定説・教科書・常識との向き合い方・・・「前提」を問い直す

「常識を疑え」「教科書をうのみにするな」は健全な批判精神のように思われる。だが、すべてを疑うと新しい発見をするどころか、確認済みのことを何度もやり直す、無駄なことになってしまう。時間を浪費せずに新しい発見をするには「前提」を問い直すのが効果的だ。
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shinshinohara @ShinShinohara

私の名前は「信」であるためか、何を信じたらよいのか、をずっと考え続けている。科学的事実は信じるに足るように思われがちだが、これも何度か裏切られている。リンゴの切り身が茶色になるのは鉄が酸化するから、筋肉が疲れるのは乳酸が貯まるから、という話もみんなひっくり返っている。

2016-02-01 12:18:46
shinshinohara @ShinShinohara

リンゴが茶色くなるのはポリフェノールのせいになり、筋肉にたまる乳酸は疲労を回復させるため、と、話が全然違ってしまっている。その他、無害と信じられたフロンがオゾン層に穴をあけ、夢の物質だったPCBは有害とされ、アスベストは中皮腫の原因。「科学的事実」はどんどんひっくり返っている。

2016-02-01 12:19:10
shinshinohara @ShinShinohara

こんな興味深い話もある。燃料電池車の開発には水素の貯蔵が大切。しかし水素はとても小さな分子なので金属の容器に貯めても通過してしまう。しかも金属を脆くする「水素脆化」という現象が知られていた。水素が金属を脆くするというのは、金属の専門家には教科書的常識だったという。

2016-02-01 12:19:25
shinshinohara @ShinShinohara

ところがある研究者が「金属にたっぷり水素を浸み込ませたらどれだけ脆くなるのかな」と試してみたら、むしろ強くなった。しかも水素が全く通過しなくなった。金属を水素で飽和させると丈夫になり、水素も通さなくなるという逆転の現象が起きた。

2016-02-01 12:20:02
shinshinohara @ShinShinohara

こういう話をすると「常識を疑え、教科書を疑え」という話になりがち。しかし私は常識や教科書を疑う必要はない、と考える。水素脆化の話だって、普通の金属はやはり水素で脆くなるのだ。この「常識」を疑う必要はない。むしろ今後も忘れてはいけない科学的事実。

2016-02-01 12:20:53
shinshinohara @ShinShinohara

では、水素飽和すると金属が強くなる、という現象はどうやって発見できたのか?常識を疑ったのではなく、「前提」を見直したのだ。水素脆化は、水素にさらされたことのない金属では必ず起きてしまう現象。「では、水素にさらしたことのある金属なら?」と前提を変えてみたのだ。

2016-02-01 12:21:15
shinshinohara @ShinShinohara

教科書に書かれている科学的事実には必ず「前提」がある。万有引力だって「空気抵抗などの摩擦がない場合」という前提がある。強風が吹きすさぶ中で実験したら、リンゴだって空に舞い上がることもあり得る。真空という前提があるから万有引力の法則通りの結果が出る。

2016-02-01 12:21:47
shinshinohara @ShinShinohara

「前提」を問うと、これまでの常識を打ち破る発見が可能になる。リンゴが茶色くなるのは鉄が酸化するからだ、というかつての常識は、「鉄は酸化すると茶色くなる。リンゴには鉄が少量含まれる。だから鉄が茶色になるのが原因に違いない」という三段論法を前提としていた。

2016-02-01 12:22:08
shinshinohara @ShinShinohara

その前提をもう少し詳細に調べるため「リンゴを茶色く見せるほど鉄がたくさん含まれているのか?」を検討すると、前提が覆った。改めてリンゴを茶色にする真犯人捜しをすると、ポリフェノールだった、というわけ。

2016-02-01 12:23:42
shinshinohara @ShinShinohara

筋肉が疲労するのは乳酸が貯まるからだ、というかつての常識は「疲れた時の筋肉には乳酸が貯まっている」という観察結果から生まれた。乳酸を筋肉注射したら疲労感が出る、という検証実験は誰もしていない。そこで最近、研究者はこの前提をきちんと検証してみた。

2016-02-01 12:24:48
shinshinohara @ShinShinohara

その結果、乳酸は疲労を癒す物質だという逆の話になった。「疲れた時は乳酸が増える→乳酸が疲労を感じさせる原因物質」という論理展開が誤りだったのだ。疲れた時に乳酸が増えるのは事実だが、乳酸が増えるから疲れる、というのは原因と結果を取り違えていたのだ。

2016-02-01 12:25:34
shinshinohara @ShinShinohara

フロンガスが無害だと信じられていたのも「人体に対する影響だけを考えた場合」という「前提」があった。アスベストが安全だと思われていたのは「短期間での影響を調べる限りでは」という「前提」があった。その前提を精査し、未検討部分をやり直してみると、新事実が浮かび上がったのだ。

2016-02-01 12:26:21
shinshinohara @ShinShinohara

数学の証明問題を思い浮かべてみよう。「これこれの条件が成立する場合、何々という式が成り立つことを証明せよ。」必ず前提が設けられている。前提が覆ると、証明できる式も違ってしまう。科学の法則が成り立つには、必ず「前提」が置かれているものなのだ。

2016-02-01 12:26:41
shinshinohara @ShinShinohara

そして「前提」を精査すると、まだ未検討の内容が残されていることに気づくことが多い。「鉄はさびる」ということは常識だが、その前提には「鉄はそんなに純粋なものを使っていない」事実が隠されていた。その前提を精査し、超純粋な鉄を調べると、さびないという新事実が見つかった。

2016-02-01 12:27:35
shinshinohara @ShinShinohara

科学の新発見をしたいなら、「前提を精査する」ことを意識してやってみるとよい。「常識」や「教科書」を疑う必要はない。金属が水素で脆くなる現象まで疑い出したら、過去の先輩たちの実験結果を復習するだけで終わる。時間の無駄だ。

2016-02-01 12:28:12
shinshinohara @ShinShinohara

しかし、まだ先輩たちが検討していない「前提」条件があるなら、話が違ってくる。前提が違うと結果が違ってくることが多い。まだ検討されていない「前提」は何か。そこに着眼すると新事実が浮かび上がる。

2016-02-01 12:28:36
shinshinohara @ShinShinohara

だから私は、どんな前提条件の制限下にある話なのかに注意をする。その前提条件で起きることは、そのまま信じる。しかしまだ未検討の前提条件があるなら、試してみる。そうすれば、信じるべきこととまだ信じられないこととを、区別できるようになる。

2016-02-01 12:30:01
shinshinohara @ShinShinohara

前提条件さえきちんと把握すれば、これまでの常識は一応信じて構わない。しかし前提条件が違えば結果が違ってくる。何を前提条件としているのか。それをきちんと把握することが大切だ。

2016-02-01 12:30:26