ドゥルーズの解釈よるフーコー権力論 と質疑応答 by國分功一郎さん

ドゥルーズの解釈よるフーコー権力論についての國分功一郎(@lethal_notion)さんのツイートと、それに対する質疑応答です。
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KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

ゼミでずっとフーコーの『狂気の歴史』を読んでいる。この本は本当に難しいが、本当に面白い。いまは、フーコーの本の中で一番すきだ。今日やったところは、18世紀の狂気の認識の話。

2011-01-18 19:14:47
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

17世紀では、狂気はその統一性を疑われていない。18世紀では、狂気が何なのかは分からないという話になる。しかし、狂気が識別不可能な領域に追いやられたわけではない。別の対象がせりだす。

2011-01-18 19:17:33
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

それが、狂気ならぬ、狂人。狂気は何だかよく分からないが狂人は狂人扱いされる。フーコーは、そこに怒りの一言。18世紀は、狂気の識別不可能性を白状しておきながら、あまりに性急に、そしてあまりに自分勝手なやりかたで、狂人を識別しようとした。「自分勝手」はフーコーの言葉。

2011-01-18 19:19:24
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

しかも、その識別の基準と言ったら、他の人たちと同じように行動できないということ。つまり、「なんか、あいつ、へんじゃね?」って感じでひとか人が狂人扱いされる。ヴォルテールの驚きが引かれているのだが、狂気が何かは分からないくせに、民衆は狂人を平気で施療院に送り込む。

2011-01-18 19:22:42
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

そうだ、それと合わせて、今日のゼミでは本当に恐ろしい話を聞いた。ゼミ生がハンセン氏病について発表した。日本でこの病の患者が、身の毛もよだつような扱いを受けてきたことは少しは知っていた。しかし、俺が知っていたのは、法律であり、政府の対応だった。

2011-01-18 19:25:14
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

今日聞いたのは、「無ライ県運動」という運動だ。これは、自分たちの県から、この病の患者を無くそうという運動で、1929年ぐらいから盛んになったらしい。

2011-01-18 19:27:01
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

想像できるだろうが、民衆が、犯人でも探すように、自宅で療養している患者を、警察とも連携しながら、次々に当局に告げ口していくのである。匿名の投書。あたかも、人が知らない何かを知ったことを誇るかのように、そして、民衆的な運動に協力しているという自負まであったかもしれない。

2011-01-18 19:30:02
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

恐ろしい。権力は下からくるというフーコー的なテーゼを、こんなに適切に、こんなに不愉快に例証してくれる事例が他にあるだろうか。ほんとに吐き気がする。

2011-01-18 19:34:59
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

よく、保育園なんかで、「個人情報保護法の観点から誕生日の日付は掲示しません」なんてことがあるのを皆さんご存知か。あれは苦情によってもたらされる事態。つまり、そういうことを主張するやつがいるということ。しかし、

2011-01-18 19:38:28
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

誤解してはならない。苦情をいう人間は、自分の子どもの誕生日が掲示されるのがイヤだからそういうのではない。

2011-01-18 19:39:19
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

彼ら、彼女らは、「そういうのは、個人情報保護法からみると問題があるんですよ」と知識人ぶったことが言いたいのだ。そういう、くだらない欲望が様々な自主規制を生み出していく。

2011-01-18 19:39:48
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

去年、旧東独で秘密警察のスパイだった前衛芸術家のインタビューを見た。彼はこう言っていた、少しでも人に対して高みに立ちたいと思っている人間なら、みんな喜んで協力したでしょう、と。つまり、お前らは知らないけど、俺はうらで秘密警察とつながりがあるんだぜ、というそれだけのことが、

2011-01-18 19:43:59
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

ひとに優越感を与える。そして、人間はそんな優越感のために、平気で秘密警察にひとを売る。「あいつは、そっそりあそこで反政府運動をやろうとしてますよ」と密告する。

2011-01-18 19:45:26
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

これは、「人間は隷属のために命をかけて戦う」という、スピノザが神学政治論で提起した問いに直結する話だろう。本当に気分が悪い。しかし、政治論は、その領域、つまり、ドゥルーズがいう、欲望のアレンジメントの領域にまで手を伸ばさねばならない。

2011-01-18 19:48:29
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

驚くべきことは、盗みがあることでも、ストライキが行われることでもない。虐げられた人々が必ずしも盗みをしないということ、搾取されている人々が必ずしもストライキをしないということだ(アンチオイディプス)。

2011-01-18 19:50:14
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

なぜ人々は「パンを切りつめてでも、もっと多くの税金を!」と叫ぶのか?(アンチオイディプス)

2011-01-18 19:51:05
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

なお、2月2日水曜日の補講でのドライヤー上映会は、この辺りの、人間のイヤなところについて徹底的に考える場にしたいと思います。学生の皆さん、一緒に考えましょう。

2011-01-18 19:55:29
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

ドゥルーズが『フーコー』の中で、フーコーが「汚辱に塗れた人々の生」で取り上げた封印状lettre de cachetに注目しています。これは、令状みたいなもので、これがあると、厄介者を監禁したりできる。

2011-01-19 08:49:55
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

で、ドゥルーズがなぜこれに注目するかというと、この封印状は権力者が上から民衆を抑圧する為に使うんじゃなくて、「慎ましやかな人々」、それこそ民衆が、取るに足りない厄介者を厄介払いするために、権力に、お上に、お願いして発行してもらうものだからです。

2011-01-19 08:53:05
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

排除はこうした下からの作用によって発動する。

2011-01-19 08:53:59
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

でも、ここで俺としては突っ込みたい。フーコーの権力論で一番有名なのは『監獄の誕生』だけど、あの本には、「慎ましやかな人たち」によってこそ権力は欲望され、排除が駆動されるという視点はあるだろうか?

2011-01-19 08:56:17
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

ドゥルーズはフーコーの権力論として『監獄の誕生』を最も評価していたけど、それこそ、封印状の話はあそこではなくて、「汚辱にまみれた…」の中にでてくるわけです。

2011-01-19 08:57:51
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

『監獄の誕生』は、どこか、権力は上からくるという印象を読者に与えるところがある。「フーコーによれば権力は下からくる」というもはや呪文のようになった決まり文句には実はさほど根拠はない。入門書程度の知識しかなくて、フーコーの本を熟読してないひとが言ってるだけ。

2011-01-19 09:04:31
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

実のところフーコーには非常に古典的なマルクス主義的発想が残っているように思われる。だから、「ポストモダン的権力論で支配の問題を脱色してしまった」という類のフーコー批判はなんかピントがずれてる。むしろフーコーは支配と被支配という図式を頑なに信じていて、そちらの方が問題じゃないか。

2011-01-19 09:04:33
KoichiroKOKUBUN國分功一郎 @lethal_notion

むしろ、支配の問題を脱色するような権力論というのは、ドゥルーズによって解釈されたフーコー。下からくる、中心はない、本質もない…これらは全部ドゥルーズが言ったこと。

2011-01-19 09:06:05
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