グラウンド・ゼロ、デス・ヴァレイ・オブ・センジン #3
(あらすじ:私立探偵タカギ・ガンドーは、殺戮魔デスドレインに身を寄せていた少女アズールを様々な経緯の末に保護し、行動を共にする事となった。目的は、キョート軍が戦争で用いようとしているニンジャ戦力の無力化、特に、デスドレインの殺害だ) pic.twitter.com/PPbY0stGT6
2015-11-22 14:13:56(キョート軍はニンジャの自由意志を抑制し、戦力として用いる手段を得ている。それが「カブキ」だ。デスドレインはカブキに捕えられ、他のニンジャ達とともに、戦場であるヴァレイ・オブ・センジン地域の前線に運ばれてきている。行きつく果ての破滅をガンドーとキョート元老院の一人は危惧している)
2015-11-22 14:17:18(ガンドーとアズールは荒野からキョート側前線に接近、潜入間近である。一方、ネオサイタマ側前線では、アマクダリ・セクトの重鎮ハーヴェスターが連れて来た六人の精強なるアマクダリ・ニンジャが行動を起こそうとしている。キナ臭くなってきた) pic.twitter.com/zRCBjdtK4K
2015-11-22 14:22:59「焦れておる。万端か?」「そのはたらきは満足のいくものとなるか?」「我らの期待はわかるか?」「期待?どうだかな……犬畜生と変わらぬのでは?」「なに、腐ってもニンジャよ。殺し方には詳しかろう」闇の中、赤い縞模様の隈取りを施した白塗り顔の男を囲むように、少年少女の姿が浮かび上がる。1
2015-11-22 14:27:53隈取りの男は勘定を表にあらわさず、円状に彼を取り囲む少年少女たちの囁きに、無言で耳を傾けている。「キョートは深く傷を負った。ネオサイタマの汚い計略もさることながら、まさにあの、デスドレインによってもだ。傷ついた我が国の誇りは、あれを自在に支配し、過酷に用いる事でこそ回復できる」2
2015-11-22 14:35:52「ワシはさほど興味なし」発言した少女に、別の少年が顔を向けた。「あれが過去にどれほどの惨禍を引き起こしたとも、所詮は過去の遺物、出涸らしよ。今更あれこれ取り沙汰する必要もわからぬ」「余興としてはなかなか」別の少女が嫌味たらしく笑った。「アキラノ=サンにも名誉回復の機をやらねば」3
2015-11-22 14:39:33「ありがとう存じます」隈取りの男が素早く感謝した。少年少女はクスクス笑う。異様な光景である。この隈取りの男こそがアキラノ。アキラノ・ハンカバ。カブキの長にして、キョート共和国軍の特務機関を統べる者だ。では周囲の少年少女は?間近で見ればわかるが、これらは生身の人体ではない。4
2015-11-22 14:43:55これらは精巧なオイランドロイドである。華奢な身体、水晶めいた目に電子的に紐づいて、遠く離れたキョート・ガイオンから、実際の「彼ら」はこうして最前線のカブキザの闇の中に座するアキラノを観察し、語り掛けている。彼らはキョートの謎めいた支配階級、元老院を構成する老人達の何人かである。5
2015-11-22 14:48:43「どちらにせよ、このたびの働きが、さまざま決めるであろうの、アキラノ=サン」「勿論でございます」アキラノは無感情に答えた。少年少女の身体は笑いながら下へ沈んでいった。やがて淡い灯りがともり、八角形のドージョーの中でアグラするアキラノの周囲の仕掛け床の蓋が閉じた。 6
2015-11-22 14:55:32「……」アキラノは右手で床板を打った。すぐそばに寝かせてあった薙刀ブレードが撥ね上がった。アキラノはそれを素早く掴み取り、アグラ姿勢のまま垂直に1メートル跳躍、片足立ちで着地し、肩の上でそのただならぬ薙刀ブレードを回転させたのち、ぴたりと静止した。その目は見開かれていた。 7
2015-11-22 14:58:55「お前さん、あとどのくらいで帰国だ?」「まだ来たばっかりさ。三か月は帰れないな」「ご愁傷!」連れ立って歩く兵士に、屋台商人が声をかける。「エッチ!ヘンタイだよ。お客さん、そろそろ欲しいだろう。ポルノ・ヘンタイ、ポルノ・カセットテープ、魔法の薬もある。合法なお酒あるよ。キくよ」9
2015-11-22 15:04:02「久しぶりだなイキジ=サン」キョート兵の一人が商人に声をかけた。既に名前も覚えている。「ドーモ。村とここ、行ったり来たりよ。仕入れも危険よ。最前線」「映画ある?」「ある、ある。ヨセミテ・サムライ・ウォーズこれね。これいいよ。映像ほとんど乱れてない」「タバコは?」「あるよ貴重」10
2015-11-22 15:06:36「じゃあタバコもらおうかな」「映画は?」「今日はいいや」キョート兵は思案の後に言った。イキジは顔をしかめた。「この後また一回帰るよ私。今しかないよ。ヘンタイ買いだめしとく?」「またすぐ来るだろ」「ラインナップ変わるよ」「便箋あるか」もう一人のキョート兵が尋ねる。イキジは頷く。11
2015-11-22 15:11:55「手紙書くか?恋人に?」「親にね」「そりゃこの最高級便箋でバッチリよ。ペンも要るですろうが。書き味クセになるよ。インクもあぶって吸える」「それ、もらおうか」手渡される素子。バッテリーエンジンがゴンゴンと鳴っている。「……」「……」付近の藪の後ろからその様を見守る二人の影あり。12
2015-11-22 15:15:54兵士たちが談笑しながら行ってしまうと、ガンドーとアズールは無言で目を見かわし、隣り合う別の屋台の陰へ滑るように移動した。彼らの衣服は煤と泥で汚れている。アズールの獣に穴を掘らせ、金網の内側へ入り込んだばかりだ。ここまでは順調に来ているが、前線基地は非常に広大だ。13
2015-11-22 15:23:57彼らが今いるのは、数少ない認可行商人の屋台村だ。広場ではキョート兵達がケマリ・リフティング遊びやサッカーに興じている。ガンドーはバラック兵舎の方角を見やった。彼は懐から特殊な小型感知器を取り出し、コマンド・マトイの電波反応を探ろうとする。 14
2015-11-22 15:28:27マトイとは長い竿の先端に通信機と短冊状のアンテナを備えたUNIX装置だ。その名称は、江戸時代の火消しが用いた同名の神秘的な物体に由来している。火消しはキョートにおいて由緒正しき階級であり、オカモチとも呼ばれた。時を経て、火消し道具はニンジャの荒ぶる火を御する呪物となったか。15
2015-11-22 15:35:57カブキはマトイの信号を「マジックモンキー」の首輪に送信、自由に操作する事がわかっている。ガンドーに首輪は無いが、ニューロンに同系統の影響を受けている。まずはこの発信源を排除する。マトイを失えばマジックモンキー達も影響を脱するが、彼らは二重の防御として脳に爆弾が仕込まれている。16
2015-11-22 15:41:22ガンドーは己の生体LAN穴を指でなぞる。マトイからUNIXをハックし、マジックモンキーを遠隔操作で一網打尽にする可能性も検討したが、そうした多重の防御策を破るのは至難であろう。作戦は幾つか考えてある。どれも危険なスタンドプレーだ。(ZBRねえかな)ガンドーは心の中で呟いた。17
2015-11-22 15:44:49「ドマ=サン、交替です」「コンギ=サン、ご苦労様です」兵舎エリアの一角で、キョート兵同士が古式ゆかしいアイサツを交わした。ドマはアサルトライフルを弄びながら、屋台村エリアに歩き始めた。欠伸を一つ。その欠伸が止まった。道を横切り、建物の陰に制服姿の女子高生が消えたのだ。「夢?」18
2015-11-22 15:50:47ドマはひとり頷いた。「夢だな」彼はそちらの方向へ足早に歩いていく。いよいよ脳がやられたと見ていいだろう。ドマは自虐的に考えた。皆どんどんおかしくなる。早く帰りたい。「ちょっとお前、女子高生だろう」ドマはライフルを構え、建物の陰に走り込んだ。その襟首を、ごつい手がグイと掴んだ。19
2015-11-22 15:53:31「アイッ」ドマの口を、ごつい手が塞ぐ。「エ」ごつい手が力を込めると、ドマは意識を失い、ぐったりとガンドーにもたれた。「……」ガンドーは建物の中にドマを引きずり込んだ。薄暗い倉庫だ。ドマも十分大柄だが、ガンドーにはやや負ける。「着れねえ事もねえ」ガンドーは呟き、衣類をむしった。20
2015-11-22 15:57:35「いいか?合流ポイントだ」ガンドーは既に入手済みの前線基地地図をアズールのものと突き合わせ、印をつけていった。「派手にやるのは……少なくとも今は……無しだぞ」ガンドーはヘルメットを被り、言った。「ここには何人もニンジャが居るんだ。それがどう出るか」アズールは無言で頷いた。21
2015-11-22 16:01:18再び彼らは薄暗い倉庫から太陽の下に出た。ガンドーは自信たっぷりに歩き、時折すれ違うキョート兵に会釈で応じた。アズールはそこからやや離れた地点を滑るように身軽に進む。ニンジャの黒いマントが彼女の姿をよく隠す。なにより制服姿の少女をこのような地で現実のものとして捉える者はいない。22
2015-11-22 16:09:06