北野勇作さんの【ほぼ百字小説】

北野勇作 『100文字ＳＦ』発売中！ @yuusakukitano

【ほぼ百字小説】（９８７）　子供の頃から大好きだったあの怪獣映画のテーマ曲を自分の娘が演奏するのを聴くことになるとはね。しかも同じ楽器。こっちは大人になって始めたから、きっとすぐ抜かれるな。ま、それも含めて思いがけない贈り物だ。

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【ほぼ百字小説】（９８８）　台風が常駐している。なぜ動かなくなってしまったのか知らないが、もうずいぶん長くここにいる。そのうち動くのか、もう動かないのか。なんにせよ、こんな風になる前よりも穏やかなのは、ここが台風の目の中だから。

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【ほぼ百字小説】（９８９）　台風が常駐している。なぜ動かなくなってしまったのか知らないが、もうずいぶん長くここにいる。もうすっかり名物になってしまっているので、今さら動いてもらっても困る、という意見のほうが大きくなってきている。

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【ほぼ百字小説】（９９０）　いくら掘っても出てこない。この頭にはもう何も埋まっていないのか。こんなに掘ったのに、得たのはこの穴だけ。消えてしまいたい。自分の頭にできた池に身を投げた男のことを考える。そういう利用法はあるわけだな。

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【ほぼ百字小説】（９９１）　なかったものが急に出てきたり、保存されているはずのものが消滅したり、あり得ないことが次々起きるのはそこが特殊な環境だからで、そこに適応することができた特殊な生き物しかいないが、もう進化はしないようだ。

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【ほぼ百字小説】（９９２）　なんだか知らないボタンがあって、何かのスイッチになっている、ということだけはわかっているが、押したらどうなるのかはわからないまま。そういう場合、普通は押さないものらしいが、もう何度も押してしまったし。

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【ほぼ百字小説】（９９３）　娘に寝言で文句を言われる。寝言に反論したって仕方がないので黙って聞いていたが、どうにも納得がいかない。おまけに翌朝、寝言がうるさかったよ、と娘に文句を言われる。並んで寝る時期は、もう終わったのかなあ。

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【ほぼ百字小説】（９９４）　自分の首輪を自慢する大会。自慢だけでは飽き足らず、いつも互いの首輪を奪い合うことになる。相手のしている首輪のほうがよく見えるらしい。首輪にはもれなく鎖がついているが、そんなもの最初から見えてはいない。

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【ほぼ百字小説】（９９５）　今ならもれなくいろんなものがついてきます。いらないかもしれませんがついてきます。ひとつのものにひとつがついていて、それにもやっぱり別の何かがついている。あ、振り切ろうとしてもどこまでもついてきますよ。

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【ほぼ百字小説】（９９６）　とりあえず、使う前にそこに出す。そんな場。つまり君の記憶は、絵画におけるパレットみたいなものだな。思い出しても、辻褄が合わないだろ。ま、がっかりしなさんな。大抵の作品より、パレットのほうが綺麗だから。

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【ほぼ百字小説】（９９７）　発達した雷雲が迫ってくる。どんどこどこどんと太鼓の音がする。ぴかぴかぴかぴかと電光が眩しい。黒々とした雲間から赤や青の巨大な腕や足が突き出される。臍が危ない。高度に発達した雷雲と雷様は区別がつかない。

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【ほぼ百字小説】（９９８）　そうだな、どうせ嘘だから、何度でもやり直していいのだ。うまくいくまでやり直していい。だからそのぶん、うまくやらないとね。ハッピーエンドでなくても、うまくやれればそれでいい。ハッピーエンドでなくていい。

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【ほぼ百字小説】（９９９）　つまっている。破裂しそうにつまっていて、それでもまだつめるのか。つまらない。いくら言っても聞かない。つまらなくなんかない。いや、もしつまらなくてもつめるんだ。まあそうでも思ってないと、つまらないよな。

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【ほぼ百字小説】（１０００）　一日ひとつかふたつ何かを拾ってきては、それを削って同じ大きさの塊に加工する。いつのまにやらそんなのがずらりと並んで、なんだか墓地みたいだ。もうすぐ消えてなくなるものたちのお墓を先に作っているのかもね。

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というわけで、これで１０００個並びました。ここまで続いたのは、見物の皆様のおかげです。おつきあいありがとうございました。まあべつに何かを成し遂げたわけでもありませんが、大きな区切りがついたので、【ほぼ百字小説】はしばらくお休みします。