昨日発生していたサイトログインできない不具合は修正されております(詳細はこちら)

空想の街・ハンツピィ'15 一日目 #赤風車

#空想の街 ( http://www4.atwiki.jp/fancytwon/ )ハンツピィの宴一日日(15/10/24) #赤風車 纏め。 過去本編や番外などはこちら→http://nowhere7.sakura.ne.jp ※文章や画像の無断転載及び複製・自作発言等の行為はご遠慮ください。著作権はそれぞれの作者に帰属します。 公式様参加者様、お疲れ様でした。有難うございました。何か御座いましたらご一報頂けると幸いです。 (皆さんのまとめを随時おすすめ設定させて頂く予定です)
3
前へ 1 ・・ 3 4 ・・ 16 次へ

ひとならぬものへ

不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

石榴によく似ているポムの星を、一文字は何も考えずに手の中で跳ねさせる。棘が目立って本当に金平糖か何かのようだ。当日は忙しくなるだろうからと先に熟したものを幾つか収穫しておいて正解だった。予期せぬ来訪に、思うより自身が乱されていることに今更気付く。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:11:28
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

確かこの実をひとつで一刻ほどの変化が起きる。持ち歩きもするし、足りなくなれば街中で購入もできるだろうが、先に多めに摂取しておいて損はないだろう。溜息をつきながら実をやおら割り、二日間ほど変化がもつようにと量を見た。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:12:20
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

人間は何かしらの動物に、と聞かされていたが、一体何になるのかは誰も分からないという。変化する際に苦痛は特にない、とは言えど、今まで食べたことのないものを体に通し、それによって変わる、ということを考えるとぞっとしない。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:12:39
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

せめて誰にも見られぬようにとひとり、廃屋で口を開ける。瞼を下ろして飲みこんだものは確かに、昔野山で口にした石榴の味とよく似通っていた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:12:48
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

幻痛を感じ胸を押さえる一文字の体がひそひそと変容してゆく。時間をかけて内臓をおりていく実の欠片を、変化していく間ずっと、一文字は目を瞑って味わっていた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:13:01
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

――数分ののち、ようやっと目を開ける。特別目線が低くなったりはしていないようだった。心なしか爪が伸びたかもしれないが、それだけでは判別がつかない。頬を触っても気になるほど毛はなかった。歯が少し鋭くなっただろうか。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:13:38
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

耳や尻尾でもあれば一番判りやすいのだが、と思いつき、廃屋の隅に拵えていた小さな流しへと体を向ける。 元々何かの血が入っている筈はないので、一文字には自分がどういったけものになったのかてんで想像もつかないのである。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:13:59
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

適当な石で流しに栓をすると蛇口を全開にした。溜まる間、頭と腰のあたりを探る。尻尾はないが、腰についた髪の手触りに違和感を覚えた。さっき三つ編みにしたときはこんなに長くはなかった筈だが――、それにどこか鬣のような感触がする。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:14:37
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

曇りだが、もう朝日は昇ってきている。うっすらと部屋に差し込む秋の光を浴び、水面は一文字の伊達眼鏡をかけた顔を映しこんでいた。耳が人間のものではない。もっと鋭く、灰色がかっていて、それでいて少し丸みを帯びていて――狐か狸、犬だろうか。どうもどれも違う気がした。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:15:58
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

これは街中で博識な者に教えてもらうしかないだろう。狭い世界で生きてきた一文字には、知らないものがまだたくさんある。 自らの変化を見届け終えた一文字は思考を切り替え、また商品である風車を弁慶へと差し込む作業へ戻った。そうだ、その前に軽く食事をとらねばなるまい。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:16:39
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

自分で材料を集め、作っておいた小さな団子をちんまりとした水屋箪笥から取り出した。 手を合わせた後で懐へ一文字の骨ばった手が伸び、ごく短い匕首を持って戻る。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:17:01
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

鋭い刃先を左腕に真顔で突き立てた一文字は、筋を伝って滴る赤い雫を飲めるだけ暫く飲んでいた。自然と止まったあたりで手早く手拭いを巻き付け、着物と羽織の中へ腕と匕首を仕舞い込む。何事もなかったように団子を咀嚼しながら、今日も甘い、とだけ感想を持った。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:17:31
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

すっかり紫煙は霧散した。結局のところ、どんな香りの煙草だったのかは分からずじまいだったところを見ると、随分強い煙草だったのだろう。口にしている団子よりも芳醇な空気が廃屋に満ちている。春よりも秋のほうが、大気の味は余程濃い。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:18:14

面影と思い出

不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

髪に挿した風車が鳴らなくなった頃、自分の作った風車が鳴るようになった。詳しく言えば、手製の風車は一年前から鳴っていたのだ。そのときだけだと思っていた。併し予想を裏切り、まるで代替わりか何かをしたように、一文字の風車は鳴り続け、髪の風車は沈黙し続けた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:19:09
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

ころころと硝子玉を転がしたような音は消えてしまった。代わりに一文字の風車が、しゃらしゃらと遠い記憶を呼び覚ますような音をたてだした。例えるならば何の音だろうと、廃屋の前に風車を飾る台を組み立てながら、この一年弱、一文字は何度も考えてきた。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:19:41
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

硝子玉のような瑞々しさはない。もっと軽く掠れた、空虚な思い出に放り込まれるような音色だ。南国の、海の土産、紅いものは飾りになるが、すっかり色をなくして音色だけを楽しまれるような、 ――そうだ。己の作る風車の音は、珊瑚の死骸を打ち鳴らした音によく似ている。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:20:15
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

結局は海なのか、と一文字は内心苦笑した。大小様々な自分の風車たちは、海とも川とも無縁である筈なのだが。少なくとも一文字自身は海や水に何の思い出もない。 そこで一文字の心はまた祭りを離れ、件の青年に戻る。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:21:05
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

八割ほどは予想していたことだった。憶測を嫌う一文字がそれでも現実を見て出した割合だ。それに降ってわいたようにとどめを刺され対処が追いつかない、それだけだ。予想していたはずだった、少なくとも、実の姉に愚妹と連呼されていたかつての友人である娘よりは。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:21:21
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

実の生らない花の名をつけられた、皆代家の真ん中の人間。一年前に絶交を言い渡してきた相手である。一文字の胸中にある面影は、皆代家の末子である青年のものから、彼とよく似た瞳をした娘のものへと移り変わった。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:21:44
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

あの娘は今どうしているだろうか。実華の言を信じれば、弟の死体を最初に発見した人間は彼女なのだ。普段の落ち込みようなど比べ物にならないほど沈んでいるだろうに――恋人と喧嘩をし、一文字から矛盾を突き付けられ、それで今、どこに彼女の居場所があるというのだろう。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:22:33
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

弟のほうは背を押すどころか何もしないうちに落ちていったが、何故か彼女の曖昧さを指摘せずにはいられなくなった一文字は容赦なくその胸を突いた。けれどもその行動は本当によいものだったと言えるのだろうか。徒華が言い訳に使うならいいと思ったが、誰のためになったろう。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:25:07
不可村天晴/ネプリ配信中 @nowhere_7

長姉は嫁がせると言っていたが、それは彼女の性格や体質上無理な相談では、とそこまで思考し、街に出ようと戸へかかった一文字の手が止まる。 ――言われなくとも近づかない、もう二度と生きる道のまじわることのない人間を、己はどうしてこれほどまでに気にしているのだろう。 #赤風車 #空想の街

2015-10-24 02:26:12

華は曇りの橋の上で

前へ 1 ・・ 3 4 ・・ 16 次へ