【ミイラレ!第二十三話:ホクサンのビャッコのこと】(実況付き)
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四季は暗闇の中にいた。闇はわずかに振動し、彼を内に閉じ込めたものが移動しているのを伝えてくる。いくら四季でも、自分が今まずい状況にあることはわかる。しかしまったく身動きがとれないのも事実だ。ここはあまりにも狭すぎる。その上、彼は羽交締めにされていた。1 #4215tk
2015-11-16 17:48:07体感では人一人が入るのがやっとという広さの空間。それにも関わらず、四季の背後にはたしかに気配があり、彼が不要な動きをとるのを封じている。「いい子。そのままじっとしていて」耳元で女の声が囁く。背中に密着しているのだろう。生暖かい感触が伝わってくる。2 #4215tk
2015-11-16 17:51:05『ええと』四季はひとまず念話を試みる。びくり、と背後の怪異が震えた。「念話できたの、あなた」『一応。それはともかく、あなたはいったい何者なんですか?なんで俺をこんなとこに?』「ひーちゃんの中をこんなとこ扱いしないで」不機嫌にそう返される。3 #4215tk
2015-11-16 17:54:25がり、と肩に爪が食い込み、四季は顔をしかめた。「質問には答えてあげる。私たちは山ン本組の残党だよ。正確にはお母さん、だけど」『残党?』四季は少なからず驚く。巡以外にもそうした怪異がいたのか?「あなたを攫ったのは、お母さんが一度あなたに会ってみたいと言ってたから」4 #4215tk
2015-11-16 17:57:10『だったらわざわざこんなことしないでも、一言伝えてくれれば』「あなた馬鹿なの?あなたがそれでよくても、周りの奴らがどう反応するかくらいわかるでしょう」不機嫌そうな怪異の言葉に、四季は声を上げるところだった。よく考えれば、退魔師がそういうことを喜ぶとは思えない。5 #4215tk
2015-11-16 18:00:08「とにかく、あなたはもうそんな心配しなくていいの。もうすぐお母さんと会えるんだから」クスクスとした笑い声。それと同時に揺れが止まった。「着いた。少しここで待ってなさい」怪異の声と同時に、背後から明かりが差し込む。背中の気配が離れ、明かりの中へと消えていく。6 #4215tk
2015-11-16 18:03:10明かりはあっという間に消え、四季は闇の中に取り残された。身動きがとれないほどに狭い。『お前も災難だな』突然脳裏に響いた声に、四季は息を呑む。『ど、どちら様?』『お前とは面識がある。そちらの幽霊と退魔師には世話になった』その言葉で四季は相手の正体を悟る。7 #4215tk
2015-11-16 18:06:09『あの時捕まってた怪異さん?』『……まあ、そうだ。小護 曳子(こもり ひきこ)という』『ど、どうも。よろしくお願いします……?』思わず間の抜けた言葉を返してしまった。四季としては、あの怪異がなぜ自分に話しかけてきたのかがわからない。気まずい沈黙が広がる。8 #4215tk
2015-11-16 18:09:07『そう身構えなくてもいい。少なくとも奥方様はお前の命を取ろうなどとは思うまいからな』『は、はあ。それはよかったです』脈絡なく再開される会話に、四季は戸惑いながらも返事をくる。曳子は淡々と念話を送ってきた。『ありうるのは……娘のうちの誰かにお前を預けることだろう』9 #4215tk
2015-11-16 18:12:12預ける。四季は思わず眉をひそめた。『なぜそう思うんですか?』『お前のような力の持ち主を、ただ食うことはありえない。今でさえ霊気を周囲に放っているしな』愕然とする彼に気づいたか、曳子がくぐもった笑い声を響かせる。『体の中に入れているとよくわかる。暖かいからな』10 #4215tk
2015-11-16 18:15:09『体の中』四季は反復し、微妙な表情を浮かべる。『その……今、俺、どういう状況になってるんです?』『だから私の体内に……ああ、そうだな。言い方を変えよう。カバンの中に詰め込まれていると思えばいい。間違っても暴れてくれるなよ。こそばゆいからな』11 #4215tk
2015-11-16 18:18:12元より四季にそのつもりはない。最小限のスペースしかないのだから、無駄に動いても疲れるだけだ。『体内って、どういう原理で……?たしかに小守さん大きかったですけど、人間一人中に入れると目立つんじゃないですか?』『そこはご主人の術の賜物だ。収納術が得意でなあ』12 #4215tk
2015-11-16 18:21:06どこか自慢げな曳子の声に、四季は気の抜けた相槌を打つ。なんというか、カバン扱いされるのはそこまで嫌ではないのだろうか……そんなことをつらつら考えていた最中「お待たせ」唐突に光が差した。思わず眼を細める内に、首根を掴まれ引きずり出される。「ぷはっ!」13 #4215tk
2015-11-16 18:24:13猿轡を外された四季は勢いよく息を吸う。そして引きずり出した相手を見た。白髪の怪異。「来て。お母さんが待ってるから」そう言われると同時、肩を誰かに掴まれる。見上げると濁った目があった。曳子だ。彼女は遠慮なく四季を引きずり始める。どこともしれぬ闇の中へと。14 #4215tk
2015-11-16 18:27:17