタタミから構成されている。四方は壁であり、それぞれにはチューリップ、ひまわり、彼岸花、水仙の見事な墨絵が描かれていた。 44

2015-10-21 19:08:01