「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」 #4

翻訳チームによるサイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) ニンジャスレイヤー公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#4

2011-01-11 23:33:36
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

数日前。トコロザワ・ピラーの七階にて……。

2011-01-11 23:36:16
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磨き上げられた御影石の床に、赤いLEDライトの数字が反射する。部屋の壁にはくまなく大型モニタと束ねられた高速LANケーブル類が並び、刻々と変動する株価が中継される。最新技術の粋が集められたこの部屋は、しかし宇宙ステーションなどではない。ここはネコソギ・ファンド社のホールの一つだ。

2011-01-11 23:39:48
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今、50畳ほどもあるこの部屋には、高級スーツを着込み分厚い眼鏡をかけた面接官5人と、このカチグミ企業就職を目指す3人の大学生がいる。さらに、面接官たちの後ろには一段高くなったリフト式タタミが浮かび、チェアマンであるラオモト・カンが江戸時代の武将のごとく威圧的に座っているのだった。

2011-01-11 23:44:50
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「ヨロシサン製薬は創業何年ですか」面接官が出題する。「ハイ」とクルーカットの学生がボタンを押し、回答権を得た。「どうぞ」「江戸37年です。風邪薬メーカーとして創業しました。私は大学でアメフトをやっています」「アタリです」面接官らは顔を見合わせ、手元のキーボードで何事かを入力する。

2011-01-11 23:47:42
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「これで問題はぜんぶ終了です」面接官が言った「点数は全員横並びなので、ここからはサツバツタイムです。皆さんがどれだけネコソギ・ファンド社に対して熱烈な忠誠心を発揮できるかアピールしてください。ハイ、では月給25万円からスタート」。3人の学生らはゴクリと唾を飲んだ。……一瞬の静寂!

2011-01-12 00:03:52
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「24万円です」ボブカットの学生がボタンを押して言う。面接官たちが手元のキーボードで何事かを入力する。「23万円です」とクルーカット。「22万円です」とチョンマゲ。皆、手に汗握り、目を血走らせ、心臓は破裂寸前だ。時折横に目配せし、互いを威嚇する。さながらバクチを打つヤクザのよう。

2011-01-12 00:05:43
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紫色のラメスーツを羽織り、黄金のヘルムとメンポで顔を隠したラオモトは、江戸時代の武将の如き威厳で腕を組み、成り行きを高みから見下ろしている。ソウカイ・シンジケートの首領でもある彼は、弱者が虫ケラのように死ぬのを見ることと、弱者らが共食いを行う光景を見ることが、何より好きなのだ。

2011-01-12 00:08:52
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「20万円です」とクルーカットが一気に勝負に出た。見事な手際だ。彼は知的な笑みを禁じえない。他の2人は、やられたといったジェスチャーを見せる。これ以上下げると、ネオサイタマにおける平均的な企業初任給を割ってしまうだろう。そんなことは、カチグミ大学出身の彼らにはプライドが許さない。

2011-01-12 00:12:02
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しばし静寂が支配する。面接官らがカタカタとキーボードを鳴らす。その肌はつやつやと綺麗だ。流石はカチグミの面接官、よく食べ、よく寝ているのだろう。焦燥感に負け、追い詰められたネズミ達が動き出す。「19万円です」と唇を噛み締めながらチョンマゲ。「18万円です」と泣きながらボブカット。

2011-01-12 00:14:26
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この無慈悲なるサツバツタイムの面接は、ラオモト・カンその人によって考案され、現在では数々の系列企業でも用いられるようになった。「ムハハハハ……」ラオモトは右肘を赤漆塗りの枕に預けながら、タイガーの描かれた扇子で優雅に体を扇いでいる。その眼はカタナのように細く、全く表情を読めない。

2011-01-12 00:17:31
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クルーカットは呆然としていた。20万円で買ったと思ったが、読みが甘すぎたのだ。「17万円です」「16万円です」さらにレースは続く。クルーカットはニューロンをフル回転させた…((ネコソギ・ファンドは今後急成長を見込まれている金融会社だ。数年耐え切れば、カチグミ的な給料になるはず))

2011-01-12 00:19:12
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「ウオーッ! ネコソギファンド・バンザイ!!」クルーカットはボタンを叩き、その場で立ち上がってバンザイの姿勢を取った。これには一同呆気に取られ押し黙り、彼の発言を見守るしかない。場の流れは完全に彼のものだ。パン、パン、パン、という気だるげな拍手が上から聞こえた。ラオモトだ。

2011-01-12 00:20:31
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「ムハハハハ、威勢の良い若造だ……」ラオモトの眼光が突如、抜き身のカタナのように鋭くと光る「それで、いくらまで落とす?」。クルーカットは膝を震わせながら叫んだ「この通り、指十本、10万円です!」。ナムサン! 狂気の沙汰だ! 「アイエエエエ!」他の2人の学生もその場で絶叫する。

2011-01-12 00:22:34
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「ムッハハハハハ! 面白い、貴様を採用だ」ラオモトは閉じた扇子でぴしゃりとクルーカットを指した。「ヨロコンデー!」クルーカットはその場で涙を流しドゲザする。実のところ、ラオモトにとってこの採用試験は余興にすぎない。ネコソギ・ファンド社はあと2年以内に計画倒産させる予定なのだ。

2011-01-12 00:25:43
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「では次の3人どうぞ」面接官が顔色一つ変えず、機械音声のような声で呼び出す。東西の自動フスマが開き、3人が退場して新たな3人が部屋に入ってくる。「問題です。ドンブリ・ポン社の上場時の株価は……」面接官が問題を読み上げていると、ラオモトの胸元でIRCブザーが鳴った。リー先生からだ。

2011-01-12 00:27:11
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「後は好きにしろ」ラオモトは扇子を捨ててリフトを下ろし、ホールを出る。サングラスをかけたクローンヤクザ軍団が並ぶ重役用廊下を抜け、高速エレベーターで49階へと向かう。トコロザワ・ピラーは、最下層部がネコソギ・ファンド社のオフィス、中階層以上がソウカイ・シンジケートの施設である。

2011-01-12 00:32:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ライオンの吼え声を模した電子音声が鳴り、エレベーターが止まる。黒地に紫色のラメ加工、その上に金箔でソウカイ・シンジケートのロゴマークがあしらわれたドアが圧縮空気を排出しながら開き、ラオモトと護衛のクローンヤクザ4人を、リー・アラキ先生の秘密ラボへと迎え入れた。

2011-01-12 00:38:09
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ズンズンズンズズポーウ! 不吉なサイバーテクノが鳴り響く。そこは天井、壁、床までが眩しいほどに真白い、広大な強化プラスチックの世界だった。輪切りにされ透明樹脂版で挟まれた死体が、オブジェの如く並ぶ。銀色の医療器具と透明なチューブと血肉の赤が、背徳的なグロテスクさを醸し出している。

2011-01-12 00:41:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

薄汚い白衣のリー・アラキ先生。PVC白衣を着てギークじみた分厚いセル眼鏡をかける若き医学者、長身痩躯のトリダ・チェンイチ助手。胸元が強調されたPVC白衣とPVCナース帽、そしてオレンジ色のボブカットが印象的な女助手フブキ・ナハタ。日本有数の頭脳を持つ3人が、ラオモトを待っていた。

2011-01-12 00:45:32
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第1巻「ネオサイタマ炎上」より 「デッドムーン・オン・ザ・レッドスカイ」#4-2

2011-01-15 20:49:40
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ズンズンズンズズポーウ! 不吉なサイバーテクノが鳴り響く。そこは天井、壁、床までが眩しいほどに真白い、広大な強化プラスチックの世界だった。輪切りにされ透明樹脂版で挟まれた死体が、オブジェの如く並ぶ。銀色の医療器具と透明なチューブと血肉の赤が、背徳的なグロテスクさを醸し出している。

2011-01-15 20:52:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

薄汚い白衣のリー・アラキ先生。PVC白衣を着てギークじみた分厚いセル眼鏡をかける若き医学者、長身痩躯のトリダ・チェンイチ助手。胸元が強調されたPVC白衣とPVCナース帽、そしてオレンジ色のボブカットが印象的な女助手フブキ・ナハタ。日本有数の頭脳を持つ3人が、ラオモトを待っていた。

2011-01-15 20:52:48
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ラオモトが黄金メンポから重々しい声を発する。「わざわざ呼びつけたからには、例の計画に進展があったのだろうな?」「イヒヒーッ! そうなんですよ」長い前髪から片目だけを覗かせたリー先生は、甲高い声で答えた。いつもは機械よりも冷静かつ無慈悲なことで知られるリー先生が、酷く興奮している。

2011-01-15 20:58:47