浜風の小さなクリスマスプレゼント

竹村京さん(@kyou_takemura)の書いてくださった、落ちぬい二次創作です。 今回は浜風のクリスマス時のお話。 ほのぼの小市民主婦な浜風の一幕と愉快な仲間の情景をお楽しみください。 続きを読む
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竹村京 @kyou_takemura

消灯時間になり、浜風は自分の部屋に戻った。しかし浜風はなかなか寝付けず、なんとなく浦風に勧められた色付きリップクリームを塗ると、カーディガンを羽織りクッションを抱えて外に出た。#落ちぬい二次

2015-12-26 00:40:41
竹村京 @kyou_takemura

さっきの十七駆プレゼント交換会で提督からのプレゼントだと渡されたブローチはどうしようか迷ったけれど、パジャマにカーディガンの時に着けるのはもったいないのでまた今度に取っておくことにした。#落ちぬい二次

2015-12-26 00:41:55
竹村京 @kyou_takemura

外に出る目的はあったはずだが、夜風に流されるように歩いているといつの間にか空き地で空を見上げていた。 今日は満月。星の光は皓皓と輝く月の光に圧されていたが、澄んだ夜空にきらきらと瞬く光はとてもきれいだった。#落ちぬい二次

2015-12-26 00:42:52
竹村京 @kyou_takemura

――明日は風が強そう。 星が瞬くと風が強い。古くから言われている事だが、上層大気によって星の光が乱されるという単純な原理だけに的中率は高い。#落ちぬい二次

2015-12-26 00:43:46
竹村京 @kyou_takemura

「浜風!」 その声に振り向くと目の前に何かが飛んできた。 「わ、わっ!」 とっさに顔をかばった手の平に、それは見事に吸い込まれていた。缶のコーンスープだった。こんなことをするのは一人しかいない。#落ちぬい二次

2015-12-26 00:45:04
竹村京 @kyou_takemura

「危ないじゃないですか、提督!」 「顔に当たってたら訓練不足で神通に預けてたとこだよ」 兵頭一也は悪びれもせず、自分の分のコーンスープを弄びながら浜風の隣に腰を下ろした。#落ちぬい二次

2015-12-26 00:46:46
竹村京 @kyou_takemura

「星見か?」 「はい」 「しばらくご無沙汰だったよな」 「今は星を見なくても仲間と一緒ですから」#落ちぬい二次

2015-12-26 00:48:35
竹村京 @kyou_takemura

もともと浜風の星見の習慣は離れ離れになった第十七駆逐隊の仲間たちと同じ空を見るために始まったことだ。だから兵頭が無理矢理に第十七駆逐隊を自分の指揮下に編入したことでその必要性はなくなっていた。 「じゃあ今夜はなんでまた?」 「……なんとなく、です」#落ちぬい二次

2015-12-26 00:50:26
竹村京 @kyou_takemura

小さな嘘。 本当は星見には仲間たちを想う事の他にもう一つ理由があった。時折残業から逃げ出してくる兵頭と、こうして二人きりになれるからだ。 「ぼけっと空を見たくなる時ってあるよな、わかるわかる」#落ちぬい二次

2015-12-26 00:51:55
竹村京 @kyou_takemura

――全然わかってないんだから。 浜風は兵頭のこの鈍さがもどかしくもあり、好きでもあった。 「昼間十七駆で外出してたよな。どうだった?」 「ラーメンを食べて、ショッピングしてきました」 「ラーメン? 磯風もか?」 「そうですけど」#落ちぬい二次

2015-12-26 00:52:53
竹村京 @kyou_takemura

「あいつ俺が奢ってやった時にすげえ女子アピールしてたんだぞ」 昼間磯風から聞いたことを兵頭からも聞いて、思わず小さく笑う。 「女子同士だったらいいんですよ」#落ちぬい二次

2015-12-26 00:54:35
竹村京 @kyou_takemura

浜風もたびたびラーメンを奢ってもらってはいるが、やっぱりラーメン屋よりおしゃれなお店の方がいいとは思っている。いつぞやのような高級ホテルは、ちょっと困るけれど。 「そのあとショッピングか。なんか買った?」#落ちぬい二次

2015-12-26 00:55:53
竹村京 @kyou_takemura

「雑貨を少し。浦風はコートを買わせようとしてましたけど」 兵頭は隣の浜風に遠慮することなく煙草に火を付ける。一口吸ってから言った。 「コートは俺も買った方がいいと思うぞ」 「でも年末で安くなるならもうちょっと待てばもっと安くなるかもじゃないですか」#落ちぬい二次

2015-12-26 00:58:05
竹村京 @kyou_takemura

「その結果が売れ残りスキーウェアだろ?」 「うぐ……」 浜風が持っている防寒着は、制服の上に羽織れるカーディガンを除けば派手なスキーウェアしかない。今日の外出でもコートは浦風のものを着せられていたのだ。#落ちぬい二次

2015-12-26 00:59:26
竹村京 @kyou_takemura

「な? 不知火みたいにしょっちゅう買い替えなくても何年かは着れるんだしさ」 「け、検討します」 浜風は恥ずかしくなって、抱えていたクッションに顔をうずめる。そこではたと思い出した。#落ちぬい二次

2015-12-26 01:00:50
竹村京 @kyou_takemura

「そうだ。これ、兵頭さんに」 兵頭にクッションを差し出す。星見のあと、工廠に併設された提督臨時公室に渡しに行くつもりだったのだ。 「ん、俺に?」 「はい、クリスマスの」 「くれんの?」 「ど、どうぞ」#落ちぬい二次

2015-12-26 01:02:12
竹村京 @kyou_takemura

兵頭はクッションを無造作に受け取る。片手で受け取る兵頭も兵頭なら、プレゼントを剥き身で抱えていた浜風も浜風である。 「手作り?」 クッションは雑多な布のパッチワークで出来ていた。 「はい。余りの材料で作ったんです。ほら、秋祭りの時の十七駆人形の残りで」#落ちぬい二次

2015-12-26 01:03:52
竹村京 @kyou_takemura

鎮守府秋祭りで浴衣を着ていた浦風が持っていた十七駆のぬいぐるみの事である。 「あーあれか。評判良かったぞ、どこで売ってるんだって問い合わせが結構来てたらしい」#落ちぬい二次

2015-12-26 01:05:23
竹村京 @kyou_takemura

普通の艤装展示ではなく、浴衣姿の浦風が可愛らしいぬいぐるみを抱いて登場したものだから、ちょっとしたファッションショーの様相を呈していた。 なおその評判を聞きつけた谷風は早速電卓を弾き始めたが、広報で利益を出してはならないという原則により却下されている。#落ちぬい二次

2015-12-26 01:06:34
竹村京 @kyou_takemura

「ふうん、立派なもんだ。器用なんだな」 「祖母に習ったので裁縫は得意なんです」 「そか。ありがとな。お返し何がいい?」 「そんな、いいですよ。ありあわせの材料ですし」 「貰いっ放してのは居心地わりぃんだよ。何でもいいから言ってみろ」 「本当に何でもいいんですか?」#落ちぬい二次

2015-12-26 01:07:43
竹村京 @kyou_takemura

――ずっとあなたの一番近くにいたい。 その思いが声になるのを、ぐっと我慢した。 「じゃあ、これで」 差し出したのは飲み終えたコーンスープの缶だ。 「コンポタ?」 「また次の時に奢ってくれるって、約束して」 そう言って、浜風は小指を差し出す。#落ちぬい二次

2015-12-26 01:09:27
竹村京 @kyou_takemura

「おう。じゃあ、約束だ」 兵頭はぎこちなく小指を絡ませる。 「はい、約束です」 浜風はゆびきりげんまん、と歌い、名残惜しそうに指を解く。#落ちぬい二次

2015-12-26 01:10:42
竹村京 @kyou_takemura

かすかな物音でさえ何かが壊れてしまいそうな、繊細な沈黙。それを破ったのは無遠慮な電子音だった。 「やべ、サボり時間終了だわ」 兵頭がスマートフォンのアラームを止めて腰を上げる。#落ちぬい二次

2015-12-26 01:11:52
竹村京 @kyou_takemura

基本的にどんなに仕事が溜まっていようとサボる時には平然とサボる兵頭がサボり時間を制限するタイマーまでかけているところを見ると、相当な仕事が溜まっているらしい。 「まだ残業あるんですか?」 「山のようにな」#落ちぬい二次

2015-12-26 01:13:19
竹村京 @kyou_takemura

兵頭は両手で書類の山を表現してみせるが、実際に数日分では利かない決裁書類と報告書が溜まっているのを浜風も見ている。 「私も手伝えればいいんですけど……」 「やめとけやめとけ。こういうのは大人の仕事だ。んじゃ、またな」#落ちぬい二次

2015-12-26 01:14:23